第10話 いどっちの相談【吉瀬来那side】
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<吉瀬来那side>
井戸川さんと席が隣になった。彼女は窓際で、わたしはその隣。
毎朝、顔を合わせてはいるけど、相変わらずの塩対応。
挨拶をしたら返してはくれるよ!
……だけど、愛想はない。
それが彼女の性格だと言えばそれまでだけど、わたしは……笑顔が見たかった。
ラブや武田や永山、朝比奈さんや他の男子たちとは、時間が合えば、たわいもない話をする。他のクラスメートとだって、グループワークがあれば協力したりして、うまくやれている方だと思う。
だけど、井戸川さんといるときだけ調子が狂う。
話すときも目が合わないことがあるし……気だるそうな感じがする。
もしかして、わたしが鳴海さんと仲良くしていたのがいけなかったのだろうか。
井戸川さんは学校では鳴海さんと一緒にいることが多い。二人で教室の後ろで話したり、一緒にお弁当を食べたりしているのをよく見かける。
わたしは懲りずに二人の間に入り込む形で話しかけてみる。だけど井戸川さんはいつもムスッとした顔をしている。
井戸川さんとのファーストコンタクトは、彼女を間違って"井戸田"さんと呼んだりして散々なものだった。
最初の印象が悪いと、ずっとそのままっていうことあるよね……。
わたしもライブ配信をしていたとき、初見のリスナーに【彼氏いるの?】みたいなコメントをされたことがあった。やっぱりそこから良い印象に変わることって、まずないもん。
やっぱり初めが肝心だよね。
井戸川さんとのファーストコンタクトは、もっと良いものにしたかったなぁ。
他のクラスメートとは、上手くやれているからこそ、一人、塩対応な子がいると気になってしまう。
はぁ。
学校から帰ってきた後、宿題をしようと思ったものの、重たい腰を上げる気にもならなかった。リビングのソファで一人、アイスコーヒーを飲みながら、だらっとしている。
こんなときは、『キラライブ』を見るに限る!!!
アプリを開くと、フォローしている数人のライバーが現在ライブ配信をしている表示が出ていた。
ふとキツネのサムネイルが目に留まる。いどっちの配信だ。引き寄せられるように、ボタンをタップしていた。
いどっちの枠に入室すると、彼女は有名なアニソンを歌っている途中だった。
コメント欄には、【ライライさんが遊びに来たよ!】の表示が出る。
『っ……』
いどっちが歌うのに詰まった。——だけど、すぐに歌うのを再開する。
やっぱり上手いなぁ。聞き惚れてしまう。プロになったらいいのにな。
いどっちが歌い終わった後、他のリスナーのみんなと一緒に【パチパチ】と拍手をするようなコメントを送った。
【いどっち最高ー!(=^▽^)σ】
【うまー】
【仕事の合間に聞いてるよ!】
いどっちのリスナーは、みんないい人ばかりのように思えた。
『みんなありがとう……』
いどっちは、ホッとした声を出す。
んんっ? なんかどこかで聞いたことがあるような……ないような。
うーん……。まっ、いっか!
こういう既視感ってどこにでもあるよね!
【そういえば、さっき言っていた同性の気になる人の話ってどうなったのー?】
リスナーの一人が意味深なコメントをした。
『えっ。今、その話する!?』
いどっちは焦ったような声を出す。
【だって途中になっていたから! みんなも聞きたいよね?】
【うん( ´ ▽ ` )】
【いどっちの話なら何でも聞くよー】
リスナーの誰もが頷いている。
わたしも【聞きたい!】とコメントをした。
『っ……』
いどっちは言葉に詰まる。恥ずかしがり屋さんなのかもしれない。
『……わかった。途中から来てくれたリスナーのためにも最初から言うね……』
落ち着いた声で続ける。
『私、同じクラスに気になる子がいるんだ。異性だったら恋だって思うかもしれないけど……その子は同性なんだ』
ふむふむ。
『その子と上手く話したいのに! いざ話しかけられたら、冷たくしちゃうというか……笑えなくなっちゃうの!』
【いどっちかわいいー】
『そんなんじゃないから!』
ズバリと言う。
『その子はクラスの人気者でもあるの。私もみんなのように、その子と上手く話せたら良いのにな』
数秒の沈黙。
『……ねぇ、どうしたら良いと思う?』
いどっちの声はか細くて、寂しそうだった。まるで伝えたい人がここにいるかのように、真剣味を帯びていた。




