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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第39話 嫉妬と翻弄【吉瀬来那side】





<吉瀬来那side>



 ——井戸川さんがいつもと違う。


 朝、教室で顔を合わせたとき、笑顔で「おはよう」と言って、軽く手を振ってくれたのだ。


 わたしは唖然とする。さらに、


「昨日はありがとう。家に帰るの遅くならなかった?」


 なんて、気遣う言葉もくれた。


 ——今日も、カラオケ店にライブ配信のために井戸川さんと二人でやって来た。


 そのときも部屋に入るなり、「暑くない? エアコン付けよっか」とテキパキ動いてくれた。


 まるで、画面の中にいるいどっちが、そのまま出て来たみたいな錯覚を抱く。

 今日はずるいくらいにピュアで……そのなんて言うか、かわいいと思う。


「あははっ。レバニラくん。それ面白すぎ」


 横にいる"いどっち"は、画面の中のリスナーと楽しそうに話している。今日はいつも以上に一人ひとりと向き合っているように思う。……わたしなんて、そっちのけだ。


 いやいや! ライブ配信なんだから、リスナーとコミュニケーションを取ることが一番大事なのはわかってるよ!?


 だけど、だけど……。

 このモヤモヤした気持ちってなんだろう。


 わたしはじっと井戸川さんを見つめる。


 最初の出会いは最悪だった。

 わたしが井戸川さんの名前を"井戸田"と間違えたことで、彼女を見るたびに、あーやっちゃったという罪悪感にもさいなまれた。


 偶然ライブ配信をしていることを知って、空き教室でわたしにだけ歌を披露してくれて、今ではこうして一緒にライブ配信をする仲にもなった。


 ——そして、キスまでしてしまった。


 彼女がリスナーに笑いかけるのを見るのが辛い日が来るなんて思ってもいなかった。


「な、何?」


 いどっちが、困惑した顔をして、わたしを見つめ返す。

 ハッとする。


「何でもないよ〜。みんな! フタコンもいよいよ大詰めだねー」


 本来は一ヶ月開催される予定だったフタコンが、運営の都合により、残り4日で終了することになった。

 そのお知らせを見たとき「ちょっと待ってよー!」と叫びたくなった。


 終了日が早まるということは、井戸川さんと過ごせる放課後の時間が、もうすぐ終わることを意味していた。

 運営さん……しっかりして。


 現在のフタコンのランキング1位は、るんさんと"お姉ちゃん"だった。

 応援ポイントの差は4万ほどある。——正直、優勝は難しいのではないかと思った。

 でも、絶対に無理ってわけでもない気がする。


 そうだ。ウカウカしていられない!

 わたしもフタコンに集中しなくちゃ。

 優勝を目標にすることで、彼女と共に過ごす時間がより特別に思える。


 中学生の頃、ただ何となく配信していたときには感じられなかった気持ちだ。

 目標があるだけで、こんなにもやる気に満ち溢れるなんて……!


 ——井戸川さんから、大事なことを教えてもらえた気がする。


「レバニラくんってアニソンが好きなんだよね?」


「レバニラくんの名前見てたらお腹空いてきたー」


「レバニラくん大好きっ」


 井戸川さんは、レバニラくんばかりに構う。

 それもそうだ。アイテムをこまめに投げてくれて、フタコンの応援ポイントに大貢献してくれているから。


 レバニラくんは、井戸川さんのライブ配信にも毎日来てくれているし、推しって感じなのだろう。

 顔を見ながらコミュニケーションを取ると親近感が湧き、一緒に同じ時間を過ごすほど好意的な感情が芽生える。

 その気持ちはわかる……わかるんだけど……。


「私の結婚観かぁ。うーん、まだ考えられないかなぁ」


 いつのまにか井戸川さんは結婚の話題について話していた。


「それに、相手もいないしねっ」


 そう言って、軽くウインクする。


【そ、そうなの?】


 レバニラくんが動揺したようなコメントをする。


「うん」


 井戸川さんが照れ笑いをする。


【じ、じゃあさ、僕が立候補しても良い?】


 ちょ、調子に乗るな!!!


 そう言いたかったけど、ライブ配信中だ。だから、わたしはニコニコしている他ない。


「わぁ。ありがとう!」


 そう言って、井戸川さんは手でハートを作った。


「やめて!」


 わたしは間に入る。思いがけず大きな声が出た。


「そんな笑顔、他の人には見せないで!」


 反射的にそんなことを言ってしまっていた。ヤバい。

 サーっと血の気が引いていくのがわかる。


「ライライちゃん?」


 井戸川さんは、きょとんとした顔をしてわたしを見つめる。


【なになに?】


【急にどーしたの】


【修羅場?】


 リスナーのみんなも混乱している。


 ど、どうしよう。


 わたしが固まっていたら、井戸川さんがギュッとハグをしてくれた。

 突然の出来事に戸惑う。


「よしよし」


 そう言って、わたしの背中を優しくさする。


「寂しかったよね」


 こ、子ども扱いしてる!?

 だけど、妙に安心してしまい、わたしはされるがままでいた。


 シャンプーの香りが鼻をくすぐり、心拍数も上がる。


「将来、ライライちゃんがひとりになっても、私はそばにいるよ」


 背中を軽く、一定のリズムでぽんぽんと叩く。


「リスナーのみんなも、寂しいときはいつでもここに来てね。楽しくお話ししようね。ずっとずっと」


 そう言って、場の空気をなだめてくれる。


 ——ずるい。井戸川さんは本当にずるい。


 そんな母性を出すなんて。本当だったら、わたしが、そうしている側なのに!


 無自覚に彼女はわたしを翻弄する。思わず唇を噛む。


 しばらくすると彼女はそっと離れる。名残惜しい気持ちになる。


 井戸川さんは澄んだ顔をしている。


「ねっ。ライライちゃん、歌でも歌おうか」


「う、うん……」


「きっと元気が出るよ!」


 そうして、わたし達は手をつなぎながら(?)歌を歌うことになった。


 曲はリスナーからのリクエストで、女性シンガーソングライターの「Friend」に決まった。

 ……今のわたし達にはぴったりの曲だったのだろうか?

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