第33話 るんさんの配信<井戸川萌子side>
◇
『今日はありがとう! また明日よろしくねっ』
吉瀬さんからLINEが届いた。
私は自室のベッドの上で、一人興奮気味に足をバタバタさせた。
——ライブ配信が終わった後、これから先も、いろいろ話すことがあるだろうからといって吉瀬さんと連絡先を交換することになった。
なんて返信をしよう。
……。
長文になりそうだったので、無難に、
『うん』
とだけ送る。
何かかわいいスタンプも送った方が良いかなと思っていたら、すぐに既読がついてビビる。私は急いでトーク画面を出た。
吉瀬さんからの返信はすぐに来た。キツネが笑っているスタンプを送ってくれた。——嬉しく感じてしまう。
今日は楽しかったなぁ。
現実のことなのに、信じられないくらい幸せだった。
演技であっても、吉瀬さんに愛してるなんて言われちゃった。
自然と顔がにやけてしまう。いけないいけない……。
フタコンに参加したので、彼女は配信を盛り上げるために言ったのかもしれない。
そういえば、他のライバーさんはどういう振る舞いをしているのかな。
独学だけでは限界がある気がした。
明日また配信するので、今からいろんなライバーさんの枠を見て回ることにした。
「あれ、これって……」
目に入ってきたのは、るんさんのライブ配信だった。
確か吉瀬さんが見ているといっていた、ライバーさんだよね。
この子も私たちと同じイベントに参加しているんだ。
気になる。どういう配信をしているんだろう。
ちょっと、覗いてみようかな。
こっそり、入室してみたら、そこにはピンク髪のツインテールの女の子がいた。
アニメから出てきたようにかわいい。
『わぁ。いどっちさんいらっしゃーい! アニメとアイドルが好きな、るんでーす。"フタコン"に参加しているので、良かったらゆっくりしていってねっ』
るんさんは、まるで声優のように特徴的な声をしている。
『……もしかして、前に一度見に来てくれたことがあるよねー?』
そうだ。吉瀬さんとスタバに行った帰り道、るんさんの話をしていたからと、一度だけ放送にお邪魔したことがあった。……覚えていてくれたんだ。プロ意識に脱帽してしまう。
『もう! るんは、ルンバから取ったあだ名じゃないよーっ』
常連リスナーと和気あいあいとしたやりとりをしている。私の直感が強敵だと告げていた。
……あれ。でも、フタコンなのに画面に映っているのは、るんさん一人だけだ。
もう一人のひとはどうしたんだろう。
『あっ。お姉ちゃん帰ってきたー!』
『ごめんごめん。アイスコーヒー取ってきたよ!』
私は目を疑ってしまった。
そこに映っていたのは担任の花先生だったからだ。手には二つのグラスを持っている。
高校の先生がライブ配信をしてもいいものだろうか?
私立の先生だから副業はOKという認識なのかな。
『お姉ちゃんは画面の隅にいるってー。みんな、るんに注目しながら、ちょくちょくそっち確認してねっ』
『お願いしまーす!』
配信を見ていると、花先生は脇枠に過ぎず、あくまで二人目として映っているだけだった。
しかし、他にはないやり方で、意外にリスナーにウケているようだった。
顔出しで配信をしているから、うちの学校の生徒達にバレるかもしれないのに……。
そんなリスクを背負って、なぜ花先生はライブ配信をしているのだろうか。
『るんね、友達がいないから、フタコンに出るために、お姉ちゃんに頼んで一緒に映ってもらっているんだ……』
【るんちゃん(´-`).。oO】
【ぼっちでも好き!】
【リスナーみんなが友達だよ!!!!】
花先生が両手を合わせてお辞儀をしている。まるで"頼みます"というような心の声が聞こえた。
「ふふっ……」
枠の雰囲気がシュールで面白かった。
るんさんが、いろいろ喋った後、収集がつかないと花先生がフォローしてくれる。
学校で見る先生とは、また少し雰囲気が違って見えた。
これが妹といる姉の貫禄というやつなのかな?
私は一人っ子だからよくわからないけど……。
花先生を見ると、思い出す人がいる。
それは私の友達の鳴海のことだ。
彼女は以前、花先生が好きだと打ち明けてくれた。
高1のときから片思いしていることを、真っ赤になりながら教えてくれた。
恋愛経験が豊富でない私は、上手くリアクションができなかった。
女同士だけど本気で好きだと、か細い声で伝えてくれた。
鳴海はこのこと知っているのかな。
ぼーっとした頭で、るんさんと花先生のやり取りを見る。
コメントもどんどん流れていく。
【お姉ちゃん眠そうでかわいい(*´◒`*)】
【隅にいないで、真ん中に来て!】
【お姉ちゃん好き……】
んんっ!?
一人気になるリスナーがいた。
るんさんのファンではなく、お姉ちゃんの熱狂的ファンのように思えた。
同一人物によるコメントだった。
えっと。ハンドルネームは……ローマ字で「Narumi」。
……。
なるみ。なるみ……。もしかして鳴海!?
反射的にNarumiさんのプロフィールに飛んだ。
プロフィール欄は空白だった。だけど、アイコンがピアノとなっていた。
……。まさかね。
友達の鳴海もピアノを弾くのが好きだった。
そんなはずないと思いながらも、指が勝手に鳴海にLINEをしていた。『今、何してる?』と、そんなメッセージを送った。
ピコン。
鳴海からすぐに返信がくる。
『花先生のライブ配信を見てる!』
丁寧なURL付きだ。
……もう決まりだ。Narumiさんは私の友達の鳴海だった。
『Narumiちゃんありがとう!』
ライブ配信では"お姉ちゃん"が鳴海に向かって、お礼を言っていた。
私は一人呆然としていた。




