第45話 特別になりたい<井戸川萌子side>
◇
フタコン最終日。私たちはいつものようにカラオケ店にいた。休日で混雑していたが、思ったほど待たずに済んだ。
偶然か運命か——吉瀬さんと初めて来たときと同じ個室に案内された。
私と吉瀬さんは、ドリンクバーで同じオレンジジュースを注いだ後、部屋でライブ配信の準備を進めていた。
「やっぱり、るんさんが1位かぁ」
フタコンの途中結果のランキングには、るんさんとお姉ちゃんペアが相変わらずトップにいる。
私たちは6位……。
このまま順位を覆せるだろうか。つい弱気になってしまう。
「わたし達も負けていられないねっ」
吉瀬さんはどんなときも、笑顔を絶やさない。
どんな壁でも軽々と超えてしまいそうなパワーがあって、隣にいる私まで元気づけられた。
——好きの気持ちがどんどん強くなっていくのが自分でもわかる。
「んっ? どうしたの」
「な、なんでもない」
じっと見ていたからだろうか。声をかけられる。
私は慌てて目を逸らした。
「じゃあ。そろそろ始めようか」
「うん」
——いま、私たちの配信がスタートする。
◇
二人でスマホの画面に映り込み、リスナーとおしゃべりしたり、歌ったりする。
そこにいる全員で空気を作っていく感じが、なんだか好きだった。
一人で配信していた頃にはなかったぬくもりを、彼女に教えてもらうことができた。
吉瀬さんは、学校の子が配信に遊びに来ていることをわかっていながら、今日も私と手をつないでくれた。嬉しかった。
【仲良い二人。尊い╰(*´︶`*)╯♡】
【フタコンもいよいよ大詰めだね!】
【でも、このままだと負けちゃうかも……】
リスナーのコメントを読みながら、自分たちの今いる順位を知る。
4位だ……。
締め切りまで残り15分。逆転を狙うには、リスナーに多くのアイテムを投げてもらうしかない。
——頼むことなんて、私には無理だった。
だから、勝てなくても、それでいいと思っていた。
隣を見ると、吉瀬さんがいてくれる。つないだ手にぎゅっと力が入る。
吉瀬さんが私を見つめる。長い間、そうしていたように思う。
「——わたしね、いどっちが好き!」
「えっ」
彼女はにっこりと笑う。
勘違いしそうになるところをグッと堪える。
「……私も好きだよ」
「わぁ! それじゃ、両思いだねっ」
【えっ。なになに!】
【尊い╰(*´︶`*)╯♡】
【告白!?】
リスナーも翻弄されている。
吉瀬さんはそわそわと落ち着かない様子で、やがて決意を宿した表情を見せ、こちらに向き直った。
「——わたし、いどっちの特別になりたいなっ」
「と、特別!?」
「うん。一緒に配信できるだけで十分楽しいんだけど……たぶん、これ以上でも以下でもない関係なんだろうなって、思ってて……えっと」
吉瀬さんは、まだ気持ちがまとまっていないように思えた。
【それってさ、付き合いたいってことじゃない!?】
リスナーの一人が、そんなコメントをする。
「ええっ。そんなの、恐れ多いよ!」
コメントを見た後、吉瀬さんはそんなことを言う。
……私のセリフだよ。
「でも、実はね、フタコンで優勝できたら、いどっちにわたしの想いを伝えようと思っていたの」
「えっ」
「リスナーを巻き込んじゃうし。卑怯かなって思っていたけど……あぁ、もう。難しいことを考えるのはやめる! 覚悟決めるね!」
彼女は透き通った瞳を私に向ける。
「わたし、いどっちが好き! フタコンが終わってからも一緒にいたい。その、わたしと、つ、付き合ってくれませんか?」
そんなことを、真剣な顔をしながら言う。
——パフォーマンスには見えなかった。
【キャーーーー!!!】
【マジ告白!?】
【╰(*´︶`*)╯♡╰(*´︶`*)╯♡】
コメントも盛り上がっている……。
心臓が速く脈打ち、ふわふわとした感覚になる。
嬉しいのに——信じられない私がいた。
ライブ配信中に言っているからかな?
それとも、私の自己肯定感の低さが原因だろうか。
心のどこかで吉瀬さんは私のことを好きにならないと思っていた。
「えっと……」
みんなが私の返事を待っている。
「私なんかが、ライライちゃんと釣り合わないよ……」
嬉しいのに、そんなネガティブな言葉が口をついてしまう。私の悪い癖だ。こんなときに臆病な一面が出てしまう。
【諦めるなよ!!!!!!】
ひときわ力強いコメントが目に入った。
「ハトゲッチュ……」
彼は、ずっと前から私を応援してくれているリスナーさんだ。




