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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第65話 先輩に花持たせてよ<井戸川萌子side>





「師匠! 来てくれたんですね。じゃあ早速、配信始めていきますねっ」


「えっ。やっぱり、ここで配信するの?」


「? はい。そうですけど」


 放課後の空き教室。先にいた山崎美音が、すくっと立ち上がる。

 山のようにして積まれたダンボールを背にして、わずかなスペースを確保しようとしていた。


「物がいっぱいだし、やめておこうよ」


「ええー。別に良くないですか?」


「リスナーも一人の人間だからね。配信画面に映ったときに、背景があんまりにも散らかっていたりすると、ちょっと嫌な気分になると思う。ひどいとさ『この子、やる気あるのかな?』って思っちゃう人もいるかもしれないよ」


 外からは、部活動に励む生徒たちの声も聞こえてくる。


「……ここは、学校が特定されそうなものが、いろいろ映り込んじゃうから、配信には不向きだよ」


「……」


 山崎美音は唇を尖らせた後、叱られたようにしゅんとする。


「今日は家から配信したらどう? リスナーとして見に行くし、アドバイスは後で学校で話すって形にしようよ」


 彼女の表情には、深く考え込んでいる気配があった。


「……私の家、学校から近いんですよ。徒歩5分くらいの場所にあるし」


「そ、そうなんだ」


「なので師匠。今からうちに来てくれませんか? こんなにやる気あるのに、一人にさせるなんて、ありえないですよ!!」


 山崎美音が勢いよく、こちらへ駆け寄ってくる。


「ねぇ、井戸川先輩! お願い!」


 両手を胸の前で組み、首をかしげて、愛らしくおねだりする。


 ……。


 正直言って、めんどくさい。

 今すぐにでも断って、早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。


 それに、私が山崎美音の家に行ったら……その、浮気とかになっちゃうのかな?


 恋愛漫画では、ヒーローがヒロイン以外の子の家に行くと、たいてい修羅場になっている気がするんだけど……。


 でも、来那と付き合った後も、私は鳴海の家に遊びに行ったりしているし……。うーん。


 女同士でも、何もやましいことがないなら、気にしなくて良いのかな?


 私が悶々と考えていると、山崎美音が、急にスカートをめくってきた。


「ひゃっ!?」


「あー。『来那』って文字が、まだきれいに残ってますねー」


 私は彼女の手を払いのけて、一歩、後ずさる。


「……窓を開けて、『井戸川先輩の太もも、すごいことになってます』って叫んだら、どうなると思いますか?」


 こ、この子。またもや脅してくる気?

 絶対、性格悪いっ!!


 山崎美音は美しい顔で、挑発的な笑みを向けてくる。Mっ気属性がある人だったら、ご褒美に思うだろう。


 だけど、私にそういう性癖は別にない。——断じて。


「……勝手に言っていいよ。その代わり、もう私の目の前に現れないで」


 諦めのつもりで、そう言った。できるだけ冷たく、突き放したつもりだった。


 ここで受け入れたら、延々と脅されると思った。

 別に嫌われたっていい。——私には来那がいるから。


 覚悟を決めて、ゆっくりと目を開けた。


 ——山崎美音は何も言い返してこなかった。


 あれ? おかしいなと思ったら、彼女の目からボロボロと涙がこぼれ落ちるのを見て、ギョッとしてしまう。


「そ、そんなこと……、い、言わないで……ください……」


 先ほどまでの威勢はどこか、肩を震わせて、悲しそうに泣いていた。


 えっ? えっ?


「やだぁ……。ご、ごめんなさい……」


 とめどなく涙があふれてくる。

 私はポケットからハンカチを取り出して、彼女に渡した。


「使って」


「あ……りがとうございます。でも、汚れちゃ……う。ヒック」


「いいから」


 山崎美音は一瞬、迷った後、私からハンカチを受け取って目元を押さえた。


 もしかして、いつもは強気に振る舞っているけど、意外とガラスのハートの持ち主かもしれない。


 そういえば幼なじみと喧嘩して、疎遠になったなったみたいだし、まだ癒えていない傷があるのかもしれない。


 ——目の前に現れないで。


 その言葉は山崎美音にとって、一番聞きたくない台詞だったのかもしれない。


「ごめんね」


「グス……。ヒック……。だ、大丈夫ですよ」


 彼女の言葉とは裏腹に、嗚咽が止まらなかった。私は山崎美音に寄り添い、優しく背中をさすった。


 空き教室の廊下をパタパタと誰かが通りすぎる音がした。


「せ、先輩はもう行って大丈夫……ヒック……ですよ」


 彼女が、そんなことを言う。

 さすがに放っておけるはずがなかった。


「うち近いんだよね? 送るよ」


「えっ。でも……」


「先輩に花持たせてよ」


「……」


 山崎美音は浅く呼吸を繰り返す。私は彼女が落ち着くのを待った。

 やがて嗚咽が収まり、ゆっくりと目と目が合う。


「大丈夫?」


「はい……」


「じゃあ行こうか」


「……」


 私が先を歩くと、彼女は後ろをゆっくりとついてくる。内心ホッとした。

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