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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第17話 恋<井戸川萌子side>

「ほんとだ。ってか、来那じゃん」


 歌っている途中に、空き教室のドアから男子生徒二人が、ひょっこりと顔を出した。


 私は口を閉ざしてしまう。


「あっ。おはよう〜」


「何してんの?」


「何かの練習?」


 男子生徒たちは、吉瀬さんと私を交互にチラチラと見る。

 長居する雰囲気を感じる。どうやら二人は吉瀬さんと話したいように思えた。


 最悪。最悪最悪。


 二人だけの甘い空間だったのに。こんな形で邪魔されるなんて……。


 吉瀬さんは男女問わず友達が多くて人気者。部活にも入っていないのに、上級生や下級生とも廊下で仲良さそうに話しているのを見たことがある。


 そもそもこんなふうに、空き教室で話したり、彼女の前で歌えたこと自体が、奇跡だったのかもしれない。なんだか、夢から覚めた気分だ。


 私は一人、床をじっと見ていた。


 気づいたら、男子生徒が空き教室からいなくなっていた。どうやら、吉瀬さんがうまく対応して帰してくれたみたいだった。


「井戸川さん、歌ってくれてありがとう。ごめんね。途中だったのに……」


「……」


「やっぱり歌、上手いね! 感動しちゃったよ」


「……」


「ねぇ。キラライブでしか歌わないの?」


 吉瀬さんが、そんなことを言う。……何が言いたいのだろうか。


市瀬(いちせ)渡辺(わたなべ)……あっ。今の男子がね。歌、上手だったって言ってたよ!」


 彼女は無邪気な笑顔を見せた。私は顔が引きつってしまう。


「井戸川さんの特技を、鳴海さんとわたしだけが知っているのって、もったいないと思うなぁ」


 吉瀬さんが熱弁する。

 私は呆れてしまい何も言い返すことができなかった。


 それからは、吉瀬さんが知らない人の名前を次々に挙げながら、私の歌がもっと学校に広まればいいのにと語っていた。


 私は吉瀬さんに良いと言ってもらえたなら、それだけで幸せだ。


 耳障りに聞こえてしまう。


 すると彼女が私をじっと見てくる。突然の出来事に戸惑い、口を開くものの、声にならなかった。


「そういえばさ、鳴海さんに聞いたんだけど」


 無言の間を埋めるように、吉瀬さんが口を開く。


「井戸川さんって恋バナ聞くの好きなんだよね?」


 はぁ? 何それ?

 私は自分で段々と機嫌が悪くなるのがわかった。


「……もし、わたしも恋バナを話したら、井戸川さんともっと仲良くなれるかな」


 カチンときた。癪に触る。


 吉瀬さんの恋バナなんか聞きたくない!!!!

 他の男子を良いように言っている話なんて絶対に聞きたくない。


 私だけを見てほしかった。


 ——そんなことは絶対に言えないけど。


「……私、吉瀬さんのこと嫌いだから」


 我慢の限界に達して、心にもない言葉を吐いていた。


 ——あまのじゃく。


 中学時代のクラスメートの言葉が、ふと頭に浮かんだ。


 生活委員を決めるとき、誰もやりたい人がいなかった。

 校則チェックや挨拶運動などの注意役が多く、嫌われ役になりやすいからだ。

 私も「やりたくない」と最初断っていた。だけど、結局、誰も手を挙げないならと、私が引き受けることにした。

 そのときに、「井戸川さんってあまのじゃくだよね」と言われた。「本当はしたかったのに、やりたくないふりをしたんでしょ」とも言われてしまった。


 私は吉瀬さんを好きなのに、嫌いと言ってしまった。


 あまのじゃく。まさしく私にぴったりな言葉なのかもしれない。


 ——別に、嫌われたって良い。

 私だけが好きでいればいいんだから。そんな投げやりな気持ちになっていた。


 吉瀬さんは何も言わない。当たり前だ。きっと失望しただろう。


「……そっか。わたしは井戸川さんのこと、好きだけど」


 耳を疑った。


 言っている意味がわからなかった。


 ……私を好き?


 不意をつかれたからだろうか。条件反射で顔が真っ赤になる。どうしよう。背中も熱い。


 吉瀬さんは目を丸くして固まっていた。


 動揺を隠すように、思わず腕で顔を隠した。……だけど、そんな行動を取っても逆効果だろう。


 吉瀬さんは穏やかに微笑んで、輝くような目で私を見ている。


 胸が詰まって、息を吸うことさえ難しかった。

 私はとっさに空き教室を飛び出した。


 吉瀬さんと向き合おうとすると、つい後ずさってしまう自分がいる。


 だって、彼女はまぶしいくらいに明るい人だから。太陽をそのまま直視できないように、近づきすぎると自分が壊れそうになる。


 配信者とリスナーのような距離感がないと、平常心ではいられないのだ。


 だけど、逃げた先にあるのは、自分の教室。


 見慣れたいつもの席にストンと腰を下ろす。もうすぐ彼女は隣にやってくる。


 声をかけられるのが気まずくて、私はカバンから本を取り出す。内容が頭に入ってくることはなく、意識は教室のドアに向けられたままだ。


 高鳴る胸を抑えながら、小説に踊る「恋」の文字に目を奪われていた。

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