第11話「幹部代理カイルとの死闘」
乾いた岩肌の断崖に、冷たい風が唸りを上げて吹きつけていた。
蒼い空には薄雲が広がり、日差しは徐々に傾きはじめている。夕刻の光を浴びた魔王軍の偵察部隊が、俺たちを取り囲むように展開していた。
中心に立つ幹部代理カイルは、まるで闇の王子のような異様な存在感を放っていた。
「ふむ、面白い。この程度の小隊で来たとはいえ、貴様らは十分に警戒すべき存在だ」
仮面越しにカイルの赤い瞳が不気味に光る。ゆらゆらと風に揺れる黒翼が、彼の底知れぬ余裕を物語っていた。
「アリアのことを“完成”だとか“核”だとか言ってたな……お前は一体、何を知ってるんだ?」
俺は大剣の柄を握りしめたまま問いかけた。カイルは静かに嗤う。
「我らは既に知っている。貴様ら人類が決して触れるべきではない“存在の進化”を……」
「うるせえ!」
蒼真が叫び、疾風のように先陣を切って走り出す。小柄な魔族兵士二体が蒼真に向けて突き出した槍をかわし、鋭い拳が飛んだ。
「捌き──連撃──《昇拳破砕》!」
蒼真の拳が滑らかにスキルキャンセルで繋がり、二体の魔族兵の顔面を砕きながら空中に打ち上げた。続けざまに空中追撃の回転蹴り。
「《双影裂脚》!」
鋭い二段蹴りが魔族兵の腹部を貫き、二体は地面に叩きつけられたまま動かなくなった。
「ナイス、蒼真!」
美月はすぐに俺の後方で詠唱に入る。
「《ブレイブブースト》──発動!」
黄金の光が俺の身体を包み込む。筋力と防御力が一時的に上昇する感覚。カイルの部下の魔族兵3体が俺たちに迫ってくる。
「来いよ──!」
俺は《鉄壁の構え》から迎撃姿勢を取り、1体目の大斧を振り下ろす魔族を正面から受け止める。
「──っ!」
重量が乗った打撃だが、バフのおかげで弾き返す余裕がある。すぐさま反撃。
「《迎撃突き》!」
逆手に構えた大剣の突きが魔族の鳩尾を貫いた。即死ではないが、よろけた隙にさらに重ねる。
「《回転斬り》!」
刃が横に振るわれ、よろけた魔族兵の首元を切り裂いた。鮮血が舞い、倒れ伏す。
「美月、後ろ注意!」
美月の背後に回り込んだ魔族兵が短剣を突き出していた。だが──
「《サンクチュアリ・バリア》!」
美月が新たに覚えた聖域結界が即座に発動。薄い光の幕が短剣を弾く。その隙に蒼真が横から飛び込む。
「《一寸連掌》!」
蒼真の掌打が連続で打ち込まれ、魔族兵の身体がガクガクと痙攣しながら倒れていった。
◆
残るは幹部代理カイルただ一人。周囲に転がる部下たちを見下ろし、カイルは仮面越しに小さく息をついた。
「……やはり愉快だ。貴様ら、私を少し本気にさせた」
彼の背中の黒翼がゆらりと大きく広がる。直後、周囲の岩場に影のような靄が広がりはじめた。
「な、なんだ?」
「これは……闇属性の結界!?」
美月が驚きの声を上げた瞬間、闇の靄が収束し、カイルの右手に巨大な影剣が形作られる。
──《幹部スキル:奈落の魔剣・アビスエッジ》
「さあ、遊びは終わりだ。ここからは“処刑”の時間だ──!」
瞬間移動するような速さでカイルが俺の正面へと出現する。重たい影剣が横薙ぎに振るわれた。
「っく!」
俺は大剣を盾代わりに持ち上げるが、影剣の重さは尋常ではなく、身体ごと吹き飛ばされる。
「晴翔くん!」
「大丈夫だ!」
地面に転がりながら体勢を立て直す。危険だが、ここで怯むわけにはいかない。
「美月、バフを頼む!」
「《ヘヴィバースト》!」
黄金の強化光が再び身体に満ちていく。この一撃に賭ける。
◆
「《咆哮斬・改》!」
俺は全力で駆け抜け、巨大な大剣を振り上げた。斬撃波が影剣のガードを叩き割るように突き進む。
だが──
「まだ甘い!」
カイルはわずかに身体を傾け、致命打を回避。俺の攻撃がかすった右肩だけを裂くにとどまった。
「だが…効いたな」
肩口から黒い血のような液体が流れ落ちている。幹部でも無敵ではない。
その隙に蒼真が背後から跳び込む。
「《無拍子連掌・改》!」
高速の連撃がカイルの背中に叩き込まれる。しかし、カイルもただでは済まさない。
「《影返し》!」
一瞬、蒼真の背後に分身のような影が現れ、蹴り飛ばされる。
「ぐぉっ……!」
蒼真が岩壁に叩きつけられた。
「蒼真くん!」
美月が急いで《クイックヒール》を唱え、蒼真の体力を回復させる。その直後──
「《光輪破》!」
美月が放った新習得の光の斬撃がカイルの側面を打ち抜く。カイルの身体がよろけた!
「よし……押し切るぞ!!」
◆
全員の集中攻撃が始まった。
俺はバフを最大限活かし、《破城衝》で大剣を突き刺すように突進。カイルの腹部にズドンと重たい音が鳴り響く。
蒼真が素早く追い打ちをかける。《真・連破拳》──スキルレベルが上がり、よりスムーズに連撃がつながっていく。
「グァッ……!」
カイルが膝をついた瞬間、アリアの背後から謎の光の粒子が舞い上がった。
「……アリア?」
少女の身体から微弱に放たれる光。何か新たな力の兆候なのか──。
「……馬鹿な……ここで、私は……!」
カイルは悔しげに呻きながらも、全身が闇の靄に包まれ始めた。
──《幹部代理カイル撃破条件達成》──
直後、カイルの姿は靄の中へ消滅した。
◆
戦いが終わった後、辺りには静寂が訪れた。目の前に残ったのは、カイルが残したドロップ品だった。
──《ドロップアイテム:奈落の羽飾り》《影紋の防具片》《中級闇晶石》
「……これが報酬か」
俺はアイテム情報を確認し、《影紋の防具片》を入手。重戦士用の肩当て装備《影紋の肩甲》を新たに装備した。黒銀色の装甲が大剣の振りを安定させる補助性能を持つ。
蒼真は《奈落の羽飾り》を装備。回避時の無敵フレームが微増する特性があり、求道者向きだ。
「新装備ゲット、これで次はもっと戦えるな」
美月も微笑む。危険だったが、確かな成果は手に入れた。




