表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/85

第49話 萌子がかわいいなと思って【吉瀬来那side】

「何か良いことあったでしょ?」


 顔を近づけられると、香水の香りがした。


「……」


「もしかして、彼氏ができたとか?」


「ち、違う!」


 とっさに否定してしまった。嘘はついていないはずだ。

 わたしの今の状況は"彼女ができた"と言うことができる。


「ふーん。まっ、いいけどね。何かあったらいつでも相談してね」


「うん。頼りにしてる……」


 お姉ちゃんはじっとわたしを見た後、首を傾げてから、洗面所に向かった。手を洗うためだろう。


 ホッと胸を撫で下ろす。


 お姉ちゃんのことは、それなりに信頼しているけど、まだ萌子と付き合ったことは秘密にしておきたかった。

 多分、自分自身まだ信じられないからだろう。夢を見ているような浮遊感があった。


 ——これが現実だと認めて、当たり前になる日はくるのかな。


 わたしは握ったままになっていたバッグのキーホルダーを、ぶらんと宙に浮かせた。

 こういう景品って昔、もっと粗があったよね?

 それは本物みたいで、レプリカには到底見えなかった。





 スマホのアラームが鳴る前に目を覚まして、身支度を整える。学校までの道のりをスキップしながら歩く。

 教室のドアを開けると、まだ萌子は来ていなかった。ため息をつくや否や、永山に声をかけられた。


「やっほー」


「……永山、やっほー!」


「聞いて。私の昨日の睡眠時間、3時間」


「ぶっ。前、2時間って言ってたよね? お願い。もっと寝て!」


「大丈夫大丈夫。今日は4時間以上を死守するつもりだし」


「もっと寝て! 今日は乙女ゲームするの禁止ね!」


「ちぇ。わかったよー」


 永山はよく睡眠時間の短さをアピールしてくる。絶対、6時間以上は寝た方が良いのに。

 そういうわたしも、昨日はあまり眠れなかったけどさ!


 永山と軽く話をした後、自分の席に向かった。


 ……。


 ——今から萌子が隣の席に来る。なんか気持ちが落ち着かない!


 背筋を伸ばしてしゃんと椅子に座ってみる。


 スマホを見て待っているのも、隣のクラスに遊びに行って時間を潰すのも違う気がする。


 ……そうだ!


 わたしは思い立って、カバンから化学基礎の教科書とノートを取り出した。机に広げて、いかにも勉強してますという体を装った。シャープペンを走らせる音がカリカリと響く。


「おはよう……」


 しばらくすると、萌子がやってきた。わたしを物珍しそうな目で見つめている。


「おはよう!」


 メガネをくいっと上にあげるような仕草をしたかったけど——残念ながらかけてない。

 大人しく、いつも通りに挨拶を返す。


「……今日、宿題出てたっけ?」


「出てないよ。予習しておこうと思ってさ!」


「へぇ。そうなんだ。偉いね」


 萌子に褒められた。えへへっ。

 そっけない気もするけど、気にしないようにした。

 朝の教室って勉強が捗るなぁ。こういう風にして彼女を待つのって良いかも。


 萌子はカバンを机の脇にかけてから、椅子に座る。机の中から本を取り出して、読み始めた。カバーがかけられているので、タイトルはわからない。


 彼女を盗み見ても、ちっともこっちを気にしている様子はない。むしろいつも通りと言えるだろう。


 ——わたし達、付き合っているんだよね?


 もしかして、すべて夢だったりしないよね?


 こっそり、ほっぺをつねってみる。だけど、普通に痛かった。

 あはは。何しているんだろうと自嘲していたら、横から視線を感じた。萌子が、こちらをじっと見ていた。


「……何してるの?」


 そりゃ、そんな反応にもなるよね。


 萌子と付き合ってるって、まだ実感なくて……ついベタなことをしちゃったって言ったら、笑ってくれるかな。


 気まずそうに、目線をさまよわせていると——なんと、萌子も自分のほっぺをつねり始めた。むにむにと。頭に「?」マークが付いているように納得いっていない顔をしている。


 なんだかそれがおかしくて、つい吹き出してしまった。


「な、なに!?」


「いや、萌子がかわいいなと思って」


「なななななな……」


 彼女は、「な」をたくさん連呼すると、そっぽを向いてしまう。よく見ると耳が真っ赤だった。


 やっぱり、かわいい。こういう素直じゃないところが特に。


 しりぞいたことで萌子の持っている本のカバーが少しズレた。あっ。タイトルが見えそう。


「ねぇ、何の本読んでいるの?」


「……内緒」


 デジャヴだ。

 前も萌子に聞いたことがあった。そのとき彼女は「秘密」と言っていた。

 あの時は、遠回しに拒絶されたと思っていたけど——。


「"内緒"ってタイトルの本なんでしょ?」


「……うん。そうだよ。正解」


 萌子はそう言うと、本のカバーをズラして見せてくれた。

 そこには黒いフォントで「内緒」と大きく書かれていた。どんな物語なんだろう。


 ——萌子って、ぱっと見は掴みどころがないけれど、よく見ていると意外と単純だ。最近、そのことがわかってきた。


 お互い顔を見合わせて、ふっと笑った後、萌子は本の世界に戻り、わたしは勉強へと戻った。


 多くを語らずとも、そばにいるだけで心が安らぐ。


 あぁ。なんかいいな。これ。


 無理に話をつなげなくてもいい。盛り上げるための話題を探さなくてもいい。沈黙が心地いい関係も、悪くないと思えた。


 眩しい光を見上げながら、今日は晴れて良かったとしみじみ思った。


「みんな、おはよう〜」


 しばらくして、教室に花先生が入ってくる。いつもに増して、ご機嫌な気がする。

 多分、フタコンで優勝したからかも!?


 ライバルだった相手が同じ空間にいることが面白かった。萌子も同じことを思っているかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ