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ライブ配信で始まった関係は、本物になれるのか  作者: 宮野ひの


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第16話 バレた!?<井戸川萌子side>





<井戸川萌子side>



「私はいどっちじゃないよ」


「えっ?」


 吉瀬さんを空き教室まで連れてきた。クラスメートの誰にも話を聞かれたくなかったからだ。彼女と落ち着いて話がしたかった。


 つい、吉瀬さんを"ライライちゃん"と呼んでしまった。


 やっちゃった。

 私はとてつもなく動揺していた。だからこそ、彼女についてきてと言うこともできたのだろう。


 人は動揺しているときこそ、考える隙を与えないから、思いもよらぬ行動を取ることができると思う。


 物が散乱する空き教室で、私達は少し離れて向かい合っていた。


 ——そして、私はバレバレの嘘を吉瀬さんについた。


 私は、いどっちではないという陳腐な嘘を。


「でも、さっきわたしのこと、ライライちゃんって言ってたよね? それはどうして?」


「っ——」


 彼女に痛いところをつかれてしまった。


 吉瀬さんのことを、ライライちゃんと呼ぶことができるのは、「キラライブ」で彼女と交流している人だけだ。


「ねぇ。いどっち?」


「……」


「歌配信をしている、いどっちだよね?」


「……」


 私は感情を押し隠すようにして、口を閉ざした。


 吉瀬さんがすぐそばであどけない顔を見せてくる。そのせいで胸が高鳴って、素直な言葉が出てこなかった。


 本当は、


「うん。私がいどっちだよ。ライライちゃん、いつも配信を見に来てくれてありがとう」


 みたいなことを言うべきなのかもしれない。


 ——だけど、できなかった。


 何故そういうことが出来ないのかというと多分、吉瀬さんの気を惹きたいのだろう。


 打ち明けるのは簡単。でもそれをした瞬間、このやり取りの妙な緊張感も面白さも一気に消えてしまうと思った。


 吉瀬さんが、「自分に興味のない人が好き」と言っていたのも引っかかる。


 もしも彼女が、いどっちのことを気に入ってくれているのなら、こんな重い感情を持っている私自身は隠しておきたかった。


「……ごめん。踏み込みすぎたかな?」


 吉瀬さんは、どこか気まずそうに視線を落とした。私が黙っていたせいで、きっと怒っていると思わせてしまったのだろう。そんなつもりじゃなかった。


「謝らないでよ」


「だって」


「吉瀬さんが、私をいどっちだと思うなら、いどっちだと思ってくれても良いよ……」


「えっ。もうそれって、井戸川さんが、いどっちって認めているってことだよね?」


「み、認めてない」


「そもそも、いどっちってワードを知っているってことは、キラライブで配信をしている、いどっちそのものだと思うなぁ」


 ……もう無理だ。

 吉瀬さんの目が、どこか嬉しそうに私を捉えていた。


 往生際が悪かったかな。……もう認めてしまおうか。


「……でも言いたくない理由があるんだよね。きっと」


 吉瀬さんは鋭いことを言う。


「……じゃあ、知らないふりしてあげる! だけど、タダってわけにはいかないなぁ」


 続けて、そんなことを言った。


 吉瀬さんが私を探るように見つめる。思わずごくりと唾を飲んでしまう。


「ねぇ。ここで歌って見せてよ!」


 彼女は、とんでもないことを言う。私は一歩後ずさる。


「前にわたし、みんながいる教室で、井戸川さんに歌ってほしいって言ったよね?」


「うん……」


「あれは本当にごめんね! 今思えば、馴れ馴れしかったよね」


「……」


「わたし、いどっちの歌声が好きなんだ! 今ここには、わたし達しかいないし……。ねぇ。井戸川さん、駄目かな?」


 そんなことを言って、彼女はじっと上目遣いをする。ずるい。

 そんな甘えたような顔をするのはずるい。


 周りをキョロキョロ見渡すと、吉瀬さんしかいなかった。当然だ。人の気配もしない。


「……いいよ」


 断るきっかけがつかめず、思わずOKしてしまった。


「やった。ありがとう!」


 吉瀬さんは両手を胸の前で組んで、小さく跳ねた。


 井戸川萌子=いどっち、とバレてしまった今、私がここで歌うことに何の意味があるんだろう。


 だけど、ライライちゃん——吉瀬さんに真っ直ぐにお願いされたら、断ることができなかった。


 ここは空き教室。周りにクラスメートはいない。

 ライブ配信でいつも歌を歌っているように声を出せば良い。


 吉瀬さんに何を歌って欲しいか聞いても良かったけど、野暮な気がした。


 その代わりと言っちゃなんだけど、ライライちゃんが私の配信に初めて来たときに、歌っていた曲にした。

 彼女は途中でやってきたから、最初から歌は聞いていないはずだった。


 覚悟を決める。思いっきり息を吸い込む。


 お腹から声を出し、彼女だけに歌を届ける。あまりにもキラキラした目を向けるものだから、声が震えそうになる。吉瀬さんの目に、今の自分がどうやって映っているのか、気になってしまった。だけど、そんな緊張に負けてたまるものかと歌うことに集中する。


 ——私は今、憧れの人の前で歌を歌っている。


 吉瀬さんは拝むように、こちらを見ている。リズムに合わせて左右に小さく揺れているのが、かわいかった。


 冷静になったら、恥ずかしくなってしまう空間に、眩暈がするほどの甘さを覚える。あぁ。気持ちが良い。初めての体験だった。


「あれ? なんか聞こえん?」


 私たちを切り裂くように、廊下から声がする。

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