表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/85

第62話 今朝は、キスマークなかったよね【吉瀬来那side】

「……結構、目立たない?」


 あまりにも赤く、肌に刻まれたその痕は、誰の目にも明らかな存在感を放っていた。


「きれい」


 彼女は呑気に、そんなことを口にする。キスマークの上に、そっと唇を落とした。反省の色はまるでない。


「ど、どうしよう」


 わたしって結構、すごいことをおねだりしてしまったのではないか。


 うううう……。

 クラスのみんなにバレちゃうかな?


 あっ。そうだ。

 おあいこってことで、萌子にもキスマークをつけてしまえばいいんじゃないかな。それだと、心細くない。


 わたしはスマホを横に置いて、真っ直ぐに彼女を見つめた。そのまま両肩に触れると、萌子はベッドから降りて、わたしから距離を取った。


 その姿はまるで、"来那にキスマークはつけさせない"と言っているように思えた。


 ずるい。つい、萌子にジト目を向けていた。


 彼女は、すっかり満たされたような表情で、どこかひょうひょうとしていた。


 先ほどまで、クラスの男子にヤキモチを妬いていたのに。

 自信ありげな顔が憎らしかったけど、変に胸が高鳴ってしまうわたしがいた。


 それからは甘い雰囲気が戻ってくることもなく、萌子は約束通り、わたしの部屋でライブ配信をした。——もちろん浴衣姿のまま。


「"今日の浴衣も似合ってるね"って、ありがとう〜」


 リスナーに向けて、笑いかける彼女の姿を、宿題をしながら見つめた。

 時折、頬杖をつきながら、萌子に視線を向けると、焦ったように目が泳いだ。かわいい。

 赤い痕に手を当てながら、彼女の姿を見守った。





 わたしは少し怒っていて、せめてもの抵抗で、玄関先で萌子を見送った。


「何かあったら責任取るよ」


 制服姿の彼女が、じっとこちらを見ながら、そう言った。


「うん」


「じゃあ。また明日」


 萌子がドアに手をかけたようとしたときだった。ガチャと外側から鍵を開ける音がした。


「ただい……あれ?」


 ——お姉ちゃんが帰ってきた。

 不思議そうに顔を覗かせている。


「えっ。なんで。バイトはっ!?」


 わたしは動揺して、取り乱してしまう。


「家に忘れ物して、一度取りに帰ってきたんだ〜。って、こちらの子は友達?」


 お姉ちゃんがチラッと萌子を見る。


 ——友達、か。


 どう紹介すべきか迷ったけど、わたしは咄嗟に「うん」と頷いてしまった。


「井戸川萌子ちゃん。わたしの隣の席で……仲良しなんだ。こっちは吉瀬李里那。わたしのお姉ちゃん。えっと、今、大学生で——」


 たどたどしく自己紹介をする。


 ラブとお姉ちゃんを会わせたときの方が、紹介が自然だった気がする。思わず汗をかいてしまった。


 萌子とお姉ちゃんが喋るのを、ボーっと見ていた。

 気がつけば、萌子が玄関先からいなくなっていた。


「来那」


「へっ?」


 お姉ちゃんが心配そうにわたしを見る。


「萌子ちゃん帰ったよ。ねぇ、顔赤くない?」


「そう? あ、暑いからじゃない?」


「それに……首元も赤いよ」


「!?」


 視線が向けられた場所を咄嗟に隠す。

 気まずくて、わたしは意味もなく天井を見つめた。


「今朝は、キスマークなかったよね」


「……」


「まさか、来那が自分で自分につけたわけじゃないしね」


 ぐぐっと顔を近づけてくる。


「——それ、萌子ちゃんが?」


 お姉ちゃんが試すように、彼女の名前を口にした。

 自分でもわかるくらい、頬が赤く染まっていく。


「ふーん。そっか、そっか」


 お姉ちゃんがしたり顔で、腕組みをする。


「来那には"彼氏"じゃなくて、"彼女"ができたんだ!」


 言い当てられてしまった。


「……なんでわかるの?」


 お姉ちゃんに隠し事はできない。何でもお見通しだ。


「来那より先に生まれたからかな〜。あはっ。年の功ってやつ?」


 長い髪をかき上げて、得意げな顔をする。


「萌子ちゃん。今度また家に連れてきなよっ」


 お姉ちゃんは満面の笑みを浮かべながらそう言い、照れて固まるわたしをよそに、軽やかにリビングに歩いて行った。


 何でもないような顔をしているのが、逆に恋愛経験の豊富さを印象付けた。


 そういえば、お姉ちゃんも前、家に彼氏を連れてきたことがあったっけ。

 レゲエが好きな背が180cmもあるまーくんと、ドクロの服をよく着ていた、ヒゲともみあげが繋がっている定義(さだよし)さん。他にもいたのかな? 結局、わたし以外の家族に紹介することはなかったけど……。


 妹が彼女を家に連れ込んだことは、お姉ちゃんにとっては取るに足らないことなのだろう。


 ……キスマーク目立つよなぁ。現に身内に見破られちゃったし。どうしよう。


『何かあったらいつでも相談してね』


 お姉ちゃんは確か、前にそう言っていた。

 その言葉を胸に、わたしは遠慮なく力を借りようと心に決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ