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第17話「深淵の魔公・ヴァルゼル」

黒紫の闇が渦巻く玉座の間。

その中央、高座に鎮座する《深淵の魔公・ヴァルゼル》は、ゆっくりと立ち上がった。甲冑の隙間から噴き出す闇炎が、音もなくゆらゆらと立ち上っている。


 


「愚かなる侵入者たちよ──その命、儀式の供物としてもらい受ける」


 


重々しいその声と共に、玉座の間の空間がわずかに揺らいだ。


 


「来るぞ──!」


 


俺は叫び、大剣を構える。


 


 



 


ヴァルゼルは長大な槍を握り、瞬時に距離を詰めてきた。

ただの直線突進ではない。槍先から放たれた瘴気が蛇のように絡みつく!


 


「──《鉄壁阻断》!」


 


俺は咄嗟に美月の前へ滑り込み、槍撃を受け止めた。

だが、その一撃の重さはこれまでとは次元が違った。


 


「……くっ!」


 


障壁が悲鳴を上げ、甲冑ごと壁へ押し込まれる。


 


「晴翔くん!すぐ回復を──《ヒール》!」


 


美月が即座に回復魔法を放つ。

だが、ヴァルゼルはその詠唱の瞬間を見逃さなかった。


 


「──隙あり」


 


槍の柄が薙ぎ払われ、横から美月の身体を直撃した。


 


「きゃ──ッ!」


 


美月の身体が空中を舞い、石床に激しく叩きつけられる。


 


「美月ッ!!」


 


「許さねぇッ!」


 


蒼真が駆け込む。拳に全力の気を集中させる。


 


「──《崩掌衝》!」


 


拳から放たれた衝撃波がヴァルゼルの横腹を穿つ。だが、魔公はビクともしない。


 


「無駄だ」


 


ヴァルゼルは片手で蒼真の拳撃を弾き、巨大な槍を構え直す。


 


 



 


「晴翔くん……ごめん……」


 


地面に倒れた美月の唇は血で濡れていた。

額の隅からも血が滴り、顔色が青ざめていく。

詠唱ももう続けられない状態だ。


 


「大丈夫だ……守るから、絶対に──」


 


俺は歯を食いしばり、ヴァルゼルに向き直った。

このままじゃ、ただ殴り合っても負ける。


 


「蒼真、牽制は任せる!俺が隙を作る!」


 


「了解ッ!」


 


蒼真は足をすべらせるように左右に移動し始めた。

回避しながら絶え間なく拳撃を入れ、ヴァルゼルの注意を引き続ける。


 


──ここで一気に決める!


 


俺は大剣を両手で振り上げ、スキルを発動した。


 


「──《鋼壁衝撃》!」


 


ヴァルゼルの槍の突きが俺の胸甲に突き刺さり──

だが俺は防御ごと吸収するように力を蓄積する!


 


「喰らえぇえええ!!」


 


蓄積した衝撃を解放し、大剣の一閃が魔公の胸部に食い込んだ。

甲冑の装甲が砕け、黒い瘴気が大量に噴き出す!


 


「ぐおおおお……!」


 


「今だ、蒼真!」


 


蒼真が連撃に入る。


 


「──《連撃崩拳》!」


 


渾身の拳の連撃がヴァルゼルの腹部に炸裂し、黒翼の触手が暴れ狂う。


 


 



 


だが、ヴァルゼルはまだ倒れない。

瘴気の渦が彼の周囲に濃密に集まり、最後の大技を準備しているのがわかった。


 


「──《深淵瘴槍・終ノ式》」


 


魔公の背後に巨大な闇の槍が形成されていく。

その槍先は明らかに美月を狙っていた。


 


「まずい──!」


 


「《鉄壁阻断》……もう一度!」


 


俺はすべての気力を振り絞り、美月の前へ身を投げ出す。

だが、瘴気の槍は物理防御だけでは止まらない質の攻撃だ!


 


──直撃──


 


その瞬間、セリスが緊急介入してきた。


 


「──《緊急防壁:干渉展開》」


 


透明な防御フィールドが美月を包み込み、直撃は防がれた。だが、完全には間に合わず瘴気の一部が美月に触れる。


 


「う……っ」


 


美月の呼吸が浅く乱れ、体温が急激に低下していく。


 


 



 


「──状態異常:深淵呪毒発症」


 


セリスが診断する。


 


「いまのままでは……長く持たない」


 


美月は意識を失い、ぐったりと倒れ込んだ。


 


「クソ……!」


 


俺は歯を食いしばる。ここで倒れるわけにはいかない。


 


「蒼真、ここからは速攻で行くぞ!こいつを倒すしかない!」


 


「任せろ!!」


 


二人は再び陣形を整え、ヴァルゼルに突撃を開始する。


 

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