表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/85

第19話 また明日【吉瀬来那side】

 ——それは、わたしが初めて1,000コインのアイテムを使った瞬間だった。


 どんなに気に入った配信でも、一度に100コイン以上のアイテムは使ったことがなかった。


 キラライブで使える課金アイテムは「1コイン=1円」で購入することができる。


 毎日のログインポイントや、ミッションなどを達成しても、コインを手に入れることができる。だけど、まとまったコインを無料で手に入れる場合は、時間と労力がかかることになる。


 ——簡単にコインを得るためには、課金するのが1番だった。


 でも、わたしはキラライブに一度も課金したことがない。この1,000コインは今までの活動でコツコツ貯めたものだった。


 ——アイテムを投げたら、いどっちが喜んでくれた。


 他のリスナーも【ナイスです!】【キツネ来た!】というようなコメントをどんどん投げかけてくれる。


 リアルでは、井戸川さんに嫌いと言われてしまったわたしだけど、ライブ配信では良心的なリスナーでいたら優しい対応を取ってもらえる。


 なんだか、そのツンとデレの絶妙なさじ加減に、虜になりかけている自分がいた。


 わたしが昔、ライバーだったときも、毎回来てくれたリスナーがいたけど、こんな気持ちだったのかなぁ。


 もしかして、わたしの言葉で一喜一憂してくれた人とかもいたのかなぁ……。


 そんな遠い過去のことに思いを馳せる。


 ……そういえば、昔キツネのアイコンにしていたリスナーがいた気がする。

 ぼんやりとした頭の奥で、微かな記憶が揺れている。


 ——しかし、画面の向こうで、いどっちが指ハートをしていることに気づいて、意識が引き寄せられる。


『ハトゲッチュ、ありがとう〜』


 どうやら、リスナーの一人が高額アイテムを投げたようだった。ドラゴンのアイテムで、わたしのより高かった。


「くっ、悔しい……」


 知らぬ間に握り拳を作っていた。飲みかけのオレンジジュースの表面には、ぶつぶつの水滴ができていた。


 いどっちのライブ配信は、昨日までは人もまばらで、ゆったりとした空間が広がっていた。

 だけど、今日はリスナーが多くて、じっくりと会話することができない。


 ——つい、わたしは2,000コインする、キツネの目がハートのアイテムをタップしていた。


 画面上には、キツネが全力で愛を伝えようとするモーションが繰り広げられる。


『わぁ。ライライちゃん。ありがとう。とっても嬉しいよ!!!!』


 いどっちは、小さなハートを胸の前で作り、またしてもわたしに笑顔をくれた。


 やった! ハトゲッチュさん同様に、わたしにもハートを作ってくれた。

 唇を噛み締めて、嬉しさに浸る。


 はっ。


 わ、わたし何やってるの!?


 他のリスナーと張り合って、高額アイテムをバンバン投げちゃうなんて……。


 多分だけど、いどっちを他の人に取られるのが嫌で……独占欲みたいなものが働いたんだと思う。


 彼女は、もう他のリスナーのコメントを拾っている。

 わたしを見ていてくれる時間なんて、ほんの一握りだ。


 オレンジジュースの残りを一気に飲む。フードコートは、学生や仕事終わりの社会人で混み始めている。


 ピコン。


 スマホの画面にLINEの通知が届く。

 相手はラブからだった。


 特に要件はなく、猫が気だるそうにしているスタンプのみ送られてきた。

 多分。今、電車の中かな?


 ラブからは手持ち無沙汰のときに、よくLINEのスタンプが送られてくる。


 強制的に返す必要はなく、わたしが返したいときに返して良いという暗黙のルールがあった。


 ——ふと気づく。

 井戸川さんに個人的に伝えたいことがあっても、今のわたしには連絡する術がない。


 スマホ画面を見ると、いどっちが新たな歌を歌い始めていた。


 ——ああ。やっぱり上手だなぁ。


【いどっちうま!】


【高校生だよね? 綺麗な歌声、羨ましい〜】


【歌っている姿もかわいい!】


 次々にコメントが投稿される。


 そろそろ、わたしも家に帰らなきゃいけない。空席が埋まり始めてきた。


【また明日】


 わたしは、そんなコメントを打ってしまった。

 ここはLINEでもない。個人的なメッセージが打てる場ではないことはわかっているけど……。


 つい、私信のようなコメントをしてしまった。


 だけど、「また明日ライブ配信を見に来る」という意味とも受け取れるだろう。


 歌はちょうど間奏中で、いどっちはわたしのコメントを見た——と思う。

 一瞬止まって、こちらを優しく微笑みながら、


『うん。また明日』


 と笑って見せた。


 わたしは勢いよく席を立つ。飲んだジュースの入れ物をゴミ箱に入れる。


 また明日って返してくれた。


 勘違いだと思うけど、今のは吉瀬来那に向けて言っているように聞こえた。


 ショッピングモールの出口へと向かいながら、自然と歩くスピードが上がる。心が弾んでいるのが、自分でもわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ