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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第59話 この浴衣着てくれない?【吉瀬来那side】





<吉瀬来那side>



 わたしは、ため息をついた。


 学校で萌子と二人きりになることはあるけど、なんだかんだ邪魔されてしまい、落ち着いて過ごすことができない。

 まあ、よく考えたら当たり前か。学校はイチャイチャする場じゃないし……。


 それでも隣の席だから、「おはよう」と朝の挨拶をしてから一日が始まる。

 好きな人の顔を見ながら勉強できるなんて、こんなに幸せなことがあるのだろうか。


 相変わらずキラライブのアカウントはBANされているので、萌子の配信は見れずじまいだ。

 だけど今も前のように見れていたら、きっと高額アイテムを投げていて、依存しそうだと思うから、むしろちょうど良いのかも。


 蝉の声が響き始め、制服は夏服になり、季節の移ろいを肌で感じていた。


 昼休みのチャイムが鳴り、いつものように、ラブと一緒にご飯を食べようとした。

 だけど、オレンジジュースが飲みたくなり、自販機に一人で買いに行った。そしたら山崎と会った。

 あれから萌子とわたしにちょっかいを出しては、すかさず逃げ出していく、小悪魔のような後輩。


「来那せんぱーい!」


 今日も変わらず、にこにこしながら声をかけてくる。


「山崎、ご機嫌だね」


「えー。そうですか? っていうか、知ってますかー?」


「なになに?」


「昨日、師匠——井戸川先輩の配信を見に行ったんですけどー。浴衣着て配信してましたよー!」


「えっ?」


「なんかキラライブのイベント?で着ていたみたいですねー。白地にピンクの花柄が先輩にとても似合っていて、かわいかったですよー。それじゃ、また!」


 山崎はさっさとアセロラジュースを買って、わたしの前からいなくなった。


 浴衣? 花柄?

 そんなの萌子から聞いてないよ……。


 髪をまとめたりして、きっとすごくかわいかったんだろうな。ううん。綺麗だったと言えるかもしれない。


 レバニラくんやハトゲッチュさんも見たのかな……。

 いどっちのこと、ますます好きになっちゃうんじゃないかな。


 ううううう。すごくモヤモヤする。


 わたしは居ても立っても居られず、急いで教室に戻った。ラブの元には行かずに、鳴海さんとご飯を食べている萌子の前に立った。


「ど、どうしたの?」


 血相を変えているわたしを見て彼女は驚いたような顔をする。

 鳴海さんも箸を持つ手がピタッと止まっていた。


「萌子、今日の放課後空いてる?」


「配信の予定があるけど……」


 ——萌子はキラライブのことばかり。

 わたしのことも構ってよという気持ちを一度飲み込んだ。


「……そっか」


 いやいや。弱気になっちゃダメだよね!

 わたしは少しの勇気を出す。


「じゃあ、わたしの家に来ない?」


「!?」


 びっくりしている。

 脈絡がないから当たり前だ。だけど構わず話を続ける。


「夜まで誰も帰ってこないから、そこから配信してくれないかな? わたしBANくらったままで、リスナーとして遊びに行けないから寂しいんだ。また萌子の配信を間近で見たいんだ。どうかなっ」


 両手を合わせてお願いする。

 萌子は少し考え込んだ後、「……いいよ」と確かに小さい声でそう言った。


「良かったねっ」


 鳴海さんは暖かい目で見守ってくれる。萌子から聞いたけど、もう彼女にはわたし達が付き合っていることが、バレてるみたい。

 わたしは照れ隠しのように後頭部に手を当てて笑った。


 オレンジジュースを買い忘れたことに今となってみて気づく。だけど、もうどうでも良い。

 ——萌子がわたしの家に来る。その事実に胸の鼓動が速くなるのを感じた。わたしの夏が今始まった気がした。





 エアコンの低いうなりが室内に届く。この前、新しくしたばかりの最新式だ。冷気は申し分ない。むしろ身震いするほど冷たい——はずなのに、わたしの体はじんわりと熱を帯びていた。


 わたしの部屋に萌子がいる。——しかも浴衣姿で。


 黒地にボタニカル柄の浴衣。腰ひもはボリュームがあって、まるで薔薇のよう。

 髪を上げた萌子は色っぽくて、わたしは直視することができなかった。


 この萌子が着ている浴衣は、わたしのものだ。


 今日の帰り道。萌子を問い詰めるように、山崎から聞いた浴衣配信の話を持ち出した。そしたら、「その通りだ」と言ったのだ。


 わたしはわかりやすく拗ねた。「リスナーのみんなが羨ましい」「わたしも見たかったなぁ」とウジウジしていた。


 他の友達だったら、サラリとかわせるのに、萌子のこととなるとムキになってしまう。


 そのままわたしの家につき、彼女を自室に招き入れた瞬間、電流が走るように、あることに思い至った。


 クローゼットに、去年の夏に着た浴衣が入っていたはずだ。開けてみると、思った通り、ちゃんとそこにあった。もちろんきちんとクリーニングには出してある。


「——萌子、この浴衣着てくれない?」


 気軽に口にしたけど、当然のように断られる未来を想像していた。


「いいよ」


 だけど萌子は涼しい顔をして、確かにそう言った。


「じゃあ、出て行って」


 わたしから浴衣を受け取ると、部屋の外に追い出された。


 廊下の壁にもたれ、ずるずると腰を下ろす。

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