第27話 夢の共演<井戸川萌子side>
吉瀬さんをキッと睨むと、彼女は拍手をするのをやめた。
何もしないというアピールなのか、両手を上に上げる。
その後、
【感動しました!】
というコメントを吉瀬さんが打ってくれた。
なんで敬語!? もしかして、私が睨んだからかな……。でも嬉しい。
「ありがとう! き……ライライちゃん」
いけないいけない。
思わずライライちゃんを吉瀬さんと呼ぶところだった……。
だけど、あらためて思うと不思議だな。
私が、吉瀬来那を呼ぶとき、「吉瀬さん」と「ライライちゃん」の両方を使うことができるなんて。
多分、世界で私だけだよね?
ふふっ。
彼女が何をしているか気になって目線を向けると、ゲホゲホと咳き込んでいた。
オレンジジュースが入ったコップをテーブルの隅に置いて、左手で口元を押さえていた。
おそらく、ジュースが気管に入ったのだろう。私も経験があるから苦しいのは知っている。
【えっ。なんか変な音しない?】
【誰かいるでしょ!!!】
【もしかして彼氏?】
リスナーが次々にコメントをする。
「ち、ちがう……」
【よくあるよなー。彼氏とのデートを兼ねてライブ配信しているやつ】
【えー。いどっちもそういうことする人だったんだ……】
【ショック】
私が否定したところで、リスナーは混乱したままだった。
ライブ配信の雰囲気が悪くなっている。
どうしよう……。
私は、ただうろたえることしかできなかった。
「……どもー! いどっちの友達でーす!」
吉瀬さん——いや、ライライちゃんが私のライブ配信に映り込んだ。
スマホ画面に向かって、にっこり笑顔で手を振る。
【えっ! 誰?】
【かわいい(*´∀`*)】
【なんだ彼氏じゃなくて友達だったんだー】
リスナーのみんなは、どこかホッとしている。
彼氏ではないという誤解は解けたようだ。
……だけど、吉瀬さん!? いいの!?
ライバーを引退したはずなのに。
私は唖然として彼女を見る。
平気という顔をして、親指をグッとした。
「えっと自己紹介遅れました。わたしの名前は——」
そう言って、しばらく黙った後、
「……ライライです!!!」
——ウインクをしてピースをした。
えっ。言っちゃうんだ!
しかもめちゃくちゃテンションが高い。
【えっ。待って、さっきリスナーにいなかった?】
【ライライちゃんーーー!!!】
【なんか昔、見たことある(°▽°)】
最後リスナーの一人が、どきりとするコメントをした。
「そうだよー。わたしも昔ライバーとしてキラライブで配信していたよっ! 嬉しい! 覚えていてくれたのかな?」
ライライちゃんが笑顔で手を振り、はしゃぐ。
【いどっちとライライちゃんの夢の共演!】
【二人ともかわいい╰(*´︶`*)╯♡】
【二人は友達なの?】
「うん。友達だよ!!!! ねっ。いどっち?」
ライライちゃんが私を見る。透き通ったきれいな目。
「う、うん……」
たとえその場のノリだとしても、吉瀬さんが私のことを友達と感じてくれていたことが、素直に嬉しかった。
【いどっちの彼氏じゃなくて良かったー】
リスナーの一人が、そんなコメントをする。
「なんだよそれー! 女同士だけど、もし、わたしがいどっちの恋人だったら、どうするの?」
吉瀬さんはそう言うと、私の左手を取り、ギュッと握った。
それは、いわゆる恋人つなぎというもので——慣れていない私の心臓はバクバクした。
【キターーーーー!】
【まさかまさか!?(*⁰▿⁰*)】
【尊い╰(*´︶`*)╯♡】
リスナーは大盛り上がりだ。
画面上には、高価なアイテムが飛び交っている。
吉瀬さんはいとも容易く距離を縮めてくる。私はガチガチに固まったままだ。
【いどっちに彼氏ができるくらいなら、彼女ができる方が良い】
——そんなコメントを見て、正気に戻る。
「は、離れて!」
「えー」
吉瀬さんと繋いだ手を振り解き、少し距離を取る。
彼女は名残惜しそうな顔をした。
——なんて日なの。今日は。
まさか、ライライちゃんとライブ配信で共演ができるなんて思ってもみなかった。
私の夢が一つ叶った瞬間でもある。




