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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第55話 ライバル宣言<井戸川萌子side>





「——井戸川先輩ですよね?」


 私の目の前には山崎美音がいる。高い鼻先を、小気味良くふふんと鳴らしている。


 ここは2-Bの教室。朝の光が降り注ぐ窓際の席にいる私に向かって、彼女は話しかけてきた。

 山崎美音からしたら、上級生のクラスだ。なのに彼女は、臆することなく堂々としている。


 来那はまだ教室には来ていなかった。私は読みかけの本を机の上に置いた。


「……うん。そうだけど」


「私、山崎美音って言います」


 知ってるよ。だけど口にはしなかった。


「単刀直入に聞きますけど、井戸川先輩って、来那先輩と付き合っているんですか?」


 ぶーーーー。

 吹き出したい気持ちを堪えながら、精一杯のポーカーフェイスで対応する。……他のクラスメートには聞こえてないよね?


「ど、どうして?」


 否定したくなかったから、質問で返した。


 二者択一の質問に、はっきり答えられない人って、後ろめたい気持ちがあるのかも。そんなことを身をもって知ることになった。


「一昨日、非常階段で抱き合っていましたよね?」


「——ちょっと、こっちに来て」


 教室でする話ではないと思い、山崎美音を空き教室まで連れ出した。黙って彼女はついてくる。


「わぁ。ここ、一昨日ぶりです」


「……」


 埃っぽい教室内は、また物が増えたように思えた。

 山崎美音はニコニコとした笑顔を私に向ける。赤いヘアピンがきらりと光っていた。


 ——彼女はきっとクラスの中でも目立つ存在なのだろう。

 実際に見た訳ではないけど、雰囲気から察することができた。その顔つきから、内にある自信が静かに伝わってきた。


「見てたの?」


「はい?」


「その、私と来那がは……ハグをしているところを……」


 情けなくて声が震える。


「はい! あの日、私の前から来那先輩を連れて行きましたよね? 悔しくて、つい気になって後を付けちゃいました」


「……」


 山崎美音は復讐のように、まさに私と同じことをしていた。

 先に後を付けた側だから、何も言い返すことができなかった。


「非常階段での様子は、こっちが照れるくらい甘々で……あれはもう、普通の友達って感じじゃなかったですね」


 ああ。もう、ごまかすことはできない。


「……そう。来那とは、そういう関係……付き合ってるの」


「あはっ。素直に教えてくれるんですねっ」


「うん。事実だもん」


 山崎美音は、右手を口元に添えて、じっとこちらを見つめていた。

 そのささやかな所作さえ、まるで計算されたように美しく、彼女の空気と調和していた。


「でもー」


 山崎美音が間延びした声を出す。


「お二人って、ちょっと意外な組み合わせに見えますねー」


 胸がちくりと痛む。


 "二人は釣り合ってない"


 またか……。ふと、以前にも来那の友達に、そんな風に言われた記憶がよみがえった。


「——確かに。山崎美音から見たら、私たちは不釣り合いに見えるのかもしれないね」


「あっ! そういうネガティブな意味じゃないですよー」


「?」


「だって井戸川先輩も目立たないけどかわいい方じゃないですかー」


 そんな褒め言葉を照れずに彼女が言う。目が見れなくて、つい視線を逸らしてしまった。


「でも、なんていうかー。来那先輩がアウトドア系だとしたら、井戸川先輩は完全にインドア系なんですよねー」


 確かに。間違ってはいない。


「私もどちらかといえばアウトドア系だしー。そんな趣向が合う二人が一緒にいた方が、学校生活ももっともっと楽しくなると思いませんかー!?」


 んんっ?


 話の流れが急に変わったように感じる。


「悔しいけど結局は、似たもの同士が居心地がいいんですよー。真逆な人といても、結局……辛くなるだけですよ……」


 山崎美音は遠い目をしながら、か細い声を出す。どうしたんだろう。

 それは初めて彼女が見せる弱さのようなものにも思えた。


「……と、とにかく! いろいろ言っちゃいましたけど、私の気持ちとしては来那先輩の特別があなただと知って、対抗したくなったんですよねっ。むしろ横取りされたみたいで、燃えてきたんですよねっ」


 山崎美音は一歩、前へ出る。


「井戸川先輩、これから私たちライバルですね! よろしくお願いしますっ」


 にっこり微笑む彼女はまさに美少女だった。ただ、目の奥が少しだけ怖かった。


 ぐいっと私の手を取り、強引に握手を交わす。そして一礼してから、足早に空き教室をあとにした。


 なんだったんだ。

 突然のことで、頭が追いつかない。


 ひとまず山崎美音と私はライバルになった。

 これから先、彼女は来那にアプローチすることがあるということだ。


 うぅ。胃が痛い……。

 人気者と付き合うって、こういう大変さもあるんだなぁと実感する。だけど、嫉妬されたことが少し嬉しかった。


 山崎美音の来那に対する想いは、恋愛感情というより、先輩への憧れの域を出ていないように見えた。

 それよりも、何か別の事情があるように思えた。ただ、今の私には見当がつかなかった。


 それでも——来那を誰にも譲るつもりはない。私は、立ち向かわなくちゃいけないんだ。


 胸の奥の熱を逃さぬように、静かに握り拳を作った。予鈴の音で我に返り、慌てて空き教室を飛び出した。

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