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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第57話 陽キャと陰キャ<井戸川萌子side>





【いどっち先輩こんにちはᕦ(ò_óˇ)ᕤ】


 そのコメントを見たとき、山崎美音だとピンときた。

 ユーザー名は「みおぴょん♪」。ますます確信する。


 お昼休みに約束した通り、彼女はライブ配信に来てくれた。

 ——少しだけ緊張してしまう。


 だけど私は私! 背伸びをしてもボロが出る。いつも通り——だけど少しテンション高めに応対することに決めた。


「みおぴょん♪ちゃんこんにちは〜。歌配信をしている、いどっちですっ。初見さんはリクエストフリーだよ〜。良かったら好きな歌を教えてくれると嬉しいなっ」


【えっと、じゃあ『ピーチ』を聞きたいです!】


 みおぴょん♪が、すかさずコメントをくれる。


 ……ピーチ。


 それは、来那と初めてデュエットした曲だった。ふと思い出して、余韻に浸る。

 だけど、すぐにブンブンと頭を振る。


「リクエストありがとう〜! OK、『ピーチ』だねっ。心を込めて歌いまーす!」


 曲を選んで、スタートボタンを押す。

 常連リスナーも、コメントやアイテムで配信を盛り上げてくれてありがたかった。


 間奏中にリスナー一人ひとりのコメントを読み上げながら、お礼を言っていく。


 だけど、リクエストをした本人、みおぴょん♪のコメントがなかった。


 あれ? どうしたんだろう。

 ……もしかして、退出しちゃったかな。

 そう思ったけど、現在視聴中のリスナーの欄に彼女はいた。


 すぐに後半の歌い出しになり、ハッとして集中を取り戻す。


【いどっちの歌い方、好きー】


 レバニラくんが、そんな嬉しいコメントを打ってくれるので、ホッとする。


 山崎美音が聴いていると思うと、自然と背筋が伸びた。ビブラートも、少し長く引っ張ってしまった。


【パチパチパチパチ╰(*´︶`*)╯♡】


【良かったよー】


【聴き入った(°▽°)】


 ふぅ。歌い終わった。

 常連リスナーがコメントをくれる。ありがとう。


 だけど、彼女はどうだろう。


【歌、うまかったです!!!!!】


 みおぴょん♪が元気よく、そんなコメントをくれた。顔文字は使われていないけど、勢いがあった。


 私は素直に嬉しかった。


「ありがとう! みおぴょん♪ちゃん。ナイスリクエストだったよ〜」


 画面に向かって、親指を突き出した。おまけにウインクまでしてみせる。


【みおぴょん♪がいどっちをフォローしました】


 わっ。フォローもしてくれた!


「ありがとう! みお……」


 お礼を言おうとした瞬間、みおぴょん♪のコメントが目に入る。


【だけど、ムカつきます……】


 えっ。動揺してしまう。

 だけど、途中で発言をやめるのはプロ失格だ。


「……ぴょん♪ちゃん! って、ムカつくんかい! ビブラート長めのところが嫌だった?」


 できるだけ明るく話すように心がけた。


 だけど、待てど暮らせど、みおぴょん♪のコメントが返ってこない。

 現在視聴中のリスナーの欄をチェックすると、どうやら彼女は退出したようだった。


 そ、そんな……。


【何だったんだ今の……】


 ハトゲッチュが、そんなコメントをしたのが少しシュールだった。

 気を取り直して、配信に集中するために私は一つ咳払いをした。


 山崎美音は私の配信を絶賛していたけど、今日の歌を聞いて、やっぱり何か思うところがあったのだろうか。

 少しモヤモヤしたけど、気にしないふりをすることにした。





 ——私は今、空き教室で山崎美音に壁ドンをされている。


 同じくらいの背丈の彼女から壁際に追いやられると、目線の置き場所に困った。チャームポイントの赤いヘアピンが、心なしか曲がっているようにも思う。


「井戸川先輩ってライブ配信だと雰囲気が全然違いますね!」


「そ、そう?」


「なんかアイドルみたいでしたよ!」


 山崎美音は怒っていた。顔をグイッと近づけてくる。——キスできそうなくらいの距離感だった。


「あの……壁に押し付けるのやめてほしい……です」


 後輩である彼女に、つい敬語を使っていた。


「あっ。ごめんなさい」


 意外にも、すんなりと私の前からどいてくれる。


「つい、熱くなってしまいました」


 彼女は頬にかかる髪をそっと耳にかけた。


「ライブ配信ってリアルタイムで反応が返ってきて面白いですね! それに、他のリスナーが井戸川先輩に注目していると、なんかムッとくるっていうか、こっち向いてほしいって思っちゃいますもんっ」


「だから、ムカつくなんてコメントしたの?」


「……まあ。それもあるかもしれないですね」


 山崎美音は目を逸らす。


「正直、ちょっと傷ついたよ」


「ご、ごめんなさい」


 さっきまでの威勢の良い態度はどこへやら、彼女はうろたえながら謝った。


「……あと、うまく言えないんですけど、井戸川先輩っておとなしいタイプかと思ってたんですけど、配信見たら意外とそうでもなくて。それで来那先輩と合ってるかもって思ったら、モヤモヤしちゃって……」


 山崎美音は涙目になっている。

 もしかして、彼女自身も気持ちに整理がついていないのかもしれない。


「——確かに、最初の印象で、この人明るそうとか、物静かそうだなとかって、なんとなく感じることあるかもね。簡単に言えば、"陽キャ"、"陰キャ"って分けられたりするかもね」


 私は山崎美音の瞳をまっすぐ見つめた。


「だけど、陽キャって言われるタイプの人でも、常に人と関わりたいわけじゃないはず。むしろ一人になって、静かに過ごしたいって気持ちになることもあると思うんだ」


 ふいに、来那が中学時代に友達と喧嘩して学校を休んだ話を思い出した。

 明るいと思う人にだって、当たり前だけどいろいろ悩みはあるのだ。


「それに、私みたいな"陰キャ"が、ライブ配信を始めるようなことだってあるしね。側から見たら向いてないと思うかもしれないけど、これがけっこう楽しいんだよ!」


 私は昨日のライブ配信のように、山崎美音に向かってウインクをした。

 ……調子に乗りすぎたかな。だけど、この正直な想いをまっすぐに届けたかった。


「——この前、山崎美音が『悔しいけど結局は、似たもの同士が居心地がいい。真逆な人といても辛くなる』みたいなことを言ったじゃない?」


 彼女が頷く。私は続ける。


「結局さ、人って見た目だけじゃわからないし、よくよく話してみると案外似た部分があったりするんだよ。気分でテンションも変わるし、みんな陽キャなとこも陰キャなとこも持ってるんじゃない? だから、お互い歩み寄ろうとすれば、分かり合えるんじゃないかな」


 ……うまくまとめられたかな。

 私が言いたいのは、陽キャ、陰キャでひとくくりにして自分の行動範囲を狭めるのは、もったいないということだった。


 山崎美音は俯く。何か考え込んでいるようだった。


「——私は、自分が陽キャだと思っていました」


 彼女は意を決したように顔を上げる。


「井戸川先輩、少し昔話をしても良いですか?」


「うん」


 彼女は「ありがとうございます」とお礼を言った。その後、少しずつ、言葉をこぼし始めた。

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