第11話 挨拶のアドバイス【吉瀬来那side】
【挨拶からするのがいいんじゃないかなっ】
気づいたらわたしはコメントを打っていた。
【上手く話したい気持ちはわかる! けど何もしないとそのままになっちゃうよ。やっぱり行動に移すしかないよ!】
連投する。
【大丈夫! いどっちのことは、リスナーみんなが応援しているよ! ファイト\\\\٩( 'ω' )و ////】
……つい熱くなってしまった。
いどっちが困っていたから見過ごせなかった。
『ライライちゃん……ありがとう』
いどっちはお礼を言う。その声は嬉しそうに聞こえた。
【良かった良かった】
【何かあったらここで愚痴ってよ!】
【応援してる!】
他のリスナーも、いどっちを励ますコメントをしている。
——懐かしいな。
わたしもライバーだったとき、つい弱音を吐くことを言ったら、リスナーがフォローするようなコメントをくれたのを思い出した。
顔も名前も知らない人とゆるくつながっている。そんな関係性に何度も心を救われた。
リスナー側に回ったら、ライバーのときには見えなかったことを、感じ取ることができた。立場を変えてみると、勉強になるって、こういうことかなぁ。
——その日のいどっちのライブ配信は、数曲歌を歌った後に終了した。
『宿題頑張るぞ!』
去り際に、いどっちがそんなことを言った。
そうだ。わたしも頑張らなきゃと思い直し、配信を見終わった後に、自分の部屋に直行して、カバンからテキストとノートを取り出して机に向き直った。その日はやる気に満ち溢れ、途中でスマホを見ることなく、宿題をやり終えた。
◇
次の日、教室に入ると、髪をひとつ結びにした朝比奈さんから声をかけられた。
「来那ちゃん、おはよう!」
「おはよう、朝比奈さん!」
「あっ。前髪にゴミついてるよ!」
「えっ。……本当だ! 教えてくれてありがとう」
手に取ると、白いゴミが付いていた。
「いえいえ。また何かあったら言うよ!」
「…………朝比奈さん、頼んだ!」
いつものように手を振り、自分の席に行くと、既に隣には井戸川さんがいた。一人静かに本を読んでいた。
わたしはゴミ箱にゴミを入れた後、意を決して彼女に挨拶をしようとした。
「……おはよう、吉瀬さん」
そしたら、井戸川さんから挨拶をしてくれた。本を読むのをやめて、こっちを見ている。
まさか、彼女から挨拶をしてくれると思っていなかったので、咄嗟に反応することができなかった。
「……おはよう。井戸川さん」
声が裏返ってしまう。
井戸川さんは無表情のまま、数秒そのままでいると、再び本の世界に戻ってしまう。
……びっくりした。
だけど、悪い気はしなかった! むしろ嬉しかった。
ふと、昨日のいどっちのライブ配信が頭に浮かんだ。
わたしは、「気になる同性の子がいるなら、自分から挨拶をするのがいいんじゃないかな」というようなことをアドバイスした。
やっぱり、おはようって言われると嬉しいよ!!!
——いどっちも、気になる子に挨拶することができたかな?
今日もライブ配信するだろうか……。楽しみっ。
一人、口元をにやけながら、カバンを机の横にかけた。
井戸川さんは、本のページをぱらりとめくった。
昨日よりも今日の方が空気が澄んでいるような気がした。
◇
——放課後。教室に残って友達と少し話をした後、わたしは一人ファーストフード店にやって来ていた。新作のアボカドバーガーが今月までなので、それを頼み、いつものようにソファ席に座り、ライブ配信アプリを開く。
——良かった。今日も配信してる。
いどっちの枠を迷わずタップした。
『……今日、気になっているって言っていた子に挨拶できたよ。みんなのおかげだよ。ありがとう!』
【良かったね〜】
【いどっちが勇気出したからだよ!】
【尊い( ^ω^ )】
どうやら、いどっちはアドバイス通り、同性の子に挨拶できたみたいだった。
声も弾んでいて嬉しそう。
「良かった」
わたしは小さな声で、そう言っていた。
しかし、コメントを打たないと、いどっちに気持ちを伝えることはできない。
【良かったね\\\\٩( 'ω' )و ////】
すかさずコメントを打つ。
『ライライちゃん……来てくれたんだ! いっらっしゃい! そして……ありがとう!』
いどっちは素早くレスポンスを返してくれる。
【俺にもファンサしてー!】
【ハトゲッチュさん、いどっちのこと好きすぎるからなー】
【いどっちとライライちゃんのやり取り尊い( ^ω^ )】
……みんな好き勝手コメントしている。
しかし、いどっちはスマートに拾い、上手く対応している。
『あのさ……みんなはどんな女の子が好き?』
配信の流れが落ち着いたところで、いどっちが躊躇いがちにそう言った。




