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第20話「霧の渓谷へ」

リーヴェルの街は、朝の柔らかな光に包まれていた。

酒場《風の炉端亭》でしっかり食事を取り、休息を終えた俺たちは、ギルド本部に立ち寄ってから出発する準備を進めていた。


 



 


「霧の渓谷、か……」


 


ギルド本部の受注カウンターで、新たな調査依頼の概要を確認する。

依頼の正式名称は【北部霧の渓谷 調査任務】。発生から数日は様子見だったが、異常現象が収まる気配がないため、調査班が派遣され始めているらしい。


 


「最近は、霧が以前より濃く、夜間には叫び声のような音が頻繁に聞こえる……か。変異個体の兆候かもしれないな」


 


蒼真が受注書に目を通しながら言った。


 


「変異種……あんまり出てきてほしくないけどね……」


 


美月が少し顔を曇らせる。

彼女の中に、先日の深淵神殿での戦いの記憶がまだ鮮明に残っているのだろう。


 


「まぁ、どんな相手が来ても、今までより強くなってるさ。今回はしっかり準備もした」


 


俺は背中の大剣を軽く叩いて微笑む。

新たに手に入れた【漆黒の深淵兜】もしっかり装着してある。


 


「もちろんだ。俺も新しい連携試したくてウズウズしてるぜ」


 


蒼真も拳を鳴らす。


 


そのとき──


 


「ふむ、出発かね?」


 


ギルド本部の廊下から現れたのは、管理官のセリスだった。

いつもながら端正な容姿。銀髪の長い髪をまとめ、深い紺色の制服に身を包んでいる。柔らかな微笑を浮かべつつも、眼差しは鋭い。


 


「ええ、セリスさん。霧の渓谷に向かいます」


 


美月が挨拶する。


 


「今朝から周辺エリアの安全ログを確認していたが、どうやら本当にただの環境異常ではないようだ。お気をつけて」


 


「はい、慎重に行きます」


 


セリスは軽く頷くと、端末に視線を落とした。

きっと沙月の状況も逐一確認しているのだろう──そう思うと自然と気も引き締まる。


 


 



 


街を出て北へ向かうと、徐々に景色は変わっていく。

緩やかな丘陵地帯を抜けると、遠くに霞む白い霧が帯のように渓谷を包んでいるのが見えてきた。


 


「……あそこが霧の渓谷か」


 


「思った以上に視界が悪いわね」


 


「視界不良の中で戦うのは厄介だな。接近戦が得意な俺にはいい練習になるけどな」


 


蒼真は余裕の笑みを浮かべるが、確かに慎重に進む必要がある。

深い霧に包まれた渓谷内では、地形が複雑に入り組んでおり、音も乱反射する。奇襲に向いた環境だ。


 


 



 


渓谷に入ると、すぐに第一波が現れた。


 


霧の中から音もなく現れたのは──


 


《霧影オオカミ》


 


濃霧の中を滑るように動き、群れで連携する中型魔物だ。

全身が灰色の毛で覆われ、目だけが紅く光る。獰猛そうな唸り声を上げながら囲みを作ってくる。


 


「囲まれる前に突破するぞ!」


 


俺は大剣を構え、前に出る。

一体が跳びかかってくる瞬間──


 


「鋼壁衝撃!」


 


大剣を盾のように立て、迫る牙を弾き返す。

その隙を突いて蒼真が飛び込む。


 


「瞬掌打!」


 


高速の正拳突きがオオカミの顎にめり込む。そこから流れるように脚を跳ね上げる。


 


「飛翔崩拳!」


 


宙へ打ち上げたオオカミに連撃を叩き込む。

美月はその間も冷静に支援を続ける。


 


「スピリットガード!」


 


青白い光の膜が俺と蒼真を包む。霧の中でも的確にフォローしてくれる僧侶スキルだ。

このバフは一定時間、被ダメージを軽減する。


 


「援護するよ、晴翔くん!」


 


後ろから美月の声。俺は応えるように別の個体に向き直る。


 


「ヘヴィスマッシュ!!」


 


大剣を振りかぶり、側面から強打。

オオカミの身体が地面に激しく叩きつけられ、霧が一瞬晴れたように広がる。


 


数分の短い戦闘の末、オオカミの群れは散り散りに逃げていった。


 


「……はぁ。数が多いな、ここ」


 


蒼真が汗を拭いながら言う。


 


「でも順調だよ。連携もだいぶ良くなってる」


 


美月が微笑む。確かに以前に比べたら格段に動きは洗練されてきた。

スキルの成長も順調だ。


 


 



 


「この先、もっと厄介なのが出るかもしれん。気を引き締めて行こう」


 


「了解!」


 


「うん!」


 


俺たちは再び渓谷の奥へと進んでいく。

霧の奥で、まだ見ぬ新たな脅威が静かに待ち受けているのだった──。


 



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