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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第73話 三笘鈴加<井戸川萌子side>

「ねぇ。もう一度、場所を変えてしなかったの?」


「へっ?」


「鈴加ちゃんとのキス」


「……できるわけないじゃないですか! それから話しかけても無視されるので……さすがの私も心が折れますよ」


「それでも、ちゃんと誠意を見せ続けないと! ヘラヘラ話しかけたら、バカにされた気がして、こっちも絶対に引き下がりたくなくなるんだからね」


「そういうものなんですかね……」


 山崎美音は、しょぼんとわかりやすく落ち込んだ。ぎゅっと膝を抱え、顔を足元に押しつけるようにしてうずくまっている。


「私は鈴加ちゃんと同じインドア派だから言うけど……キスってみんなから見られている前で、面白がってされたくないかな」


「……」


「鈴加ちゃんも、山崎美音のことを大切に思っているからこそ、そんな軽薄な行動に本気で怒ったんじゃないかな」


「……」


「例えば、山崎美音だって、みんなの前で鈴加ちゃんから強引なキスをされたら嫌でしょ?」


「……アリですね。むしろ興奮します」


 顔を上げて、堂々と言ってのける。


「……」


 今度は私が黙る番だった。


 そういえば来那とフタコンに出たとき、リスナーの前でキスされたことを思い出した。

 ……陽キャって、人目を気にせずキスできるものなの!?


「……まぁ。でも、今日の配信にも来てくれたんだよね。鈴加ちゃん」


「はい。そうでした。びっくりです」


「多分だけど、鈴加ちゃん。山崎美音のことは、そこまで嫌ってはいないと思うなぁ」


「先輩もそう思いますか?」


「うん。でも、オリーブオイルちゃんという仮の姿だからこそ、関わりやすいってのはあると思うけど……」


 私も、いどっちとして、来那と関わったとき息がしやすかったのを覚えている。


「——もしも、その後も遊びに来てくれるなら、いつかきっと山崎美音に自分が鈴加だってことを伝えたくなると思うよ」


 かつての私がそうだったように——。


「……そうなんですね。井戸川先輩は私にいろんなことを教えてくれますね」


 切なさをにじませながら、そっと微笑んだ。


「……もう少し、配信を続けてみようかなぁ」


「うん。応援してるよ」


 私はそっと背中を押した。


 相談に乗ることはできるけど、結局は二人の問題だ。私は見守ることしかできない。だけど、それで良いと思った。


 それからというもの、放課後はたまに、山崎美音の配信アドバイスをして、近くの図書館で一人宿題を終わらせてから、家に帰るルーティンができていた。意外にも、同じ高校の人が少なくて、穴場だと気づいてしまった。


 来那といちゃついたソファーの前を通る瞬間だけは、心臓が跳ねて、息をするのも忘れちゃう……。でも、表情には出していないつもりだから、誰にも気づかれていないと思う。


 ふと、図書館にライブ配信に関する本なんてあるのかなと思って、勉強の合間に館内を歩いてみた。


 ここが心理学のコーナーで、その隣が生物学……そして、えっと——。


「きゃ」


「わっ」


 前を向いていなかったからだろう。人とぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい」


 相手の人はすぐに謝った。


「こちらこそ、すいません」


 顔を上げると——あれ。見覚えがある顔だった。

 メガネで三つ編み姿。この子って、もしかして——。


 それは、山崎美音のマンションの前で見た女の子——三笘鈴加だった。


 相手も同じように私の顔を食い入るように見つめていた。


「……あの。あなたって、みーたんと一緒にいた人ですよね?」


 鈴加ちゃん——いや、本人を前にしてちゃん付けは馴れ馴れしいよね。

 ——三笘さんが、そんなことを言った。


「……みーたん?」


 聞き慣れない言葉に、つい尋ね返してしまう。


「あっ。その……」


 彼女は、しまったというように口元を手で押さえている。顔が真っ赤だった。


「みーたんは、山崎美音のことです。なにせ、ずっと、そんなあだ名で呼んでいたもので……」


 かわいいギャップだった。

 てっきり、山崎美音と同じように下の名前で呼んでいるものと思っていた。


 そっか。みーたんか……。


「じ、自己紹介が遅れました! 私は三笘鈴加と言います。みーたんとは、昔は幼なじみだったんです。今は絶交中で……話していませんが」


 知ってるよ。


 とは、さすがの私も口には出せなかった。


「私は井戸川萌子。えっと、山崎美音とは——」


 あれ。

 私たちの関係ってなんだろう。


「——成り行きで仲良くなった先輩と後輩って感じかな」


「なんですか。それは」


 すかさず三笘さんがつっこんでくる。

 じっとりとした目を向けられているのがわかった。


 山崎美音という接点しかない私たち。それでも、この会話はすぐに終わらなそうだった。


 周りの目を気にして、移動することにした。

 そう。私がこの前、来那と話したソファー……は、さすがに気まずかったので、別の椅子を選んだ。テーブル越しに三笘さんと視線を合わせる。


「——みーたん、何か私のこと言っていましたか?」


 彼女がぽつりと、そう言った。


「うん」


「えっ。なんてですか?」


 ……何から話せば良いんだろう。

 下手なことは言えないよね。


 ……こういう場面って苦手かも。


「初キスの相手だって言ってたよ」


 言ってから、後悔した。

 三笘さんが目を見開いて、固まっている。


 彼女はきっと、こういうことを聞きたかったのではないのだ。

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