第42話 二人は釣り合ってない<井戸川萌子side>
◇
「ねぇ、これってさ。井戸川さんだよね?」
「ほんと、びっくりしたー。花先生以外にもキラライブでライブ配信している人っているんだねー! ウケる」
次の日の昼休み。私は隣のクラスの女子二人から、屋上へと続く階段の踊り場に呼び出された。
机や物が置いてあるスペースで、滅多に人が来ない場所だった。
目の前にいる二人は派手な容姿で、校則で禁止されているピアスもつけている。ネイルが施された手でスマホを持って、私のキラライブのプロフィール画面を見せてきた。
——とうとう、生徒に知られてしまった。
顔出し配信をしようと決めてから、恐れていたことが現実に起きてしまった。
私は顔が上げられなかった。
「なにもさー、責めてるわけじゃないよ?」
「ねっ。でもさー、アーカイブっていうの見てたらさー。来那も映ってるじゃん?」
驚いて肩が跳ねた。
「ここ最近、来那が付き合い悪かったのってこれかーって思ったー。まさか井戸川さんと遊んでたとはねー」
「——ってか、二人配信でさ、キスしてるよね?」
女子の一人が語気を強めた。
「これ、井戸川さんが無理やりやらせてない?」
「だって、来那がこんなことするわけないもん! そもそも——」
そこから先は、聞きたくない言葉だらけ。
"来那が遊びの誘いに乗らないとメンバーが集まらない"や、"二人は釣り合ってない"やら。
「こういうのってさ、学校に報告したらどうなるんだろ?」
「えー? ヤバそう。ってか、花先生も配信してるじゃん!」
「それは身内とだから良いんでしょ。あと、キスやハグなんてしてないしさー」
「あーね。来那のは公序良俗に反するってやつ?」
私をそっちのけで女子二人は話を進めていた。
こっちの出番なんて、最初からなかった。段々と弱気になってしまう。
もしかして、吉瀬さんは私と配信をするのは嫌だったんじゃないかなと、思い込んでしまう力があった。
額に汗がにじむ。
そうだよね。そもそも一緒にいること自体、間違っていたのかもしれない。
「……すいませんでした」
私は深くお辞儀をして謝った。
「吉瀬さんは、無理して私といてくれてたのかもしれません。……目が覚めました」
「……」
「……」
「二人にも不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
「そ、そこまでは言ってないけど……」
「まぁ、わかってくれたなら別に良いし」
私が反省したことで、二人もわざわざ学校には報告しないと誓ってくれた。
女子二人とは穏便に別れて、私は教室に戻った。
吉瀬さんと数日だったけど、ライブ配信を一緒にすることができた。夢が叶った。
——それだけで十分な気がした。
フタコンを始めたのも、彼女との距離が少しでも縮まればと思ったから。そう考えると、本気で挑んでいるライバーさんには、後ろめたさを感じる。
人から言われて気づいた。ここ最近、私は浮かれて周りが見えていなかったんだ。
私のわがままが、吉瀬さんの交友関係を縛ってしまう。——ここで、一旦距離を置くべきなのかもしれないと思った。
◇
「ねぇねぇ、井戸川さん。今日のライブ配信のことなんだけどさ……」
隣の席の吉瀬さんが、屈託のない笑顔で話しかけてくる。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、遠くの存在に感じてしまう。どうしても彼女の目を見られなくて、視線を外した。
「うん。それなんだけどさ、もうやめにしない?」
「えっ?」
吉瀬さんの声が硬い。反射的に顔を上げると、ショックを受けている様子がまざまざと伝わってきた。
「……えっとね、フタコンのランキングを見てみると、るんさんが1位のところにいて、もうどんなに頑張っても届かない感じがするんだ」
「……」
「そもそも、るんさんは専業ライバーだから、私たち学生が、どうやっても太刀打ちできない相手なんだ」
「……」
「ねっ? 十分、頑張った方だし、最近では吉瀬さんの放課後を独占し過ぎているし……。ここら辺でやめるのがちょうど良いと思うんだけど……」
私は俯きながら淡々と話した。彼女の顔が見れなかった。
呆れてしまっただろうか。
「……もしかして、誰かに何か言われたりした?」
彼女は何でも見透かしているというような、きれいで無垢な瞳を向ける。本当のことを言ってしまいたくなる。
「……言われてないよ」
私は嘘をついた。
「本当?」
「うん」
「なら、続けたいよ! せめてフタコンが終わるまで井戸川さんと走り抜けたい」
手をギュッと握られてしまった。
まるで告白されたように心が震えた。
吉瀬さんは私と配信をすることが嫌じゃないようにも思える。
でも——。
先ほどの女子二人から言われた光景が頭をよぎる。




