第51話 山崎美音【吉瀬来那side】
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「実は、ずっと前から来那先輩のこと、良いなーって思っていて」
わたしの目の前には、学年が1つ下の後輩女子がいる。名前は山崎美音。
赤いヘアピンがチャームポイントで、肩につくくらいのセミロング。
目がぱっちりしていて、目元にほくろがあるのが印象的だった。
放課後。わたしは山崎に空き教室に呼び出されていた。
奇しくも、ついさっきまで萌子と逢瀬を重ねていた場所。
わたしは部活に入っていない。だけど、校内に結構知り合いがいる。山崎も、その一人。
言われたまま空き教室に足を運んだら、そこで待っていたのは告白にも似た一言だった。
「——そうだったんだ。ありがとう!」
「はい。来那先輩、人気あるし。話していて楽しいし。今、一番仲が良い後輩とかっていますか……?」
あれ。どうやら。告白ではないらしい。
山崎の質問に少し考えたが、特に思い当たる人物はいなかった。
「その顔は、いないって感じですかねっ」
鋭い。山崎がしたり顔で言った。
「あの。上手く言えないんですけど、私、来那先輩ともっともっと仲良くなりたいんですよ!」
彼女が一歩、前へ出る。
「私とかはどうですか?」
「へっ?」
「顔もかわいい方だし、来那先輩の隣に並んでも見劣りしないと思うんですよ。私を後輩の中で一番、"特別"にしてくれませんか?」
おいおい! 自分で言うんかい。
とはいえ、どう見ても否定できないほどの美貌の持ち主。クラスの男子が放っておかないだろう。
山崎は不敵な笑みを浮かべて、仁王立ちをしている。まるで、自信があることを全身で表現しているような頼もしさすら感じた。
「——もちろん。私も先輩の中では、来那先輩を一番特別扱いしますっ」
頭が「?」でいっぱいになった。少し落ち着く時間が欲しい。
……。
話を整理すると、こういうことだろう。
山崎は、わたしのことを特に好きだとか、付き合いたいとか思っている訳ではない。一緒にいると何らかのメリットがあるから、声をかけただけに過ぎない。
例えば、先輩後輩で、"特別"な関係になったなら、廊下ですれ違うときに、自然と手を振ったり笑みを交わしたりすることがあるだろう。
近くにいる友達に、一種の優越感のようなものを感じることができる。
それと、顔が広いことを仲間に伝えることができるから、一目置かれる存在になるだろう。
わたしの場合、中学のときに、そういう文化があった。だから、山崎の意図をすんなりと汲み取ることができたのかもしれない。
少し前のわたしだったら、何も考えずに「良いよ!」と言ったかもしれない。
だけど今は——。
「ごめん。それはできない」
山崎にはっきりと自分の気持ちを伝える。脳裏に浮かんだのは萌子のことだった。
「どうしてですか?」
彼女は食い下がる。
「もう特別な子がいるから」
——嘘ではなかった。
「やっぱりいるんですね。誰ですか? その後輩は私と同じクラスだったりしますか?」
山崎は勘違いしている。
わたしが特別だというのは、もちろん萌子のことだ。
彼女がいる以上、先輩後輩で深い絆を感じさせるような関係は望まなかった。
今ここで、山崎に付き合っている人がいると打ち明けても良いけど、直感でやめておいた方がいいと思った。
それに、萌子は恥ずかしがり屋だ。わたしの下の名前を呼ぶのも躊躇っているほどだ。関係については、誰にでも軽々しく話さない方がいい。
「うーん。秘密!」
無難に言葉を濁す。努めて明るい雰囲気になるようにウインクをした。
「え〜。知りたーい! 言ってくれるまで、帰さないですよ〜」
山崎はそう言うと、わたしの腕をつかみ、ぐっと引き寄せた。突然のことにバランスを崩すと、さらに彼女との距離は縮む。
「きっと、その子より私の方が合ってると思いますよ〜。来那先輩を夢中にさせる自信、ありますから」
小悪魔みたいな子だ。顔が間近に迫ったところで、くっきりとした二重が目に入る。
えっと。どうしようかな。
ここからの対応に困っていたら、
「来那!」
突然、空き教室の入り口から声が聞こえた。
顔を向けると、そこには萌子がいた。険しい顔をして、こちらをじっと見ていた。
浮気現場を目撃されたような居心地の悪さを感じる。
こ、これはちが……。
そう言いたくても声が出ない。




