第15話「儀式の間へ」
静まり返る神殿の通路を慎重に進む。石造りの床は所々にひび割れが走り、重苦しい空気が肌にまとわりつく。遠くで蝋燭の灯りがぼんやりと揺らいでいるのが見えた。
「──あそこだな。祭壇の間」
俺が小声で呟くと、蒼真がわずかに頷いた。
「敵が集中してそうだな」
「覚悟はできてるわ」
美月も短杖を握り直す。息を呑むような静けさの中、重い扉の前で俺たちは一度立ち止まった。
「セリス、敵勢力は?」
「五体。中心に中級クラスの魔族がいる。取り巻きは儀式補助型だ」
セリスが無表情で淡々と告げる。その目の奥には、わずかな警戒の色が浮かんでいた。
俺たちは互いに頷き合い、ゆっくりと扉を押し開けた。
◆
祭壇の間は広大な円形ホールだった。天井は高く、中心には漆黒の祭壇が鎮座している。祭壇の周囲には黒衣を纏った魔族召喚士たち──**《ダーク・アコライト》**が並び、低い詠唱を続けていた。
その中央、祭壇の最上段にはひときわ異形の存在が立っていた。
──《インフェルノ・デーモン》
二本の長い角、赤黒い甲殻のような皮膚、鋭い爪を備えた巨体。背後には炎の翼の残骸のような瘴気が揺らめいていた。蒼白い双眸がこちらを捉えると、低く嗤う声が響いた。
「……客人か」
◆
「詠唱を止めろ!」
俺が叫ぶと同時に蒼真が疾駆し、美月が支援詠唱を始める。
「《ブレイブブースト》!」
筋力が一気に増幅される感覚。俺は大剣を構え、突き進む。
「まずは取り巻きからだ!」
ダーク・アコライトは杖を掲げ、次々と闇球を放ってくる。
──《ダークスフィア》
黒い魔法弾が俺たちに殺到するが、美月が即座に対応する。
「《サンクチュアリ・バリア》!」
黄金色の障壁が前面に展開し、闇球を霧散させる。
「いける!」
蒼真が右から回り込み、アコライトの懐に飛び込んだ。
「──《瞬掌打》!」
素早い拳撃が連打で叩き込まれ、アコライトの骨のような腕が折れ、呻き声を上げて倒れた。
その間にも俺は別のアコライトに突進する。
「喰らえ──《ガードブロウ》!」
大剣の風圧がアコライトごと祭壇の下段から吹き飛ばす。詠唱が途切れたことで瘴気の流れが一瞬揺らいだ。
「あと一体だ!」
「任せろ!」
蒼真が体勢を低く取り、新たに覚えたスキルを咄嗟に繰り出した。
──《連撃崩拳》
【性能】
近距離連続打撃
発動時のモーション中に前方ステップで回避・追撃可能
スキルレベル上昇でヒット数増加
一撃、二撃、三撃──高速の拳が敵の胴体に叩き込まれ、骨格の軋みが鈍く響く。三発目の拳でアコライトが霧散した。
◆
残ったのはインフェルノ・デーモンだけとなった。
「フン、取るに足らん小虫共め──」
その低い咆哮とともに、周囲の空間が一気に熱を帯びた。魔族の爪先が地面を抉り、瞬間的に突進してくる!
「来るぞ──!」
「晴翔くん!」
「《鉄壁阻断》!!」
俺は瞬時に美月の前へ滑り込み、発動。爪撃を全身で受け止め、障壁が音を立てて軋む。
「くそっ……重い……!」
背中に走る鈍痛。だが致命傷は防いだ。
「晴翔くん、回復入れるね!《リカバリー・フィールド》!」
足元に展開された癒しの光が肩口の傷をゆっくり癒していく。
「蒼真!今だ!」
「うぉぉぉっ!」
蒼真が懐に滑り込み、カウンター体勢へ。
「──《崩掌衝》!!」
拳から放たれた衝撃波がデーモンの腹を穿つ。だが魔族は重心を崩さず、逆に腕を振り上げる。
「次は──こいつだ!」
俺も反撃の構えに入る。
「《鋼壁衝撃》!!」
デーモンの打撃を吸収し、蓄えた衝撃をそのまま大剣の一閃に乗せてぶつける。鋭い火花と共に装甲が割れ、甲殻片が飛び散った。
「まだまだ──!」
蒼真も追撃に入り、拳の連撃で一気に削りにかかる。魔族の膝がわずかに揺らいだ。
◆
「あと少し──決める!」
俺は大剣を背後まで大きく引き、全神経を集中させる。
──《ヘヴィスマッシュ》
最大チャージ。重戦士の切り札。大剣が唸りを上げるほど溜められた一撃を、デーモンの胴体へと叩き込んだ。
「おおおおおおっ!!」
衝撃波と共に、インフェルノ・デーモンが崩れ落ちた。瘴気が四散し、炎の翼が霧消していく。
──《中ボス:インフェルノ・デーモン討伐完了》
◆
「ふぅ……やっと終わったな」
「晴翔くんも蒼真くんもすごかった……!」
美月が小さく拍手を送る。俺は深く息を吐いた。
「今回のドロップは──これか」
──《魔炎の肩当て》
漆黒に赤い魔法紋が浮かぶ肩当てだ。物理耐久に加え、炎耐性も上昇する優秀な防具だ。
「よし、俺が装備させてもらう」
俺は新たな肩当てを装着した。これで次の階層の探索も多少は楽になるはずだ。
「少しずつ強くなっていくのが実感できるな……」
蒼真も自分の拳を見つめ、静かに笑った。




