第75話 北海道旅行スタート!【吉瀬来那side】
◇
<吉瀬来那side>
窓の外には、どこまでも雲のじゅうたんが広がっていた。機内は静かで、エンジン音だけがゴウンと響いている。
「もう、大丈夫だよ」
「……本当?」
隣には、目を閉じている萌子がいた。
汗ばんだ手が、わたしの手を離さない。彼女の緊張が伝わってきて、わたしはそっとその手を強く握り返した。
「良かった……」
萌子がホッと胸を撫で下ろす。
なにせ彼女は、初めて飛行機に乗ったということだった。
離陸直後は顔色が悪かったが、今はほんのりと頬が色づいていた。
——本当に二人で北海道旅行に来れちゃった。しかも、たっぷり2泊3日で。
高鳴る鼓動が、身体の隅々にまで響いていた。
萌子はモダンな黒いワンピースに青色の薄いカーディガンを着ていた。髪が一つにまとめられていて、いつもと違う様子に調子が狂う。
学校で隣同士のわたし達は、飛行機でも隣同士に並んで座っている。
ふふっ。
ふと、そんなことを考えては、笑みが溢れた。
「なに?」
萌子が眉を下げて、顔を覗き込んでくる。
「なんでもないっ」
「えー」
「ふふっ」
——そんなカップルっぽいやり取りが楽しかった。
この頃、萌子は山崎を構うことが多いから、一緒にいる時間が取れなかった。
どうやら彼女のマンションに行って、ライブ配信のアドバイスをしているようだった……。
……。
別にいいんだけどねっ。
放課後にクラスの人と話してても、宿題をしていても、萌子のことが気になって仕方なかった。
今日からの2泊3日は、萌子を独り占めにできる。
……いいよねっ。
「……鼻歌うたってる?」
萌子がそんなことを言った。
やばっ。無意識だった。わたし、きっと誰よりも浮かれている。
少し落ち着こうと、目を閉じて萌子の肩にこてんと頭をつけた。
昨夜は楽しみで眠れなかったせいか、手を繋いだまま、つい甘えてしまった。
「……あらあら」
CAさんが通ったタイミングで、そんな言葉が聞こえたような気がした。
今、高度何千メートルなのかな。……わからない。
そんな空の上では、誰の目も気にすることなく、ふたりきりでいられた。
◇
スプーンを手に取る前から、スパイスの香りが鼻先をくすぐる。鮮やかな赤褐色のスープの中、彩り豊かな野菜が見え隠れしている。その中で、ひときわ存在感を放っているのが骨つきチキンだった。
まずはスープを口に運ぶと、旨みの中にじわじわと辛さが追いかけてくる。ご飯との相性も最高で、食べる手が止まらなかった。
わたし達は、飛行機を降りた後、電車で札幌駅に移動をした。
北海道に来たらスープカレーを食べるって、萌子と前から決めていたんだ。
「美味しい!!」
「ねっ。初めて食べた」
普通のカレーとは全然違う食感で、スープカレーにはちょっと驚かされた。
チキンはスプーンを入れたら柔らかくほぐれていく。
美味しそうに食べる萌子を見て、愛おしい気持ちが湧き上がる。
甘いものが苦手な彼女だけど、辛いものは好きなんだ。
わたしは一つずつ、萌子のことに詳しくなっていく。
◇
食べ終わって店を出ようとしたとき、財布を取り出しかけたわたしを、萌子がそっと止めた。
「大丈夫。今回の旅行は、私が全部出すから」
「……」
今回の北海道旅行は、わたしと萌子がフタコンで頑張った成果として実現したものだ。
……わかってるよ! わかってるけど、でもなんかこれって……。
ヒモ彼女のようじゃない!?
萌子はパンパンに膨らんだ財布を取り出す。(……現金主義なんだ!)
店員さんから見たら、わたし達はどういう風に見えているんだろう。
恋人はおろか、いじめっ子といじめられっ子とかに見えてるんじゃないよね!?
少し体裁が気になってしまった。
わたしは居心地が悪い中、萌子の後ろにじっと佇んでいた。
◇
気を取り直して、次は予定通り、動物達とふれあえるのが売りのテーマパークに向かった。
中でも注目なのは、園内にキツネとふれあえるエリアがあるということだった。
今回の旅の、目玉イベントと言っても良い!
スケジュールの関係で、初日に組み込んでいた。
「か、か、かわいい……!」
目の前には、モフモフのキタキツネがいる。
萌子に頭を撫でられて幸せそうだ。目を細めて、うっとりとしている。
萌子の顔もとろんと、とろけている。……良かった。
ここに連れてこられて本当に良かった!
しみじみと思っていたら、「来那も触りなよ」と声をかけられた。
「……じゃあ失礼しまーす」
私が手を伸ばそうとしたら、さっと避けて、キツネはどこかに行ってしまった。
あ、あれー?
ぽつんと二人取り残される。
「……ごめん」
少し泣きそうになる。嫌われちゃったのかな。
「きっと、来那がかわいすぎて、びっくりしたんだよ」
キューン!!!!
気まずい雰囲気を打破するセリフだった。
も、萌子ーーー!!!!
「あっ。黒いキツネもいるね。ギンギツネだ」
萌子が構わず奥の方に進んで行く。すかさず、わたしもついていく。待ってよー!




