第25話 アイテムのお返しとカラオケ<井戸川萌子side>
◇
<井戸川萌子side>
「吉瀬さん、なんでこんなに高いアイテムを投げてくれるんだろう……」
ライブ配信が終わり、私は一人、自室にいた。
ベッドのふちに腰掛けて、スマホを見る。
ライライちゃんは今日、4,000コインもするアイテムを投げてくれた。
嬉しいけど——申し訳ないという気持ちの方が勝っていた。
高校生からしたら4,000コインなんてほんと大金だ。
……。
「吉瀬さん、私のこと好きなのかな」
ぽつりと呟く。
すぐにブンブンと頭を振った。
いやいや。そんなわけないって!
吉瀬さんが、私の歌を気に入ってくれるのはわかる。
でも、私という人間まで好いてくれるなんて、そう簡単に考えていいことじゃない。
それに、吉瀬さんは、るんさんの配信を見ているとも言っていた。
——どんな人か気になった私は、スタバの帰り道、すかさずチェックしたのだ。
ちょうどライブ配信をしていて、覗いてみたら、素直で愛嬌のある子だなと思った。
——私とは正反対。
吉瀬さんは毎日欠かさず、私の配信に遊びに来てくれる。【ライライさんが遊びに来たよ!】の表示を見ると、安心する。
「……アイテムのお返ししたいなぁ」
さすがに、このまま何もせずに4,000コインを受け取るのは気が引けた。
前はスタバのギフトカードをプレゼントした。
そしてひょんなことから、一緒にスタバに行くことにもなった。
今回は、何をお返ししよう。
……。どうしよう。思いつかない。
「そうだ」
明日、吉瀬さんに直接聞いてみようかな。
ライブ配信でだったら、素直に話せるのに、顔を合わせたら、テンパって気の利いた話題一つすら出てこない。
今のうちから話すことを決めておくと、落ち着いて話せる……気がする。
そう決めた私は、ふーっと息を吐き、ふかふかのベッドに倒れ込んだ。
◇
「わ、私とカラオケに行きたいの?」
「うん。ダメかな」
翌朝。教室で隣の席の吉瀬さんに声をかけた。
昨日の配信でアイテムをくれたお礼の話をきっかけに、今欲しいものがあるかどうかという話題にうまくつなげられた。
最初こそ吉瀬さんは、「えー。何もないよ! 気持ちだけで嬉しいよ」と言った。しかし、数秒黙り込む。
顔を上げて、私をまっすぐ見ながら、「井戸川さんとカラオケに行きたいなっ」なんてことを言ったのだ。
「えっと……」
正直、恥ずかしかった。
カラオケに行くということは、生歌を吉瀬さんに披露しなくてはならないということだ。
ライブ配信や、空き教室ですでに歌を披露しているから、今更悩むのもおかしな話かもしれない。
でも、カラオケって密室で、二人きりのまま長い時間を過ごすことになる。
すごくドキドキしてしまって、即答できなかった。
「いどっち、お願い!」
吉瀬さんは私のハンドルネームを言いながら、両手を合わせて懇願するようなポーズをした。
「ちょ、その名前で呼ばないで!」
やっぱりリアルで呼ばれると恥ずかしい!
「いどっち、いどっち、いどっち……」
「も、もう」
吉瀬さん、ふざけているなぁ……。
顔が赤くなる。ごほんと咳払いをする。
「……しかたない。良いよ。カラオケに一緒に行くくらい」
そんなかわいくない発言で、了承してしまった。
吉瀬さん、呆れただろうか。
ちらっと視線を向けると、彼女は笑っていた。
「やったぁー! じゃあ、今日行かない?」
まるでそこに花が咲いたようだった。
「……今日は無理かな。17時から配信で歌枠をする予定になっているから」
「じゃあさ、その配信をカラオケでするのはどう? わたし、部屋の隅の方にいるし!」
「えっ」
吉瀬さんは胸の前で手を合わせ、輝くような瞳でこちらを見つめてくる。
か、かわいい。
どうしようかなと思っていたら、
「いどっち、いどっち、いどっち……」
また、吉瀬さんが、私のハンドルネームを呼んできた!
も、もう……。
「……静かにして。わかったから!」
「やったー!」
吉瀬さんは私の手を取りギュッと握って喜びを伝えてきた。
咄嗟の行動に、うまく反応できない。
「なになに?」
吉瀬さんの声を聞きつけて、諏訪部さんが私達の元にやってくる。
「ラブ! へへん。井戸川さんと放課後、カラオケに行くことになったんだ〜。いいでしょ」
「えぇ。いいなぁ。楽しそうじゃん!」
「ひひっ」
「ねぇ、それ私も行っていい?」
諏訪部さんは、人差し指を唇に当てて、私の方をじっと見る。




