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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第63話 独占欲<井戸川萌子side>





<井戸川萌子side>



 来那にキスマークをつけてしまった。

 首筋の目立つところだったから、彼女は困った顔をしていた。


 それもそうだよね。クラスメートに見られたら、なんて言われるかわからないし。からかわれるかもしれない。


 だけど、『や、やだ』と、来那の拒むような声は、正直——すごく興奮した。


 赤い痕は、私のものという証明だった。来那を誰にも渡したくない。


 家までの帰り道。考えるのは来那のことばかり。道ゆく人とすれ違うとき、変に思われないようにポーカーフェイスを気取るので、わたしは精一杯だった。





「おはよう」


 翌日の教室。いつものように本を読んでいたら、声をかけられた。ドキッとして顔を上げると、そこには来那がいた。


「おはよう」


 自然と首元を見てしまう。


 あれ?


 昨日、私がつけたキスマークがなかった。


 おかしいな。


「実はね」


 来那がカバンを机の上に置く。椅子に座った後に、ぽつりとそう言った。


「お姉ちゃんに教えてもらって、コンシーラーとパウダーで"あれ"を隠してきたよ」


 その手があったか。


 漫画の世界だと、キスマークは絆創膏で隠したり、厚着をしたりして見えないようにしていることが多い。

 確かに暑い今の時期だと、メイクで隠す方が都合が良いのかもしれない。


 ——クラスメートが来那の首筋に注目して、恋人がいることを知って落胆する。


 そんなシチュエーションになることを心のどこかで期待していた。


「昨日はごめんね」


 そう言って謝ったのは来那だった。


「どうして?」


 謝らなければいけないのは、強引にキスマークをつけた私の方なのに。


「お姉ちゃんの前でさ、萌子のこと友達って紹介しちゃったじゃん?」


 そういえば昨日、来那のお姉さんに初めて会った。

 彼女に雰囲気が似ていて、明るく美しく、少し話しただけでわかる人柄の良さが伝わってきた。


 確かに来那は、お姉さんに私のことを"友達"と紹介した。


 だけど、恋人と正直に話されても、多分上手い対応ができなかった。だから、きっと、あれで良かったのだと思う。


「別に気にしてないよ」


 そう言うと、来那が少しムスッとした顔をした。


「そっか」


 あれ。もしかして、怒っている?


「……でも、あの後、結局、お姉ちゃんに付き合っているのがバレた」


「ぶっ」


 展開が早い!


 まさか、あの数分の出来事で、お姉さんは見抜いてしまったということだろうか。


 来那から訳を聞くと、私が付けたキスマークが決定打になったということだった……。


 吉瀬来那には恋人がいることを、クラスメートのみんなに伝えるために付けたのに。まさか身内に関係がバレるきっかけになるなんて思わなかった。


「……」


「何か言ってよ」


「……」


「ねぇ。萌子?」


「……」


「ふーん。そんな態度取るんだ。萌子のせいなのに」


 いつも優しい来那がちょっとだけ意地悪だ。少しも引く様子がない。

 キスマークを許したのは彼女自身だけど、こんなに目立つとは思ってなかったはずだ。


 気の利いたことを言いたいのに、何も頭に浮かばない。


 戸惑う私に、来那は容赦なく迫ってくる。


 彼女はカバンからクリア素材のペンケースを取り出した。その中から、油性ペンを選び取る。


 何をするんだろうと見ていると、強引に右手を握られた。突然の出来事に、「ひゃ」と情けない声が出てしまう。


「……萌子にも印を付けてあげなきゃ」


 そっと手を離すと、私のスカートに触れた。それをたくしあげて、太ももが見える状態にする。


「な……」


 来那は油性ペンのキャップを取ると、躊躇うことなく、わたしの肌にインクの先を当てた。


 自分の名前を、わたしの太ももに黒黒と主張させる。


「ちょっと」


「油性だから、しばらく取れないよ。これと一緒だね」


 そう言って来那は、今は見えないキスマークにそっと触れた。

 冷たいような視線にドキッとしてしまう。


 私はじっと自分の太ももを見る。来那。思わず息を呑むほど、その文字だけが目に焼きついた。


 まるで彼女がキーホルダーに名前を書いたような所有欲が現れている。苦しいのに嬉しかった。平静を装いながら、小さく息を整える。


「本当は、首に同じ痕を今すぐにでも付けたいんだけどね」


 耳に触れたその囁きに、心ごと持っていかれた。


「見えそうで見えない。それくらいがちょうど良くない?」


 その声色に、来那の独占欲が滲んでいる気がした。

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