表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/85

第67話 後輩へのアドバイスと戯れ<井戸川萌子side>





「今日の朝ごはんは、トースト一枚だけでー。本当はよくないんだけどー。お腹空かなくてー。もっと食べた方が良いとはわかっているんだけどねー」


「……」


 黒を基調にしたダークな印象を感じさせる部屋に、私と山崎美音はいた。

 目の前には制服からTシャツに着替えたばかりの彼女。身振り手振りを使って、自分の話ばかりを展開している。リスナーのコメントを一つも拾う様子はなかった。


 有線イヤホンをつけて、リスナーとして遊びに行っている私は絶句した。


 これは……。アウトだよ!!!


 いくら山崎美音がかわいくても、見ていられない……。


 ライバーって、基本的にはリスナーとのやり取りがあってこその存在だと思うんだよね。


【コーンフレークとか食べやすいよ(=´∀`)】


 初見リスナーの一人が、そんなコメントを打った。ナイスアシスト!


「そういえば、パンにジャムとか塗ればよかったなー」


 しかし、山崎美音はスルーを決め込んでいる。しかも、まだ朝ごはんの話の続きをしている。


 リスナーは興醒めして、次々に退出していた。


「えー。みんないなくならないでー。アイテムも使ってよー。できるだけ高額のやつ!」


 ライバーとしての仕事をしていないのに、見返りだけ求めるのはおかしいよ。


 心が動かされたときに、自然とアイテムを投げたくなるのがリスナーの心理だよ。

 自分だけ気持ちよくなって、さらにリスナーの好意を期待するなんて、ちょっと一方的すぎない?


「あー。もー! 疲れた。どうしたらいいのー」


 山崎美音は配信中に伸びをして、愚痴を吐いた。空気が、さらに悪くなるのを感じる。


 ……。


【いどっちがハートのアイテムを使ったよ】


 私は雰囲気を変えたくて、山崎美音にアイテムを贈った。


「わ、わー!! ありがとうっ」


 彼女は気持ちを込めて両手を握り、画面に向かって満面の笑みを見せた。

 その姿がかわいらしくて、思わずドキッとしてしまう。


 山崎美音は、他のリスナーには一切反応していないのに、私には甘々だ。


 ……。


 この配信が終わったら、アドバイスをしようと思っているのに。……これじゃ、口角が緩んじゃう。

 いけないいけない。私は冷静さを保つように心がけた。


 ——数十分後。


 山崎美音は、へとへとになって床に座り込んだ。


「はー。疲れましたー」


 全力で喋ったからか、電池切れ寸前だ。そばに置いてあった、ストロー付きのお茶を口に含む。


「お疲れ様」


「先輩! 私の配信どうでしたか?」


 無垢な瞳が、好奇心いっぱいにこちらを見つめていた。


「最悪だった」


 ピシャッと突き放すように言葉を投げた。


 ——そこからは、私なりに気づいた点を山崎美音に伝授した。


 メモを取りながら、言葉一つ聞きこぼさないように真剣な姿は、なんだか愛おしく感じられた。


「はー。私って、初歩的なミスばかりしてたんですねー」


「うん」


「面白トークを繰り広げていたつもりだったんですけどねー」


「本気で笑いたいなら、芸人さんのネタ動画とかを見ると思うよ。でも、ライブ配信に来るってことは、やっぱりライバーとコミュニケーションを取りたい気持ちがあるからさ」


「そうですよね。次からはコメントをしっかりと読み上げます!」


 山崎美音は、せっせと紙にペンを走らせる。


 足を崩した私は、テーブルに置いてあったアイスコーヒーを一口飲んだ。


「あまっ……」


「あれ? 井戸川先輩。甘いの苦手でしたか?」


「うん」


「すいません! 次来たときは、無糖のものを出しますね。……忘れないように、これもメモしておこう」


 そう言いながら、アドバイスと一緒に、私のプライベートな情報も同じ紙に書き込んでいった。


 つい笑ってしまった。


 最初に抱いた山崎美音の印象は、正直あまり良くなかった。でも、根は素直な子なんだと思う。


「はー。これで、あとは鈴加が来てくれるのを待つだけですね! 配信で喜んでもらえるように全力を出します!」


「うん」


 体勢を変えた瞬間、関節からバキッと音がした。長時間、同じ姿勢で座っていたせいかもしれない。


「あ! 井戸川先輩。もしよかったらベッドに座ってください」


「……」


 おそらく深い意味はない。ただ床に座るより楽だから、そう言っただけだろう。


 でも私は、一歩も動かなかった。


「……あれ、先輩? ……もしかして意識してます?」


 山崎美音が、意地悪な目になっている。


 メモをテーブルの上に置いて、四つん這いになって、私に近づいてくる。

 色白の肌が覗く襟ぐりの深い服を着ていて、視線の置き場に困った。


「なっ……」


「そういえば、二人きりですねっ♪」


 にこーっと、人が良さそうな笑みを向けてくる。しかし、その奥には支配的な一面が潜んでいた。


「来那先輩もかわいいけど……私も負けてませんよねっ」


「……」


 確かに山崎美音はかわいいと思う。

 天真爛漫な性格も相まって、クラスの中でも一目置かれているのだろう。


「えへへっ」


 彼女は、そっと人差し指で私の鼻先に触れた。


 恋愛経験が乏しい私は、彼女の空気に圧倒されて、身動きが取れなかった。ちょんちょんと触る、指がくすぐったかった。


「やめて」


「ふふっ。先輩。かわいーい」


 完全にからかわれている。私は山崎美音のお人形ではない。


 手を払いのけたら「やん」と彼女は高い声を出した。


 その後、私に見せつけるように、山崎美音は、自分の鼻にちょんと人差し指を当てた。


 それは、蝶が花を舞うような優雅な仕草で、どことなく艶やかさをまとっていた。ふと、触れてはならないものに触れたような後ろめたさが胸に残った。


 山崎美音は私の気も知らずに、ベッドの縁にそっと腰をかける。わずかにギシッと軋む音が空気を切った。


「……あれ? 来那先輩からLINEが来てる」


 彼女はポケットからスマホを取り出し、そう口にした。


 そういえば私も、山崎美音の家にお邪魔する前、来那に連絡を入れておいた。配信の邪魔になるからと、ずっと今までマナーモードにしていた。

 慌ててスマホを見ると、来那から10件以上のLINEが届いていることに気付いた。


『そうなんだ。楽しんできてね!\\\\٩( 'ω' )و ////』


『……今、何してる?』


『気になってLINEしちゃった!』


『萌子?:(;゛゜'ω゜'):』


『どうしたの?』


 なんか、来那……。心配してる?


「……へぇ。私と井戸川先輩の仲に嫉妬しているみたいですね」


 山崎美音はLINEの内容を見てニヤニヤしている。多分、私と同じようなメッセージが来那から届いたのだろう。


 一つため息をついた。


「配信のアドバイスも終わったし。私、帰るね」


「えー。もうですか? もうちょっとゆっくりしていってくださいよ〜」


「ありがとう。でも、もう用はないから」


 山崎美音は、頬を膨らませる。拗ねているようだ。


「……わかりました。じゃあせめて、井戸川先輩、私とLINEを交換してくれませんか?」


「別にいいけど」


 断る理由もなく、スマホを彼女に向けた。彼女が出したQRコードを読み込んで、無事に連絡先を交換する。


「へへっ」


 山崎美音は、ご機嫌そうに見えた。


「じゃあ、下まで送りますね♪」


 大事そうにスマホを抱えて、とびきりの笑顔を私に向けた。





「ら、来那!?」


「先輩!? なんでここに!?」


 マンションの外に出ると、なんと来那が入り口の前に立っていた。額から汗が浮き出ていて、長い時間、待っていてくれたことを察する。


「……」


 来那は何も言わない。静かに目を伏せている。


 アスファルトからの照り返しがじりじりと熱くて、そういえば今日は猛暑日になるとニュースで言っていたのを思い出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ