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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第52話 指切りげんまん【吉瀬来那side】

「——花先生が呼んでいたよ!」


 萌子は静かな口調で淡々とそう言った。


「そ、そうだったんだ。今行く!」


「え〜。仕方ないですね。……来那先輩。この話の続きはまた今度しましょうね」


 山崎は軽い調子で言って、わたしの腕から、するりと離れた。

 萌子がためらいなく歩み寄り、気づけば目の前にいた。


「ごめんね。来那を返してね」


 萌子は山崎を見る。わたしの手を取り、優しく握る。


「行こう?」


「う、うん」


 山崎は不意を突かれたのか、ぽかんとした顔をしている。


 わたしは勢いよく進む萌子に、必死でついていった。


 空き教室を出て、長い廊下を進んでいく間も、萌子は手を離そうとはしなかった。


「花先生、何の用事なの?」


 無言の間が気まずくて、つい聞いてしまう。ぴくりと手が揺れた気がした。


「それ、嘘」


「へっ?」


「来那を連れ出すための口実。——ごめん。あの子がくっついているの、さすがに見ていられなくて」


 それって嫉妬?

 ねぇ。こっちを向いて言ってほしいよ。


「もしかして萌子、わたし達の後つけてたりする?」


「……」


 だんまり。きっと図星だ。

 山崎がわたしに触れた瞬間、都合よく萌子が現れるなんて、あるはずがないと思った。


「……それに、わたしのこと来那って呼んだでしょ?」


 あんなに下の名前を呼ぶことを躊躇っていたのに。

 こういう場面では、呼んでくれるんだ。……ずるい。


 萌子がその場で足を止め、ぱっとこちらを振り返った。


「やっぱり来那って呼びたい! "吉瀬さん"じゃ、遠い距離に感じるもん。あの子みたいに積極的になれないけど、せめて来那って呼ぶことで対抗したい……」


 萌子が顔を真っ赤にして、そんなことを言う。


 かわいい。誰にも遠慮する必要はないのに!


 彼女は上目遣いで、伺うような目を向けてくる。

 限界を迎えたわたしが、今度は萌子を引っ張る番だった。そのまま近くの非常階段まで連れて行く。


「なにここ?」


 辺りをキョロキョロ見回す萌子。わたしは二人きりであることを確かめると、そのまま彼女を抱きしめた。

 萌子は拒むことなく、そのままの姿勢でいる。身体がガチガチに硬かった。


「萌子、かわいい!」


 愛おしさが爆発する。本日2度目のハグは、わたしの心を隅々まで潤していく。やっぱりリラックス効果があるって本当だ。


「かわいくなんてない……」


「かわいいよ!」


「……来那の方がかわいいよ」


「えっ。わたしのことかわいいって思ってくれてるの?」


「そりゃそうでしょ。ずっと思っていたし」


 彼女は、ぶっきらぼうに言う。


 服の上から、萌子の鼓動が伝わってきた。ああ。緊張しているんだなぁということがわかり、顔が緩む。


「ずっとって、いつから?」


「……ライライちゃんの配信を初めて見たときから」


 そっか。そんなに前からなんだ……。

 って、いわゆる一目惚れってやつじゃない?


 体を離し、改めてその顔を確かめるように見つめた。


 萌子は普段、クラスでは目立つタイプではない。でも、ふとしたきっかけで注目を集めそうな気がする。それはまるでライバーのように——。


 人気が出ないでほしいと感じるのは、わたしのエゴだろうか。


「——萌子がわたしの配信を初めて見たとき、わたし、どんなことしてた?」


 口にしてから、気づいた。何年も前のことだ。きっと、覚えていないだろう。


「……えっと、私のアイコンにちなんで、キツネのポーズをしてくれたよ。『キツネなんだ〜。コンっ。なんちて♪』って感じで」


 萌子は片手を柔らかくグーにした後、頭にコツンと当てて、ウインクをした。


 わたしそんなことしたっけ!?


 ——とは、口が裂けても言えなかった。


 というか、無表情で、そのポーズするの、かわいすぎるんですけど!


 ——本当に、前から見ていてくれたんだなぁ。

 そんなことを、あらためて実感して、嬉しくなってしまう。


 ライバーとして活動していると、意外とリスナーって記憶に残らない。次々と新たな人が訪れるし、何か個性がないとすぐに忘れてしまう。繰り返し来てくれたり、やり取りをして初めて認知するようになる。


「そっか。萌子、あのとき配信に来てくれてありがとう」


 あの出会いがあったからこそ、今こうやって、仲良くなることができたと思っていいだろうか。


「うん。私の方こそ、歌配信に来てくれてありがとう」


 キツネのサムネイルが気になり、気まぐれに入室したことで、萌子の配信を見ることにもつながった。

 もしかして出会いって、たくさんの奇跡と偶然が織り重なって生まれるものなのかもしれないね。


 そう考えると、今、目の前に彼女がいて、触れられる距離にいるのもミラクル?


 萌子が右手をそっと差し出す。わたしは直感を信じて、その手を握る。握手をした。


 萌子が笑っている。

 よかった。これで合っていた。


 さっきまでハグをしていたのに、今は絆を確かめるように手と手を繋いでいる。


「——また一緒に配信しようね!」


「うん。しよう」


 二人で約束を交わし、指切りをした。小学生ぶりのその仕草は、意外なほど胸に響いた。夕日に照らされた萌子の髪は金色に揺れ、これから先の明るい日々を予感させた。

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