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第19話「束の間の休息」

神殿の最深部から町への帰還は、静けさに包まれていた。

道中、もう新たな魔物は現れず、俺たちは慎重ながらも順調に引き返していた。


 


「……本当に終わったんだな」


 


蒼真が呟くように言った。


 


「ええ……大丈夫よ、蒼真くん」


 


美月はやっと笑顔を取り戻していた。顔色もずいぶん良くなった。

セリスの治療は完璧だったようだ。


だが、俺は気を緩めず、進行方向を注意深く見つめる。──クセになっている。


 


やがて、石造りの長い通路の先に、柔らかな光が差し込んできた。

《リーヴェル》の朝の光だ。


 


「帰ってきたな」


 


 



 


リーヴェルに戻ると、まずセリスが報告のためギルド本部へと戻っていった。

俺たちは中央広場へ足を運ぶ。


 


「それにしても……」


 


蒼真が周囲を見回しながらぽつりと呟く。


 


「久しぶりの町の賑わいって、なんか落ち着くな」


 


広場では商人たちが露店を広げ、鍛冶屋が鉄を打つ音が響き、子供たちが駆け回っている。

どこかゆったりとした時間が流れていた。


 


美月がふと、すぐ近くの花屋に目を留める。


 


「ねぇ晴翔くん、あそこの花綺麗だね」


 


「ん? ああ、確かに」


 


小さな白い花束。

名前も知らない花だが、なんとなく目を惹かれた。


 


「……今度、部屋に飾ろうかな」


 


そう言って微笑む美月に、俺はただ「いいんじゃないか」と答えた。

彼女の表情が穏やかに戻っていくのが、何よりの収穫だった。


 


「おいおい、今は休息だぞ。花よりまずは──腹だろ」


 


蒼真が大きく伸びをしながら言う。


 


「酒場行こうぜ。腹が減っては次のダンジョンも行けねぇしな」


 


「酒場、いいですね。食事も取らないと」


 


美月も笑う。


 


「じゃあ、行くか」


 


 



 


酒場《風の炉端亭》は昼前だというのに活気に満ちていた。

冒険者たちが昨日の戦果を自慢し合い、笑い声が絶えない。


 


「ここの煮込みは絶品だぞ。お、ちょうど煮立ってきた!」


 


蒼真は早速大皿のシチューを頬張る。

俺も大きなパンをちぎりながら、一口食べた。


 


「うまいな……やっぱりここはいい」


 


「ほんと、落ち着くよね」


 


美月は暖かいハーブティを啜っている。

すっかりいつもの穏やかな笑顔に戻っていた。


 


だが──


 


ふと、静かな違和感が心を過ぎる。

周囲の冒険者たちの話題の中に、微妙に気になる単語が混じっていた。


 


「……最近、北の外れの《霧の渓谷》に異変が起きてるらしいぜ」


 


「夜になると得体の知れない叫び声が聞こえるとか……」


 


「また変異個体でも湧いたのか?」


 


 



 


「……霧の渓谷?」


 


俺が小声で繰り返すと、美月と蒼真も顔を上げた。


 


「新しいエリア……なのかな?」


 


美月が不安そうに呟く。


 


「可能性はあるな。次の任務候補かもな」


 


蒼真も頷く。


 


「よし……今日は休んで、明日改めて調査に行こう」


 


俺は二人に提案した。


 


「うん。今回は、もっとしっかり準備して挑もうね」


 


美月のその言葉に、俺も大きく頷いた。


 


「だな。今度は誰も瀕死にならせない。絶対に」


 


「任せとけよ、次は俺がもっと活躍してやるからな!」


 


蒼真が拳を鳴らして笑った。


 


 



 


こうして束の間の休息は過ぎていく。

だが、新たな脅威は確実に迫りつつあった──

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