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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第43話 終わりと来訪<井戸川萌子side>

 私と吉瀬さんは、普段関わることのない立場にいる。いつも一緒に行動しているような関係でもないし、私たちが仲良くしていたら、違和感を覚える人もいるのだ。


 ——本当は、このままライブ配信を続けたい。


 だけど、吉瀬さんの学校におけるイメージを悪くしてしまう。それだけは嫌だった。


「私が終わりにしたいの——」


 そんなことを口にしていた。


「今まで一人で伸び伸びとやってきたつもりだった。フタコンに参加して、他のライバーと戦うことになんだか疲れちゃったの。……だから、ここで終わりにしたいの。無責任で本当にごめんなさい」


 頭を下げる。彼女は「でも」とか「だって」とか口ごもる。


 元はと言えば、私のライブ配信に吉瀬さんが映り込んだことから始まった縁だ。


 もしも、まだ彼女がライバーとして活動したいなら、自分のアカウントですれば良い。

 ——わざわざ私と一緒に撮る必要はないはずだ。


「これまでの収益についてはさ、しっかり計算して後日渡すから……」


「そんなつもりで井戸川さんとライブ配信していたんじゃないんだけど……!」


 吉瀬さんの声は震えていた。


「本当にこれで終わりなの?」


「……」


 吉瀬さんの顔を正面から見つめる。とてもきれいだ。大きな目に白い肌。さらさらの髪にピンと伸びた背筋。彼女の美しさは見た目だけじゃない。内面の優しさやまっすぐさも、私はちゃんと知っている。


 ——ねぇ。好きって伝えなくていいの?


 告白しようと決めていたのに。このまま、引き下がって、吉瀬さんを思い出にするのは早いんじゃないの。

 心のどこかで、そんなことを思ってしまう。


 だけど、自信がなかった。

 女子二人に呼び出されて、身の程を嫌というほど思い知った。


「うん。終わりにしよう」


「そ、う」


 吉瀬さんは確かめるように言った。彼女の手がそっと離れる。


 タイミングを見計らったかのように、午後からの授業開始のチャイムが鳴った。


 ——その日の数学の授業は、頭の中に入らなかった。

 現実感が薄れたまま帰路につき、気がつけば玄関の前にいた。





 次の日。私は学校を休んだ。

 熱が出たわけでも、具合が悪いわけでもない。


 ただ単に、身支度をして、玄関のドアを開ける気力が湧かなかっただけだ。


 両親は仕事でもう家にはいなかった。朝ご飯を食べた後、リビングのソファーに座ったら、もう立ち上がることができなかった。


 高校は今まで皆勤賞。一度くらい休んでも内申書には響かないだろう。


 ほどなくして自室に戻り、カーテンを引いて、再度ベッドに潜り込んだ。

 担任の花先生には自分で休むという連絡をして、鳴海にはLINEを入れておいた。


 ぼーっとスマホを見ていると、キラライブのアプリが目に入る。

 ふとタップして、フタコンのランキングページを見た。

 昨日、ライブ配信をしていなかったせいか順位が落ちていた。


 良かった。これでもう優勝の未練は完全に断ち切れる。


 スマホをベッドの横に置いたら、安堵からか、そのまま眠ってしまっていた。

 実は昨夜、なかなか寝付くことができなかった。

 頭に浮かぶのは吉瀬さんのことばかり。夢にも彼女が出てきたような気がした。


 カーテンの隙間から漏れる陽の光を微かに感じながら、寝返りを打つ。

 どれくらい時間が経っただろう。


 ぼんやりとした頭に、ピンポーンとチャイムの音が響いてくる。


 あれ? 私……。


 そっか。学校を休んだんだった。長い間、眠っていたようにも思う。

 誰だろう。押し売りとかかな?


 それなら居留守を使ってしまおう。掛け布団を上まで持っていき、寝返りを打ったときにスマホにピコンと通知が届いた。


 見てみると、吉瀬さんからだった。


『ねぇ、家にいるんでしょ? 開けて』


 えっ。


 ——完全に目が覚めてしまった。


 もしかして、このチャイムって吉瀬さん?

 な、なんで私の家を知っているんだろう。


 いろいろと思うことはあった。だけど、私はすぐに起き上がり、恐る恐る玄関のドアを開けた。


「やっほー……」


 目の前に、吉瀬さんがいた。長い髪をひとつ結びにしていて、いつもと雰囲気が違う。

 どんな髪型にしても似合うなぁ。なんて、私はぼーっとした頭で考えた。


「鳴海さんから具合悪いって聞いて、家教えてもらって……で、来ちゃった。はいこれ。お見舞い品」


 そう言って、白いビニール袋を渡してくる。中には、スポーツ飲料やゼリーなどが入っていた。


「ありがとう」


「んっ。顔色は悪くないね。熱はあるの?」


「ない……と思う」


「何それ」


 吉瀬さんがクスッと笑う。


「中に入っても良い?」


「う、うん」


「お邪魔します」


 吉瀬さんは靴をきれいに揃える。リビングへと彼女を案内し、ソファーに座るよう勧めた。


「えっと。烏龍茶しかないけど……飲む?」


「お構いなく……」


 吉瀬さんの目の前に飲み物が入ったコップを置き、私はありがたくスポーツ飲料をいただいた。


 ——私の家に吉瀬さんがいる。夢みたいな光景に心が躍る。これって、現実だよね?


「……夢野(ゆめの)関口(せきぐち)から聞いた。昨日、井戸川さんを呼び出して、詰めたんだってね?」


 おそらく隣のクラスの女子二人のことを言っているのだろう。

 もしかすると私が学校を休んでいる間に、何か接触があったのかもしれない。

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