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第7話 ライライちゃんがいる<井戸川萌子side>

 ライライちゃんの配信を見ていると元気がもらえた。私の心の拠り所だった。


 社会の教科で、みんなの前で発表しなければならない授業があった。緊張でおかしくなりそうなときでも、ライライちゃんのことを思い出した。

 彼女だったら、どんな振る舞いをするだろうと考えると勇気が貰えた。完全にライライちゃんになることはできないけど、発表は私にしては上手くできた方だと思う。


 ある日、ライライちゃんが配信の中で「中2」という事実を言った。


 私と同じ!

 そんな共通点を見つけて、ますます大好きになってしまった。


 ——だけど、ライライちゃんは急にライバーを引退した。突然だった。お別れの言葉もなかった。


 プロフィールに「ライバーやめます。みんな今までありがとう!」という一文が書いてあった。


 そ、そんな……。


 頭が真っ白になった。ライライちゃんのライブ配信は私の生きる支えだった。


 学校でクラスメートに悪口を言われたり、体育で散々な結果だったりしても、ライライちゃんの配信があるから頑張ろうと思えた。


 ——彼女がライブ配信アプリから姿を消した。アカウントは残っていたけど、実質引退したも同然だった。


 何かあったのかな。……ライライちゃん。


 それからというもの、心に影が差したままだった。


 気晴らしにと他の人のライブ配信を見ても心が踊らなかった。


 もしも、最初に配信を見たのがライライちゃんじゃなかったら……こんなにライライちゃんを強く思うこともなかったのかな。


 枕を濡らす夜が続いた。





 私は中学を卒業した。高校の入学式。校門の前には大勢の人が集まっていた。


 知らない顔ばかりの中で、私は緊張していた。この中に、まだ見ぬ友達がいたりするのかな。……上手くやれるだろうか。


「一緒に写真撮ろー」


「うん! あっ、ねぇあの子かわいくない?」


 目の前の女子二人につられて、なんとなく顔を上げた。

 そこには、ひときわ目を惹く子がいた。


 あれ。


 ライライちゃんだった。


 スマホの画面越しに何度も見ていた彼女がそこにはいた。


 髪は肩で優しく揺れて、まつ毛は羽根のように長い。思わず呼吸するのを忘れた。


 ライライちゃんだ。ライライちゃんがいる。


 ……私たちは近くに住んでいたんだ。手が震えた。声にならない叫びが喉元まで込み上げていた。


 ライライちゃんは、女子一人、男子二人に囲まれている。社交的な彼女は、にこにこと楽しそうに笑っていた。


 ——吉瀬来那、それがライライちゃんの本名だった。


 クラスは違った。さすがに、神様はそこまで甘やかしてはくれない。運命的な出会いにまずは感謝しないといけない。


 ライライちゃんとは、廊下ですれ違ったことがある。——一瞬、目があった気がした、それだけでドキドキしてしまった。


 遠くから彼女を見ているだけで楽しかった。内心、また、ライブ配信しないかなとも思っていた。


 ライライちゃん——ううん。吉瀬さんは、誰とでもそつなく話せる。私が見る限り、いつも違う人が隣にいた。"諏訪部(すわべ)あい"って子とは、よく一緒にいるから一番気が合うのかもしれない。


 吉瀬さんが誰かに向ける笑顔に勝手に嫉妬する私がいた。


 配信だったら、私にだけ笑顔を向けてくれていたのに——。いやいや。不特定多数のリスナーに平等に接しているのはわかってるよ!


 だけど、私のコメントを読んだときの笑顔は、私にだけ向けられたものと思いたかった。


 こんなに見つめても吉瀬さんは振り向いてくれない。

 学校生活では、ボタンひとつでコメントをしたり、アイテムを投げたり、存在感をアピールする術なんて用意されていない……。


 吉瀬さんと話すためには勇気を出さないといけないということだ。


 そんなの……私には無理だ。そもそも彼女と私には何も接点がない。

 隣のクラスのおとなしい女子が急に話しかけても、怪しがられるだけだ。


 ライバーとリスナーの関係だったら、こんなに悩まなかったのにな。

 こんな悶々とした思いを抱えていることは、高校でできた友達の鳴海にも言えなかった。

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