第41話 吉瀬さんが一緒にいてくれるなら、何だってできる気がした。<井戸川萌子side>
◇
<井戸川萌子side>
晩ご飯は喉を通らなかった。
お母さんから「具合悪いの?」と聞かれたけど、答えられなかった。
一人、自室のベッドに寝転がり、天井を見る。
今日の吉瀬さん積極的だったなぁ。なんてことを思い出して、顔を覆った。
きっと、私たちは友達の範疇を越えるようなことをしている。
——今日、学校に着いたときから、吉瀬さんと話すときは、できるだけ素直な自分でいようと決めていた。
彼女にかわいいと思われたいからという下心は伝わっていなかっただろうか。
ライブ配信が終わった後、吉瀬さんとぎゅっと抱き合った。
ここだけ見たら、友情のハグにも見えなくもない。
だけど吉瀬さんは私のシャツを指でつつーっと触った。その艶めかしい動きに戸惑い、慣れていないわたしは、思わず声を漏らしてしまった。
彼女は、わたしの首筋も舐めた。まだ気持ちが整理できず、先ほどから頭がぐるぐると回っている。
——吉瀬さんの気持ちがわからなかった。
気まぐれであんなことをしたのか、それとも……。
そのとき、スマホが震えた。画面を見ると、鳴海からの着信だった。
わたしは考え事を打ち消すように、電話に出た。
「はい」
『あっ。萌子ちゃん? 私だけど——』
一呼吸置くような、沈黙が広がる。
『実はね、今日の放課後、花先生に告白したの』
驚いた。
昨日、鳴海が話したことだったけど、まさか今日実行に移すとは思っていなかった。
『驚いた?』
彼女に見透かされていた。
「……うん」
『花先生が教室で、一人窓の外を見ていたの。その姿が、儚くて、思わず声をかけてしまっていたの』
私は相槌を打つ。
『世間話を少しした後、勇気を出して"好きです"って花先生に言ったの。そしたら、ゆるっとした笑顔で笑ってくれて"生徒にそう言ってもらえて嬉しいな。私も好きですよ"って言ってくれたの。——それだけでもう十分だった』
思わず息を呑んだ。
「……でも、それって鳴海が告白したって花先生わかっていないんじゃ」
『いいの』
真っ直ぐな声で言い放つ。
『——そしてね、教室を離れるとき、つい"これからも配信応援してますね"なんて口が滑っちゃったの。そしたら"いつもありがとう"って言ってくれたんだ。たったそれだけのことが、すごく嬉しかったの』
「鳴海……」
鳴海はすごいな。自分の気持ちを真っ直ぐに花先生に伝えることができて。
私は親友をあらためて尊敬した。
『だからね。今日の花先生の配信で、思わず1万コインのアイテムを投げちゃったの!』
「ええっ!?」
『なんだか病みつきになりそう……。花先生のために役に立っている私、良い。だからごめんね。萌子ちゃんと吉瀬さんのことは、花先生以上に応援することができないの』
な、鳴海。常識人で優しい子と思っていたけど、タカが外れたらすごい子なんだ。
「別に大丈夫だよ。だけど、あまり無理しない程度に"推し活"頑張ってね」
『ありがとう!!!!!』
その後は、少し世間話をしてから鳴海の電話を切った。
「確認しておこうかな」
キラライブのフタコンのページを見てみると、るんさんとお姉ちゃんペアの応援ポイントがかなり伸びていた。
鳴海が高額アイテムを使ったおかげでもあるよね。
花先生に告白して、付き合うことを望まずに、リスナーとして応援する形で気持ちを昇華させているのはすごいと思った。
——私も、吉瀬さんに想いを伝えたいな。
今日みたいなことを友達同士でするのって……やっぱり、ちょっと違う気がする。
吉瀬さんと、くっつくたびに彼女を好きなことを自覚してしまう。
私が好きだと伝えることで、少しでも同じように意識してほしい。
……たとえ振られたとしても、彼女と過ごした時間が色褪せることはない。
——正直、怖くないと言ったら嘘になる。
だけど、私がライブ配信を始めた理由や、自分の殻を破って明るく振る舞えるようになったのも元を辿れば吉瀬さんのおかげだ。
もう自分の中で気持ちを抑え込んでいるのは限界だった。
鳴海にも勇気をもらうことができた。きっと、次は私の番だ。
フタコンが終わったら、吉瀬さんに告白しよう。
そのためには、願掛けのように優勝を目指したい。
るんさんという強敵がいるけど、頑張って立ち向かいたい。
吉瀬さんが一緒にいてくれるなら、何だってできる気がした。




