第6話 憧れのライバー<井戸川萌子side>
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<井戸川萌子side>
私は浮かれていた。高校2年生の春。吉瀬来那と同じクラスになれたからだ。
だけど、純粋に喜べないところもあった。
私、井戸川萌子は、ライブ配信アプリ『キラライブ』でライバーをしている。名前は、いどっち。
私の枠は主に歌配信。時間帯は、学校が終わった放課後にしていることが多い。
私は、歌うことが好きだ。だけど、知っている人の前で歌うことは苦手だった。
親友の鳴海の前だってあまり歌いたくない。恥ずかしいもん。だから、何度かカラオケに誘われても断っていた。
だけど、いどっちとして——架空のキャラクターとして歌うのは別だった。
井戸川萌子とは、違った私になれるし、現に気持ちよく歌うことができている。
顔出し配信をしていないから、素直になれるのかもしれない。
そんな私が、ライブ配信を始めたのも吉瀬来那の影響だった。
正確に言えば、"ライライちゃん"の影響になるのかな。
ライライちゃんは私の憧れのライバーだった。
中学生の頃、暇つぶしのために偶然ライブ配信アプリをダウンロードした。トップページに並んだサムネイルの中で、運命的にライライちゃんの配信をタップしたのがきっかけだった。
『いどっち、こんにちは〜!』
ライライちゃんは、私が入室するや否や、明るい笑顔を向けて挨拶をしてくれた。
振り返ってみれば、みんなに言っていることだとわかっている。
だけど、あのとき中学生活を一人ぼっちで過ごすことが多かった私の胸を優しく癒してくれたのも事実だった。
『良かったらゆっくりしてってね♪』
天使のような笑顔を向けてくれる。なんて愛想が良い子なのと思った。
——私とは正反対。
だからこそ、惹かれるものがある。
ドキドキしながら、ライライちゃんのライブ配信を見守った。
『いどっちのアイコンかわいいねっ』
ライライちゃんに言われてハッとした。
キラライブにアカウントを登録したとき、初期設定のものでは味気がないからと、キツネのイラストに設定していた。
ライライちゃんはきちんと私のプロフィールを見た上で、話題を振ってくれたのだ。
『キツネなんだ〜。コンっ。なんちて♪』
ライライちゃんは手を猫のように丸めて、私にウインクしてみせた。
か、か、か、かわいい……!
完全にノックアウトされてしまった。落ちてしまった私は、気づけば、新規アカウントが最初にもらえるアイテムを、すべてライライちゃんに投げていた。
『ありがとう〜。いどっち!』
『こんなにいいのー!? サンキュー!!!!』
『気持ちが嬉しいっ! いどっち本当にありがとう!』
個別のアイテムを投げるごとに、ライライちゃんは多彩な反応を見せてくれた。
た、楽しい……。
学校生活の中で、きっと友達にはなれないような相手から向けられるキラキラとした笑顔に、私はやられてしまった。
『いどっち、大好き』
20個目のアイテムを投げたとき、ライライちゃんは愛の告白をしてくれた。
きゃーーーーーーー!!!!!
って、いやいや。深い意味なく言ったんだよ! 絶対!
だけど、だけど、私はライライちゃんに完全にハートを射抜かれてしまった……。
ライライちゃんは、私に向かって手でハートポーズを作ってくれる。
「私も……好きかも」
そんな独り言を口にしていた。
心臓が嬉しそうに弾む。
それからは、ほぼ毎日と言っていいほどライライちゃんの配信に通った。
ライライちゃんはかわいい。リスナーも男性が多い。
たまにコメントで、こういうものが投稿されていた。
【どこ住み?】
【ライライちゃんみたいな彼女ほしい!】
【付き合ってください】
……。
ライライちゃんは何ともないように、さらりと交わしていた。
人差し指を立てて「秘密」と言ってみたり、「えへへっ。どうでしょ〜」とかわいくにごしていた。
私だって……。
ライライちゃんにかわいいとか、好きとかコメントしたいのに……。
迷惑だと思うからと自重していた。
【今、ライライちゃんの家の前にいるよ】
リスナーの一人が、そんなことをコメントする。
はっ!? 何このコメント!?
ストーカーみたいじゃん!!!!! 許せない!!!!!
ライライちゃんはというと、コメントを読み上げる途中で、ぽかんとした顔をしている。
私が……私がライライちゃんを守らなきゃ!!!!
【バカじゃないの?】
追いコメントを急いで打った。
だけどライライちゃんは涼しい顔をする。
『えっ。配達の人かな? いつもお疲れ様です♪』
なんて言って、その場を明るく乗り切った。
か、かわいい。
なんだか私まで救われた気持ちになっていた。
だけど、危なっかしいよ!
この子を守りたい。そんな使命感を抱くまでにもなっていた。




