第24話 好きの気持ちの表し方【吉瀬来那side】
「井戸川さんとは席が隣だけど、実は挨拶以外あんまり話さないんだ〜」
「えー。もったいない。私が萌子ちゃんなら、吉瀬さんにたくさん話しかけるのに!」
彼女は不敵な笑みを浮かべたが、そのしぐさにはどこか品の良さが漂っていた。
「わ〜。ありがとう!!」
「ふふっ。きっと私、授業中だって話しかけちゃうなぁ」
「どんとこいだよ!」
「……花先生に注意されちゃうかな?」
担任の花先生は、国語を担当している。
優しい性格だから、隣の人と少し話したくらいでは、注意はしないはず!
「大丈夫でしょ! どんな話する?」
「ふふっ。恋バナとかしちゃったりね〜」
「いいね。盛り上がりそう!」
「……吉瀬さんは今、付き合っている人とかいる?」
「いないよ」
「……そう。良かった」
「えっ?」
「好きな人はいる?」
「えっと、その……」
鳴海さんが熱い視線を向けてくる。
「好きな人も……いないかな」
「……良かった」
何が良かったのだろう。
妙な雰囲気に、ソワソワしてしまう。
「吉瀬さんはどんな人がタイプなの?」
そういえば井戸川さんの配信でも、「どんな女の子が好きか」というようなことを聞かれた。
鳴海さんは異性のタイプを聞いているんだよね?
うーん。……すぐには思いつかなかった。
「優しい人かな」
ありきたりの答えを言った。
せっかく鳴海さんが質問してくれたのだから、「わかんない」というようなことは言いたくなかった。
「ふぅん……」
彼女は口元にそっと手を添え、何かを思案しているようだった。
「鳴海さんはどうなの?」
そういえば鳴海さんの好きな人を、前に聞きそびれていた。
「……うーん。吉瀬さんみたいな人かなっ」
「ええっ!」
「ふふふっ」
「じ、冗談だよね?」
そう聞いても、鳴海さんはうんともすんとも言わなかった。
軽く微笑んで、わたしを意味ありげに見つめている。
鳴海さんの好きな人ってまさか……わたし!?
急にドキドキしてきた。
何かを言おうとして口を開いた瞬間、ちょうど良いタイミングで井戸川さんが教室に入ってきた。
わたし達を交互に見て、眉をひそめている。
「おはよう」
「い、井戸川さんおはよう!」
「萌子ちゃんおはよう」
「……ねぇ、何の話してたの?」
井戸川さんが節目がちに聞く。
「私が吉瀬さんを好きって話だよ」
「!?」
わたしと井戸川さんは同時に鳴海さんを見た。
彼女は、ひょうひょうとした顔をしている。
「ふふっ」
「鳴海さん。それってどういう……」
見つめ返すことができなくて、視線を逃がす。
「……そのままの意味だよ! 私、隣のクラスに用があるからもう行くね。二人ともまた後で」
鳴海さんはそう言うと、席を立ち、わたし達に背中を向けて、教室から出て行った。
唖然としてしまう。
「確か……鳴海の好きな人は吉瀬さんじゃなかったはず……」
井戸川さんが小声で言う。
「ん? 何か言った?」
「な、何でもない!」
彼女はカバンを机に置くと、空いた自分の席に座った。
井戸川さんは特に話を振ってくれることはなかった。
昨日、わたし達は一緒にスタバに行った。
少しでも距離が縮まったような気がしたけど、勘違いだったりするのかな。
今日、学校で顔を合わせたら、何もなかったかのような空気に戻ってしまって、少し寂しかった。
——ホームルームが始まるまでの間、ラブをはじめ、いろんなクラスメートがわたしの周りに来てくれた。
たわいもない世間話をするけど、意識は隣の井戸川さんに向いていたように思う。
いつものように本を読んでいたから、邪魔にならないように小声で話した。
「来那、元気なくない?」
そんなことをラブに言われてしまった。
どうやら井戸川さんとゆっくり話ができるのは放課後のライブ配信でかなと思いながら、平然を装って笑ってみせた。
◇
『ライライちゃん、おかえりなさい!』
「ただいま……」
放課後。いつものようにわたしは、いどっちのライブ配信にお邪魔していた。
今ではすっかり常連で、彼女からおかえりなさいと迎えてもらえるようになっていた。
わたしに向けた笑顔は、昨日スタバで見たそれよりもずっと柔らかい。
【いどっち昨日配信してなかったの寂しかったー】
リスナーの一人が、そんなコメントをする。
『ごめんね。昨日はお休みにさせてもらってたんだ』
【もしかして、彼氏とデート!?】
リスナーの一人が、爆弾コメントを投下する。
思わず胸が高鳴った。
『えぇ〜』
いどっちは少し困ったような表情を浮かべてから、考え込むように視線を落とした。
昨日、彼女と一緒に過ごしたのは、ほかでもない、わたしだ。
『違う違う! 彼氏なんていないよっ。リスナーが恋人だもんっ』
……そんなアイドルみたいなことを、いどっちは言ってのける!
リスナー達は安心した様子で、次々とアイテムを投げ始める。画面が一気に華やかになった。
いつもの井戸川さんだったら、
「はい? 私が昨日、何しようが、あなた達には関係ないでしょ!」
と、ピシャリと言うはずだ。
リスナーに対して甘々なのだ。
わたしは今日も胸の奥がざわついている。
——そのあと、いどっちは歌い始める。
いつもは昔の名曲などを歌うことが多いけど、今日は初見リスナーのリクエストから、アイドルソングを歌うことが多かった。
上手い! 上手いんだけど……。
指ハートなんてしないでほしい。ウインクもやめてほしい。
アイドルソングを歌ういどっちは、キラキラ輝いていて、誰もが見惚れるように、かわいかった。
コメントも【いどっち好き】【愛してる!】のようなものが多い……。
はっ。わたし、厄介ファンになってない!?
いどっちは、ライバーだ。
リスナーを楽しませるのが仕事だ。
勝手にヤキモチを焼いてる自分が情けない。
最近、いどっちの配信を見ていると、心揺れ動かされることが多い。
誰にも取られなくないというような気持ちを意識してしまう。
本当にわたし、どうしちゃったんだろう。
……。
一人じっくり考え込む。
……。
次の瞬間、わたしは課金アイテムを使っていた。
星がキラキラと輝くエフェクトが、いどっちの顔を囲む。
『……ライライちゃんありがとう!』
いどっちがにっこり笑った瞬間、わたしの中の"好き"が一気に膨らんだ。
——わたしが投げたアイテムは4,000コインを消費するものだった。
【ナイスアイテム!】
【ライライちゃんはいどっち好きだね〜】
【俺らも負けてられない( ´∀`)】
リスナーも追いコメントをくれる。
わたしの心臓は高鳴っていた。
——その日の配信で、一番高いアイテムを投げたのは、"ライライ"こと、わたしだった。




