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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第54話 アカウントがBANされた<井戸川萌子side>





「じゃあさ、別のアカウントを作って、萌子の配信見に行くよっ」


「え?」


 一人で悩むのは限界があったので、次の日、学校で来那に相談してみた。

 彼女は机に頬杖をつきながら、はしゃぐように、そう言った。


 それって複垢を作って、配信を見に来るってこと?


 確かにキラライブでは、一人が複数アカウントを所有しても規約違反にはならない。そういうルールが書いてないから、許されていることと認識している。


「"ライライちゃん"って名前が表示されたら、萌子も動揺するよね? でも、わたし

配信見に行きたいもんっ! 別れるなんて嫌だし! だから、こうするしかないよね?」


「う、うん……」


 腑に落ちたような、まだモヤモヤが残っているような、そんな曖昧な気持ちだった。

 来那の勢いに負けてしまう私がいた。


 ——そもそもライバーって、恋愛禁止なのかな?


 わからない。ただ、リスナーの抱く夢を壊すようなことは避けたい。


 私生活をすべて見せるのは、なんか違う気がする。

 わざわざ見せなくても良いものは、隠しておくべきだ。


 きっとリスナーの中には、現実のストレスを忘れるために訪れる人もいると思うし。


 現に私も、そうだった。中学のとき一人ぼっちだった私の孤独を癒してくれたのも、ライライちゃんだった。そのときに恋人がいることを知ったなら、ショックで枕を濡らす日々が続いたことだろう。


 このまま"ライライちゃん"として、配信を見に来るなら、私もいつかボロが出ると思う。……うん。来那には複垢を作ってもらおう! そうしよう。


「じゃあ、今日から行くね!」


 来那は私の様子を見て、特に不満がないと察したのか、元気よくそんなことを言う。


「せ、宣言するのはアリなの?」


 そしたら配信中、どの人が来那か気になって仕方なくなるじゃん! 今までと同じじゃん!


 何か言い返したかったけど、来那がにっこり微笑んだので、ぐっと言葉を飲み込んだ。……これが惚れた弱みってやつなのかもしれない。





「にゃにゅにょさん、いらっしゃい! 歌配信をしている、いどっちです。初見さんはリクエストフリーです。良かったら好きな歌を教えてくれると嬉しいな〜」


 今日も放課後。私は自室で、ライブ配信をスタートしていた。

 先ほどから、初見リスナーさんが数人来てくれる。だけど、どれが来那なのかはわからなかった。


 すぐに当ててやると意気込んでいたけど、その自信はあっという間に崩れた。コメントをくれないと、意外にわからない。もしかして、まだ来てないのかなぁ。


【いどっち、何かあった?】


 レバニラくんがそんなコメントを打ってくれる。さすが常連リスナー。鋭い。


「なんでもないよ! ちょっとボーッとしてたかもっ」


 頭に片手を当てて、おどけて軽く舌を出した。


 ——その日のライブ配信は、いつもより長めに3時間ほど行った。


 途中で"Narumi"こと、私の友達の鳴海が来てくれた。また、来那の友達の夢野さんと関口さんも来てくれた。だけど、肝心の来那は多分、来なかった……。


 私は配信が終わってすぐ、来那に電話をかけた。


『ごめん。アカウントBANされちゃった!』


「えっ!?」


 驚く。何があったのだろう。


 来那から話を聞くと、キラライブで複垢を作って、さっそく私の配信を見に行こうとした。しかし、すぐに【アカウントが停止しました】と表示が出たらしい。さらに、元々あった"ライライちゃん"のアカウントも動かすことができなくなったらしい。


 やっぱり、複垢を作るのは規約違反だったの!?


 そういえばフタコンのイベントのときも、本来なら1ヶ月期間があったはずなのに、急に短縮することになったし……。運営どうなっているの!


『それでね、しばらくは萌子の配信見に行けそうにないんだ』


 来那の声のトーンが落ちる。


「……」


 そっか。アカウントが停止されたんだもんね。……寂しいけど仕方ないよね。


 ……学校では毎日会えるんだから。いっか。


「わかった。私が無理を言ったから、ごめんね。こんなことになるなんて」


『気にしないで! そのうち復活するでしょ! あっ。だから今日の配信は見に行けなかったよ〜』


「……うん。来那は、どの子なんだろうと思って少しワクワクしてた……」


『わっ。待っていてくれたんだ〜。ウキウキな萌子を見たかったなー』


「ちょ、"ワクワク"なんだけど……」


『どっちも同じじゃん!』


 二人して声をひそめて、くすくすと笑い合った。


 来那と私は教室では隣の席。だけど、クラスメートの目を意識すると、中々上手く話せない。


 ライブ配信みたいに、少し距離があるくらいのほうが、私たちは上手くやっていけるのかもしれない。


 だけど、会わないと、その、ハグなんかはできないわけで……。

 そういえば、付き合ってから、き、キスってしてないよね。


 ……。


 来那は私とそういうことしたいって思ってくれているのかな?


 ……。


 私は、そのしたいわけだけど……。


『いどっち!』


 電話越しに名前を呼ばれてハッとする。


 んっ?


「その名前で呼ばないで!」


『だって〜。返事がないからさ〜』


 私は未だにハンドルネームで呼ばれると恥ずかしかった。胸のあたりがムズムズしてしまう。


 ……。ええい!


「ら、ライライちゃん!」


 勇気を出して、同じように彼女のことを呼んだ。

 来那を照れさせてみたくなったのだ。


『はーい! なにー!?』


 しかし、彼女はいつも通り元気に返事をする。むしろ、嬉しそうにも聞こえた。


 ……。


 私たちはまるで正反対。

 あらためて付き合えていることが奇跡のように思う。


「な、なんでもないっ。また明日!」


『あー。もうこんな時間か。また学校でね〜』


 もっと話していたかったけど、思い切って通話を切る。そのまま、ベッドにごろりと横になった。


 今日はゆっくり眠れそうかな。いや、でも、来那のことを考えたら、無理そうかも。私は眩しい蛍光灯に目を細めて、寝返りを打った。

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