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第12話「新たなダンジョン“神殿跡地”探索開始」


 


リーヴェルの街に戻ってきたのは夕暮れ時だった。石畳の大通りには淡いオレンジ色の光が降り注ぎ、行き交うプレイヤーやNPCたちの影が長く伸びている。


 


「ふう……やっと戻ってきた」


 


蒼真が伸びをしながら大通りを歩く。俺も新調した《影紋の肩甲》の感触を確かめつつ歩いていた。黒銀色の金属が肩口にぴたりと収まり、動作の安定性が上がっているのがわかる。


 


「これで次の戦いは少し楽になるかもな」


 


「うん!私も《サンクチュアリ・バリア》が使えるようになったし、ヒールの詠唱速度も上がってきたよ!」


 


美月も自信を持った表情を浮かべる。彼女の僧侶としての成長は目覚ましく、支援魔法だけでなく、敵の動きを読む余裕も出てきていた。


 


アリアは今日も無言で俺たちの後ろを歩いていたが、どこか落ち着いた表情に見えた。昨日のカイル戦で何か変化があったのかもしれない。


 


 



 


ギルドで報酬を受け取り、次の情報収集をしていると、新たなクエストが提示された。


 


──《新規依頼:神殿跡地調査》──


 


『東部山岳地帯の奥地に発見された古代神殿跡地にて、魔王軍の残党の活動が確認された。現地調査および討伐を行うこと。』


 


「……神殿跡地か。今までとは違う場所だな」


 


「フィールド型じゃなくてダンジョン型の可能性もあるわね」


 


美月が慎重に提案する。ダンジョン型なら敵の種類も増える可能性が高い。


 


「装備整えてから行こうぜ。せっかくなら万全で挑みてえ」


 


蒼真がギルド隣の装備屋を指差す。そこで俺たちは装備の最終調整を行った。


 


俺は新たに店売りの《ヘヴィガードグリーブ》(脚部防具・物理耐性UP)を購入。蒼真は《軽装忍布・改》という回避性能が上がる上着を手に入れた。美月は《祈りの髪飾り》(回復力微増)を装備し、支援役としてさらに強化された。


 


「よし、準備完了だ!」


 



 


翌朝、指定された神殿跡地の入口に到着した。


 


そこは東部山岳地帯の奥深く、断崖を越えた先の隠れた谷底に存在していた。入り口は半ば崩れかけた大理石の柱に囲まれ、蔦が絡みついている。薄い霧が漂い、まるで静かに呼吸しているような気味の悪さがあった。


 


「古代神殿って感じがバリバリ出てるな……」


 


蒼真が思わず呟く。そこへ、入口近くで待機していたNPCキャラクターが俺たちに歩み寄ってきた。


 



 


現れたのは長身の女性NPCだった。身長は175センチほど、均整の取れたしなやかな身体をしている。長く伸びた銀髪はゆるく波打ち、背中まで垂れていた。左右非対称の前髪が額を斜めに覆い、切れ長の緋色の瞳がこちらを鋭く見据えている。


 


装備は重装鎧ではなく、光沢のある黒紫の軽装戦闘服。左肩には金色の紋章が刻まれた護符が吊るされていた。腰には細身の長剣──細剣レイピアを佩いている。


 


その所作には無駄がなく、息を呑むような隙のなさが漂っていた。


 


「君たちが今回の調査任務のプレイヤーか」


 


低めの落ち着いた声。聞いていて心地よいが、どこか冷淡な響きもある。


 


「えっと、あなたは?」


 


美月が丁寧に問いかけると、女性は名乗った。


 


「私は《セリス・フォン=アルテミア》。ギルド本部直属のフィールド監督官だ」


 


画面に《特殊NPC:監督官 セリス》と表示が浮かぶ。


 


「監督官って、ギルドの運営スタッフNPCか?」


 


蒼真が驚きながらも興味深そうにセリスを見た。


 


「そうだ。このダンジョンは《特殊監視区画》に指定されている。危険度が高い故、私は現地で直接モニタリングするため派遣された」


 


セリスの声は淡々としているが、その背筋は微塵の油断も感じさせない。プレイヤーとは完全に違う挙動のAIだとすぐに分かる。


 


「……なるほどな。博士が作ったAIたちの延長線上か」


 


俺は内心で納得した。このゲームはフィールドAIの進化が特殊だから、こうした高機能なNPCも運営側に混じっているのだろう。


 


 



 


「早速だが、この神殿内部は既に魔王軍の尖兵が侵入している。彼らは《儀式》を進めている可能性が高い。可能であれば、儀式阻止も任務対象となる」


 


セリスは小型のマップ端末を渡してきた。神殿内部は迷路状で、途中に中ボス級の敵が複数配置されているらしい。


 


「今回は私もある程度、内部同行し監視を行う」


 


「え?セリスさんも戦うんですか?」


 


美月が驚いて尋ねると、セリスは少し口角を上げた。


 


「必要であれば。だが基本的に手は出さぬ。それが規定だ」


 


「頼もしいなあ……けど、やばい時は助けてくれよ?」


 


蒼真が冗談交じりに言うと、セリスはわずかに目を細めた。


 


「任務放棄を望むのか?」


 


「いや、冗談! 冗談だから!」


 


蒼真が慌てて手を振る。俺たちは思わず笑ったが──内心、このNPCがただの監視役とは思えなかった。


 


このセリスという存在もまた、博士の『進化するAI技術』の片鱗なのかもしれない。


 


 



 


「それでは、突入を開始する。──準備はいいな?」


 


「もちろんです!」


 


セリスの指示で、俺たちはいよいよ神殿跡地の内部へと足を踏み入れた。


 


神殿内部は天井の高い広間が連なっており、古代の石像や崩れた石柱が点在している。青白い光苔が壁に貼り付き、ほの暗い光源となっていた。


 


──その奥から、カチャカチャと乾いた足音が響く。


 


「……骸骨だな」


 


蒼真が低く呟く。

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