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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第22話 井戸川さんとスタバ【吉瀬来那side】

 びっくり。

 わたしが昔ライバーだったことを知っているのかな?


 ……そういえば、いどっちの配信に初めて行ったとき、彼女がわたしのことを既にフォローしていたのを不思議に思っていた。


 そんな、まさか……。

 いやいや。どこまで知っているの?


 キーンコーンカーンコーン。


 ——ちょうど良いところでホームルームのチャイムが鳴る。


 わたし達には時間がない。


「……ねぇ。井戸川さん、今日の放課後空いてる?」


「えっ?」


「今わたしの手元にちょうどスタバのカードがあるんだけど、よかったら一緒に新作のフラペチーノ、飲みに行かない?」


「……」


「ねっ。駄目?」


「……」


 井戸川さんは黙ったままだ。


「じゃあ、今ここで"いどっち"って大声で叫ぼうかな〜」


 普段の自分からは考えられないことを口にした。


「!?」


 井戸川さんが眉間に皺を寄せる。顔も赤い。

 目を閉じて、しばらくしてから、


「……行くわ」


 と確かに、そう言った。


 やった!!!!


「みんな。おはよう〜」


 ちょうど教室には、キャラクターもののTシャツを着た花先生がやってきた。


 井戸川さんはすぐ前へ向き直る。今どんな顔をしているのかは、こちらからはわからなかった。





 学校の周辺にはスタバが二軒ある。

 一つは通学路にある駅前店、もう一つは少し外れた路地のビルに入っている。


 駅前のスタバは、いつ行っても混んでいる印象がある。

 井戸川さんとゆっくり話をするなら、裏通りの店の方が適している。


 わたしは新作のストロベリーフラペチーノを頼んだ。

 井戸川さんはつれずにコーヒー。

 大人だなぁと、向かい合う席に座りながら、ぼんやりと思った。


 勢いあまって、井戸川さんをスタバに誘ったけど……これで良かったのだろうか。

 話をするだけなら、学校の空き教室でもできたのではないか。


 ——だけど、せっかく彼女がギフトカードをくれたのだ。

 一人でスタバに行ったり、ラブを誘って来たりしても良いけど、やっぱり井戸川さんと来たかった。


 ——それに聞きたいことも山ほどある。


 ひとまず落ち着こうと、ストロベリーフラペチーノを一口飲む。


「あっ。美味しい」


「……」


 思わず本音が口から出た。

 甘酸っぱいのに、なめらかで優しくとろけていく感じがたまらない。


「ねぇ。井戸川さんも一口飲む?」


「!!」


 彼女は目を大きく見開いた。

 くるくる表情が変わっていく様子が、見ていて飽きなかった。


「私は大丈夫。甘いもの苦手なの」


「そっかぁ。残念」


 井戸川さんはコーヒーを一口飲む。

 その姿は、スタバのオシャレな雰囲気も相まって絵になった。


「急にスタバに誘っちゃったけど大丈夫だった? もしかしてライブ配信する予定あった?」


「お気遣いどうも。今日はお休み——ライブ配信はしない日と決めていたの」


 彼女は目を逸らしながら言う。

 コーヒーカップをテーブルに置いた。


「そっか。良かった! ……話変わるけど、井戸川さんって、わたしが昔ライブ配信していたこと、なんで知ってるの?」


 一番気になっていたことをズバリ聞いてみた。


「……」


 まただんまりだ。

 

「わたしのこと既にフォローしてるよね?」


「……」


「もしかしてさ、偶然わたしの配信を見てくれたときに、フォローしてくれたのかな? まぁ。今はライバーを引退しちゃったんだけどね」


「……」


「でもそれって、すごく面白くない? 今はこうしてわたしが井戸川さんの配信にお邪魔しちゃっているしっ。ほんと、縁ってどこでつながるかわからないよね!」


 井戸川さんは下を向いている。


 そのとき、


「……偶然なんかじゃないわ」


 と彼女はぽつりとそう言った。


 顔を上げる。


「わたし、ライライちゃんに憧れていたの。ずっとずっと前から……」


 井戸川さんの視線が、まっすぐわたしを射抜いてくる。

 逸らすことができなかった。


「えっ……」


「……ねぇ。なんで、ライバーをやめたの?」


「……」


「ずっとずっとあなたを応援していたかった」


 井戸川さんの目は潤んでいた。


 ど、どうしよう。えっと。待って。

 井戸川さんってわたしの古参リスナーってこと?


 ……どうしよう。頭が追いつかない


「……ライブ配信を始めたのもライライちゃんの影響なんだ」


「そうだったの?」


「うん」


「知らなかった……」


 井戸川さんの口元がわずかに緩んだ。


「配信中に困るようなコメントがあっても、さらりと流すのは、ライライちゃんを見て覚えたの」


 そうだったんだ。


 いどっちがリスナーに優しくしているのを見てモヤモヤしたのも、突き詰めればわたしが原因だったの!?


「えっと。その……」


 突然のことに頭が追いつかない。


「井戸川さん、ありがとう」


 混乱していても、感謝の気持ちだけは一番に届けたかった。


「……」


「っていうと、井戸川さんはわたしのファンってことかな?」


「っっっっ!? ち、ちが……ファンじゃないし!!」


 ピシャリと言う。


 ……そこは素直になってくれないんだ。


 調子に乗ったわたしも悪いよね。反省。


「ライバーをやめたのは、何となくが理由かな」


「……」


「元々、ライバーもお姉ちゃんの影響で始めたの。楽しそうに配信していて、わたしもやってみたいなーって軽い気持ちだった! だからこそ、特に目指す目標もなく、飽き次第やめたって感じかな」


「そ、うだったんだ……」


 井戸川さんは、この世の終わりというような顔をして、コーヒーカップをじっと見つめている。

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