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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第53話 私情が入ったやり取り<井戸川萌子side>





<井戸川萌子side>



 吉瀬さんとお付き合いをすることになった。今でも夢を見ているみたいで、信じられなかった。


 今日、学校に行ったとき、吉瀬さんは既に席についていて、勉強をしていた。おはようと言う彼女の目が優しかった。

 上手く言えないけど、温かく私を見守るような慈悲深さがあった。それは同情ではない。

 私ここに居てもいいんだと思うような安心感があった。だけど、色気もあるような——、とにかくいつもと違って見えた。


 放課後には、吉瀬さんが後輩女子に呼び出された。——山崎美音というらしい。私は気がついたら後を付けていた。


 吉瀬さんは人気者だ。後輩から慕われていたとしても、別に驚きはしない。

 だけど、空き教室で二人きり。吉瀬さんを独り占めするように寄り添っている場面を見たら、居ても立っても居られなくなった。


 本当は、二人の前に顔を出すつもりはなかったのに。ドアから、こっそり覗く程度に収めるつもりだったのに。


 いつの間にか「来那」と呼び捨てにし、独占欲をあらわにしていた。


 私って結構、嫉妬深いところがあるのかもしれない。


 グイグイ迫れる"山崎美音"とは違い、私は控えめだ。彼女との距離が縮まっているという証を見せつけたかったのかもしれない。


「さてと」


 自室でスマホをセットし直し、椅子に腰を下ろす。そのままスタートボタンをタップした。


 フタコンが終わり、今日からまた一人でライブ配信を再開することにした。


「……映っているかな? あっ。レバニラくん、こんばんは〜」


 開始早々、常連リスナーが次々と入室してくれる。忙しい時間を縫って、遊びに来てくれるのが嬉しかった。


【いどっち、こんばんはー】


【歌枠かな?╰(*´︶`*)╯♡】


【ライライちゃんはいないの?】


 ——ライライちゃん。


 "来那"とは、フタコンでよく一緒に映っていたせいか、リスナーもペアで覚えてくれているのだろう。胸がこそばゆい嬉しさがあった。


「今日は、一人なんだっ」


 リスナーからリクエストをもらい、懐メロソングを歌う。間奏中、【ライライちゃんが遊びに来たよ!】の表示が目に入る。反射的にドキッとしてしまう。


【こんばんは〜】


 早速、ライライちゃんがコメントをくれる。


「ら、ライライちゃん。こんばんは」


 思わず言葉が詰まる。


【噂をすれば、ライライちゃんキターーーーー╰(*´︶`*)╯♡】


【おつかれさまー! フタコン惜しかったねー】


【もう二人で配信しないの?】


 ライライちゃんが入室した途端、話題の中心が彼女に変わる。すごい。


 ライライちゃんは、【みんなありがとう】【また配信したいね〜】と無難にリスナーに対してコメントを返していた。


【ここ、いどっちの枠だろ? みんな、いどっちを見ろよ!】


 鋭く突き刺すようなコメントをしたのは——ハトゲッチュだった。


 フタコンのときに爆投げして助けてくれた私の古参リスナー。

 彼は一見冷たいようなことを言うけど、揺るがない正論が隠れていることがある。


 そういえば、常連リスナーがライライちゃんをかまっていると、初見さんは気を利かせて、すぐに退出している。

 フタコンを知らない人からしたら、内輪で盛り上がっている様子が、冷めて見えるかもしれない。


 いけないいけない。

 私は気持ちを切り替えるために、頬を軽く叩いた。


 それからは画面越しの一人ひとりに目を向け、言葉というライトを当てていった。


 だけど……。


 歌を歌い終わった後、ライライちゃんが、


【いどっち最高ー!\\\\٩( 'ω' )و ////】


 と、コメントをくれたり、キツネのアイテムを投げたりするのを見ると、やっぱり私はにやけてしまうのだ。


 みんなに平等に接したつもりでも、特別感が滲み出てしまう。


 現に、【なんか、ライライちゃんに甘々じゃない?】なんて、コメントを打たれてしまっている。


 ……ハッ。これって、アイドルが自分のライブにこっそり恋人を呼ぶようなものじゃない?


 大袈裟かもしれないけど、私情が入ったやり取りが、どうしても匂わせみたいになっちゃってるもん。

 もしかして、私リスナーを裏切っていることになるのかな?


 来那とはライブ配信で仲を深めたけど、お付き合いをしている以上、配信を見に来てもらうのはやめた方が良いのかもしれない。


 その日の配信が無事に終わった後も、私はぐるぐると考えることをやめられなかった。


 真面目すぎかな。だけど、これからもライブ配信を続けるなら、真正面から向き合わなければならない問題な気がした。

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