第17話「深淵の魔公・ヴァルゼル」
黒紫の闇が渦巻く玉座の間。
その中央、高座に鎮座する《深淵の魔公・ヴァルゼル》は、ゆっくりと立ち上がった。甲冑の隙間から噴き出す闇炎が、音もなくゆらゆらと立ち上っている。
「愚かなる侵入者たちよ──その命、儀式の供物としてもらい受ける」
重々しいその声と共に、玉座の間の空間がわずかに揺らいだ。
「来るぞ──!」
俺は叫び、大剣を構える。
◆
ヴァルゼルは長大な槍を握り、瞬時に距離を詰めてきた。
ただの直線突進ではない。槍先から放たれた瘴気が蛇のように絡みつく!
「──《鉄壁阻断》!」
俺は咄嗟に美月の前へ滑り込み、槍撃を受け止めた。
だが、その一撃の重さはこれまでとは次元が違った。
「……くっ!」
障壁が悲鳴を上げ、甲冑ごと壁へ押し込まれる。
「晴翔くん!すぐ回復を──《ヒール》!」
美月が即座に回復魔法を放つ。
だが、ヴァルゼルはその詠唱の瞬間を見逃さなかった。
「──隙あり」
槍の柄が薙ぎ払われ、横から美月の身体を直撃した。
「きゃ──ッ!」
美月の身体が空中を舞い、石床に激しく叩きつけられる。
「美月ッ!!」
「許さねぇッ!」
蒼真が駆け込む。拳に全力の気を集中させる。
「──《崩掌衝》!」
拳から放たれた衝撃波がヴァルゼルの横腹を穿つ。だが、魔公はビクともしない。
「無駄だ」
ヴァルゼルは片手で蒼真の拳撃を弾き、巨大な槍を構え直す。
◆
「晴翔くん……ごめん……」
地面に倒れた美月の唇は血で濡れていた。
額の隅からも血が滴り、顔色が青ざめていく。
詠唱ももう続けられない状態だ。
「大丈夫だ……守るから、絶対に──」
俺は歯を食いしばり、ヴァルゼルに向き直った。
このままじゃ、ただ殴り合っても負ける。
「蒼真、牽制は任せる!俺が隙を作る!」
「了解ッ!」
蒼真は足をすべらせるように左右に移動し始めた。
回避しながら絶え間なく拳撃を入れ、ヴァルゼルの注意を引き続ける。
──ここで一気に決める!
俺は大剣を両手で振り上げ、スキルを発動した。
「──《鋼壁衝撃》!」
ヴァルゼルの槍の突きが俺の胸甲に突き刺さり──
だが俺は防御ごと吸収するように力を蓄積する!
「喰らえぇえええ!!」
蓄積した衝撃を解放し、大剣の一閃が魔公の胸部に食い込んだ。
甲冑の装甲が砕け、黒い瘴気が大量に噴き出す!
「ぐおおおお……!」
「今だ、蒼真!」
蒼真が連撃に入る。
「──《連撃崩拳》!」
渾身の拳の連撃がヴァルゼルの腹部に炸裂し、黒翼の触手が暴れ狂う。
◆
だが、ヴァルゼルはまだ倒れない。
瘴気の渦が彼の周囲に濃密に集まり、最後の大技を準備しているのがわかった。
「──《深淵瘴槍・終ノ式》」
魔公の背後に巨大な闇の槍が形成されていく。
その槍先は明らかに美月を狙っていた。
「まずい──!」
「《鉄壁阻断》……もう一度!」
俺はすべての気力を振り絞り、美月の前へ身を投げ出す。
だが、瘴気の槍は物理防御だけでは止まらない質の攻撃だ!
──直撃──
その瞬間、セリスが緊急介入してきた。
「──《緊急防壁:干渉展開》」
透明な防御フィールドが美月を包み込み、直撃は防がれた。だが、完全には間に合わず瘴気の一部が美月に触れる。
「う……っ」
美月の呼吸が浅く乱れ、体温が急激に低下していく。
◆
「──状態異常:深淵呪毒発症」
セリスが診断する。
「いまのままでは……長く持たない」
美月は意識を失い、ぐったりと倒れ込んだ。
「クソ……!」
俺は歯を食いしばる。ここで倒れるわけにはいかない。
「蒼真、ここからは速攻で行くぞ!こいつを倒すしかない!」
「任せろ!!」
二人は再び陣形を整え、ヴァルゼルに突撃を開始する。




