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第4話 いどっち

 それは3年前の中学2年生の頃。お姉ちゃんが先にライバーとして活動していたのがきっかけだった。


 リスナーと楽しそうに話をする、お姉ちゃんに魅了された。隣の部屋からはいつも笑い声が聞こえてくる。


「……ねぇ! それ、わたしもやってみたいな」


「いいよ。姉妹ライバーになろっか♪」


 お姉ちゃんは、一つ返事で了承してくれた。


 最初はお姉ちゃんのライブ配信に、わたしがちょこっと参加する感じだった。

 コメントを読んでリアクションを取ると、リスナーが反応をくれたり、アイテムを投げてくれたりした。


 全国の人とスマホを通じてコミュニケーションを取れるところは面白かった。

 学校と家の往復ばかりの毎日の、わたしの世界が少しずつ広がっていった。


 次第に、自分のアカウントを作成して、ライブ配信をするまでになった。お姉ちゃんに任せていたときとは違って、自分で一からコンセプトから何まで考えないといけないので難しかった。


 ライブ配信って、一人で喋っていると意外と間が持たない。だから後ろで音楽を流すと雰囲気が出るし、盛り上げるには大事なことを知った。


 他のライバーさんの配信を見て、勉強することもあった。暗い表情や、ネガティブなことばかり言うと、人って寄り付かない。取り繕うとしても駄目。

 

 学校で嫌なことがあったときに配信したらリスナーの一人に「何かあった?」と聞かれたことがあった。自分ではにこにこしているつもりでも、やっぱり見ている人にはバレてしまうんだということを学べた。


 お手本にしたいライバーさんの真似をしたら「なんか変」と言われたこともあった。やっぱり、背伸びをしてもボロが出てしまう。


 ——それからは、ありのままの自分でいることを心がけた。


 無理をせず、わたしにできることをコツコツと積み上げていった。そしたら、みるみるうちにファンが増えた。『キラライブ』の同時視聴者ランキングで一瞬だけ1位を取ったこともあった。


 だけど、わたしには夢がなかった。

他のライバーさんは、アイドルになりたい、アプリ内のスペシャルランクの称号を取りたいなど、明確な目標があるようだった。


 ライブ配信は楽しそうだから始めたという、宙ぶらりんなわたしだが、ある日を境に飽きてしまった。


 その頃には、お姉ちゃんも受験のためにライバーを引退していた。


 ——頑張る理由もないなら、やめてもいっか。


 わたしは、リスナーに説明することなく、ライブ配信を引退した。こんなふうにやめちゃったけど、誰もわたしのことなんて気にしていないと思う。

 だって、毎日誰かしらライバーデビューはしているから。「今日初めて」のタブ一覧を見ると、何十人もの人がずらりと並んでいる。わたしについていたファンも他に流れていくだろう。


 ライブ配信は高校に入学する頃には、とっくにやめていた趣味の一つだった。


 だけど、わたしはリスナー側として、たまに他の人の配信を見ている。人気ライバーの振る舞いは人間関係においても参考になる。明るいライバーは、見ているだけで元気をもらえた。


 ライブ配信が楽しかった分だけ、アイテムを投げると、ライバーさんも喜んでくれる。ギブアンドテイクな関係のところも好きだった。


 あっ。そうこうしているうちに、「るん」さんの配信が終わった。

 まだ、家に帰るには時間がある。誰か他の人の配信を見てみようかなと思い立ち、ホームに戻るボタンを押してアプリ内をスクロールする。


 ふと、キツネのイラストがサムネイルになっている配信が目に止まった。「全力で歌います!」と書いてある。


 ——何故だろう。


 普段は歌配信なんてあんまり見ないけど、気づけば指がタップしていた。


 ——わあ。きれいな声。


 その女性ライバーさんは、今話題の男性アーティストの名曲を歌っていた。カバーであるのに耳心地が良くて、つい聞き入ってしまった。


 ライバーの名前は「いどっち」。顔出し配信ではないので、見た目が、どんな子なのかはわからないけど、多分、絶対いい子だ。柔らかい雰囲気が歌声を通じて伝わってきた。


『ええっ!?』


 歌が間奏に入ったタイミングで、いどっちはひときわ大きな声を出した。


 リスナーのコメントも【どうしたの?】【何々?】と戸惑っている。


「き、き、気にしないで! 2番いくねっ」


 どうしたんだろう。近くに虫でもいたのかな?


 わたしは目を閉じて、いどっちの歌声に耳を澄ませる。


 ビブラートがしっかりしていて、まるでプロみたい。多分、わたしと歳はそれほど変わらないよね?


 つい気になって、プロフィールを見たけど、なんと空白だった。


 普通ライバーさんだったら、アピールポイントをしっかり書くはずだ。例えば、「高校生で歌うのが得意です」「みんなに癒しを与えられるように頑張ります」「スペシャルランクを目指しているので、ファンになってくれる人を募集しています」など、最低でも3行以上は書くはずだ。


 このライバーさん、珍しいなと思った。

同時視聴者数を見たら5人だった。こんなに素敵な歌声をしているのに。もっともっと上を目指せるはずなのに……!


 サムネイルやアピールポイントをもっと凝ったものにすれば良いのになぁ。顔出ししていないから伸びないのかな? うーん。

でも、これから伸びそうなライバーさんを見つけちゃった。


 興味が湧いてしまい、ポチッとフォローボタンを押した。

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