第44話 ねっ! しようよ<井戸川萌子side>
「わたし達がライブ配信しているのがバレたみたいだね。で、キスやハグしていたねーってことも言われた」
「ご、ごめん、なさい」
嫌だっただろう。好奇の目に晒されたかもしれない。
配信のアーカイブを残しておかないで、とっとと消せば良かった。
「なんで謝るの?」
吉瀬さんは、キョトンとした顔をしている。
「だって、私なんかと仲が良いなんて知られたら……吉瀬さん困るでしょ? ましてや、キスや抱き合うところも見られたなら——」
「困らないし! 嫌じゃないから!」
彼女は叫ぶように言う。
「もともとは、わたしが井戸川さんにしたいからしたことだよ。それに、堂々としてたら、別に何も言われなかったよ。——でも、二人で一方的に井戸川さんを呼び出したことは注意しておいた。きっと、怖かったよね。二人に代わってだけど謝らせて。本当にごめんね」
吉瀬さんが謝る必要はないのに。
だけど、一つ疑問点が残った。
「嫌じゃなかったの?」
「ん?」
「その、私とキスするの……」
「うん」
吉瀬さんは屈託ない顔で言う。
「ねぇ。それってなんで?」
「なんでって……」
前のめりで聞いてしまった。
吉瀬さんは何かを考える素振りをした後、ほんのりと頬が赤くなった。
「井戸川さんのことが、好きだから……かな」
「……!」
「って、わー! 告白みたいだね」
顔の前で、手をパタパタと仰ぐ仕草をする。
「……ねぇ。井戸川さん」
「な、なに?」
「フタコン、最後までしようよ! きっと、二人に言われて悩むことあったよね? だけど、わたしがいるから大丈夫! もう口出しさせないよ。むしろ、今回のコンテストで応援してもらう側に回ってもらうから! わたし井戸川さんともっとライブ配信したいよ……」
彼女は、にっこりと優しい微笑みを向けてくれる。胸があたたかくなる。
吉瀬さんが私とライブ配信をしたいと言ってくれている。とっても嬉しい。
さっきまで沈んでいた気持ちが、彼女の一言で一気に晴れた。
「……うん」
ゆっくり噛み締めるようにと頷いた。
吉瀬さんは「やったーーー!」と子どものように喜んでくれる。
フタコンが終了するまで、後2日。とりあえず上位を狙うなら、今日もライブ配信をした方が良い。
「井戸川さんの体調が悪いなら、今日はライブ配信やめておいた方が良いかもね」
「……吉瀬さんが会いにきてくれたから治った」
「えっ」
「……だけど、今日私は学校を休んだ立場だから、ライブ配信をしていいのか悩む」
学校の子たちも私たちの配信を見ているとわかると、少し後ろめたい気持ちになる。
「大丈夫でしょ! 井戸川さんといどっちは同じだけど、同じじゃないとも言えるし! それに、わたしも昔、友達と喧嘩して何もかも嫌になって学校休んだとき、こっそり配信してたしっ」
そう言って、ピースサインを向けてきた。
吉瀬さんも学校に行きたくないときってあったんだ。明るくて元気で、人気者だからこそ、そういう悩みとは無縁なものだと思っていた。
実際は、みんないろいろあるよね。
「それに今日配信した方が、夢野と関口も安心すると思う。井戸川さんが休んだのは私たちのせいかなって責任感じてたから……」
そうだったんだ。
昨日、呼び出されたときは、怖くてもう関わりたくないと思っていたけど、ちゃんと話してみたら、また違う印象を持つのかもしれない。
「ねっ! しようよ」
「……うん。わかった」
吉瀬さんに、かわいくお願いされたら断ることはできない。
——その日のライブ配信は、私の家ですることになった。
部屋着であることに気づいて、慌てる。
私、こんな気の抜けた格好で、吉瀬さんに会っていたんだ。恥ずかしい。
リビングは配信環境が整っておらず、自室へと場所を変えた。
◇
「今日も大成功だったね! 夢野と関口っぽい人も来てたし」
「……変に思われてないと良いな」
「大丈夫だって!」
吉瀬さんが、元気を出すようにと私の肩に手を乗せた。
今更だけど、私の部屋に彼女がいることが信じられなかった。精いっぱい、取り乱していないふりをする。
「フタコンもいよいよ明日が最終日だね」
「うん」
「明日はカラオケに行くで良いかな?」
私の家でも良いと言いたいところだけど、明日は午後から母親がいる。
「うん」
「頑張ろうね」
吉瀬さんの笑顔をずっとずっと隣で見ていたかった。




