第78話 ベッドの上【吉瀬来那side】
「来那、本当に顔色悪いよ」
レバニラくんの姿が見えなくなった途端、萌子は視線をわたしに向け、そう口にした。
「えっ。本当?」
「うん。今日はホテルに帰ろうよ。ラーメンは明日でも食べられるよ」
そう言って、わたしの返事を聞く前に、踵を返す。
無言で萌子の背中を追うしかなかった。
ホテルに戻る前に、下にあるコンビニに寄って、夕ご飯を買うことにした。わたしはサンドイッチ、萌子はおにぎりを選んだ。奮発して、ちょっとお高いアイスも買った。
部屋に戻ると真っ暗だったので、慌てて電気を付けて、クーラーを入れた。
「わたしがライバーをしていたときは、リスナーと会ったことってなかったなぁ」
なんとなく、そんなことを口走ってしまう。
「……」
「レバニラくん、好青年で良い人だったね」
「……」
「本当にそう思っている?」
萌子が冷蔵庫にアイスを入れながら、そう言った。
「なっ」
図星だった。なんでバレたんだろう。
「来那の顔、暗いから……」
萌子にはすぐに見抜かれてしまう。
「……ごめん。本当は嫉妬してた」
わたしは観念した。
「……」
「今日一日、萌子と一緒に過ごせて楽しかった。でも、突然レバニラくんが現れて、戸惑っちゃった。前から萌子を応援してくれていたリスナーとのやり取りを見て、素直に『良かったね』って思えなかった自分がいたの」
「来那らしくないね」
「ははっ。そうかな」
萌子はわたしを買い被りすぎだ。
わたしだって嫉妬するし、彼女が異性に向ける嬉しそうな顔を間近で見てたら、清廉潔白でなんていられない。
「——来那は人気者で求められる立場だから、わたしになんて嫉妬しないと思っていた」
なんて悲しそうな目で言うのだろう。
萌子は泣きそうな顔になっていた。
たまらず、わたしは彼女の元へ歩み寄り、そっとキスをした。
「するよ。めちゃくちゃ!」
萌子は自己肯定感が低いように思う。
もしかして、わたしに好かれている自信がないのだろうか。
「萌子が言う通り、わたしが人気者だとしたら、その中で本当に心が通い合っている人って何人いるのかな。……本音を話せる人って意外と少ないよ」
不安にさせてしまっているのなら、もっともっと近づいてしまってもいいんじゃないか。
「萌子には、わたしの見える部分だけじゃなくて、心の奥にある想いにも気づいてほしいな」
彼女の肩に優しく手を置いた。
「——そして、わたしも、萌子の心の奥にある気持ちを、もっと知りたいと思ってる」
「うん」
萌子が、わたしの腰に手を回した。それが合図のように再び唇が触れ合う。
「んっ」
そっと触れるだけのキスはじれったくて、深く求め合うように唇が絡んでいく。
萌子の吐息が部屋に響く。体の奥がじんわりと熱を持ち、思考はかすんでいく。
どちらからともなく身を預けるようにして、自然と二人でベッドに倒れ込んだ。舌は絡み合ったままで、萌子の熱っぽい体温にあてられていく。
彼女のカーディガンに手をかけて、そっと脱がせる。シーツと布の擦れる音さえ遠く、わたしの意識は萌子にだけ向かっていた。白くやわらかな肌に触れると、安心することができた。
「ひゃっ」
「ここ、名前消えた?」
ワンピースのすそに手を伸ばし、露わになった萌子の太ももに指が触れる。『来那』の名前は、もうどこにもなかった。
「残念」
指先で太ももをなぞるように撫で上げ、さらにスカートを押し上げる。その瞬間、萌子が小さく身をすくめた。
あれ? ……何このヒモ?
萌子のワンピースの裾から、かすかにピンク色の細いリボンのようなものが覗いていた。
好奇心をくすぐられ、そっと布をめくると——彼女が紐パンを身につけていることに気づいた。
ええっ!?
色っぽい下着を履いていることに気づいて、つい手が止まった。
萌子は顔を伏せていて、どんな表情をしているのかはわからない。
これって、どういうこと——。
そのとき、室内にぐぅという音が響き渡った。それは、萌子のものだった。
「は、恥ずかしい」
スカートの裾をそっと整えると、彼女は顔を両手で隠してしまった。
まるで、穴があったら入りたいと言っているかのようだった。
追求したい。だけど、今のわたしには無理!




