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第28話 天に愛されし者と、親友に――


 ミランダは目の前で起きた現実を信じられないかのように、自分の震える手をじっと見つめていた。

 彼女の美しい顔からはすっかり血の気が引き、蒼白になっている。


「うそ……そんなはずない……私は……私は天に愛された者なんだから……」

 彼女の呟きは弱々しく響き、かすかに震えている。

 そのすぐ横ではレオナード殿下も立ち尽くして呆然とし、信じられないといった表情をしていた。


「こんな……まさか……ミランダが……そんな……!」


 レオナード殿下は震える声で呟き、肩を落としている。

 その傍らでジェラルド様も目を見開き、呆然としていた。


 彼もまたミランダの本性を知らなかったのだろう。


「ミランダ……君が、闇魔法を……そんな……嘘だと言ってくれ……」


 ジェラルド様の絶望的な声音は、かすれて弱々しく響いた。


 その場の全員が動きを止め、静まり返っている。


 誰もが信じ難い現実に直面し、戸惑っていた。


 裁判長がその沈黙を打ち破るように強く木槌を叩き、厳かな声で宣言した。


「証拠はすべて揃った。これにてアルティア・ブライトウッド嬢の無実を宣言する!」


 大広間にその声が響き渡り、次の瞬間、一斉に騒めきが広がった。


「なんということだ……まさか本当にミランダ嬢が……」

「また王子が問題を起こしたのか? 一体これで何度目だ……」

「聖女と呼ばれたミランダ嬢が闇魔法だと……信じられない!」


 さまざまな困惑の声が交錯し、場内が騒然となった。

 私はアルティア様と視線を交わし、心の中で安堵していた。


(これで……ようやくアルティア様の無実を完全に証明できた……!)


 その時、混乱する大広間に重厚な声が響いた。


「静まれ!」


 誰もが一瞬で口を閉ざした。

 全員の視線が一斉に向かった先には、荘厳な装いをした国王陛下が威厳ある表情で立っていた。


(まさか、国王陛下までいらっしゃるとは……!)


 私も驚きで目を見開き、アルティア様も戸惑いながら深く頭を下げていた。


 国王陛下は厳しい視線をレオナード殿下に向け、冷淡に言葉を告げる。


「レオナードよ。貴様は『今回こそは真実だ』と言っていたな。最後の機会を与えたが――それも全て貴様の虚言だったようだな」


 国王陛下の冷たい言葉に、レオナード殿下は焦り、必死に反論する。


「ち、違います! 違います、父上! 私は騙されただけです! ミランダが……!」

「黙れ、レオナード。もはや貴様に父上と呼ばれる筋合いはない。今回の罪状を鑑みて、首謀者のレオナードとミランダを国外追放とする」


 国王陛下の宣言に、再び場内がざわつく。


 誰もが驚愕していた。

 死刑よりも重いとされる国外追放。


 国の城壁外には魔物が多くいる中、身一つで追い出されるのだ。


「まさか……国外追放だと?」

「第一王子が国外追放なんて……前代未聞だ……」

「やはりレオナード殿下には王の器など無かったということか……」


 周囲の貴族や生徒たちは動揺しながら囁きあい、レオナード殿下は顔面蒼白になって叫ぶ。


「父上、父上、どうかお許しください! 私は、私は王族です……! こんな、こんな仕打ちを……!」


 しかし国王陛下は冷酷に背を向けた。


「騎士ジェラルドもまた、爵位を剥奪する」


 ジェラルド様は絶望の表情を浮かべ、床に膝をついた。

 その姿に国王陛下は視線も向けずに告げた。


「兵士よ、その二人を捕らえよ!」


 すぐさま兵士たちが動き、レオナード殿下を拘束し始める。


「離せ! 貴様ら、私は王子だぞ! 父上、父上ぇぇぇぇ!」


 引きずられていく彼の絶叫が徐々に遠ざかっていく。

 そして兵士たちがミランダに拘束の手を伸ばした、その瞬間だった。


「か、彼女に触れるなぁッ!」


 怒声が轟き、鋼の閃きが走った。


 ジェラルド様が剣を抜き、目の前にいた兵士の一人を容赦なく斬り伏せた。


 斬撃は正確無比で、一人、また一人と兵士が倒れていく。


「ジェラルド様、何を――!」


 周囲が叫ぶ中、彼は血走った目で立ちはだかり、ミランダを守るように前に出た。

 その顔には混乱と焦燥が浮かび、しかし剣を握る手は決して緩んでいなかった。


「ミランダが、ミランダが闇魔法なんて……そんなはずがない……! 誰が何と言おうと、俺は……俺は彼女の騎士だ……ッ!」


 その叫びに、私は一瞬だけ胸が痛んだ。

 彼がまだ信じていて、裏切られた苦しみなどが、痛いほど伝わってくる。


 けれど――だからといって、暴力を許すことはできない。


「セレナ嬢、やろうか」


 静かに、しかし確かな意志を帯びた声が後ろから届いた。

 振り返ると、ラファエル様が真剣な眼差しで頷いていた。


「……はい!」


 私も頷き、詠唱に入る。

 私の掌に、灼熱の火が宿る。


 ラファエル様の周囲に、風が渦を巻くように旋回する。


「――『ブレイズ・ファング』!」


 高らかに魔法名を唱えた瞬間、火と風が交わった。

 私の火球に、ラファエル様の風がまとわりつき、烈火の牙のような旋風が生まれる。


 灼熱と旋風が混ざり合った魔弾は、唸りを上げてジェラルド様へと突進した。


「が……あっ……!」


 彼の剣が吹き飛び、呻き声を上げて地面に倒れ込む。

 意識を失い、そのまま動かなくなったジェラルド様に、兵士たちがようやく駆け寄り、取り押さえる。


(ジェラルド様の罪が、さらに重くなったでしょうね……)


 苦しい選択だったが、避けられなかった。

 彼も、最悪の形で自らを堕としたのだ。


「共同の魔法は久しぶりだね。やっぱり僕たち、相性いいみたいだ」


 ラファエル様が小さく笑いながら言ったその言葉に、私は思わず頬が熱くなるのを感じた。


「こ、こんな時に……」


 それでも、少しだけ――嬉しくて。

 私はラファエル様に、そっと微笑み返した。


 ジェラルドも捕らえられて、次に呆然としていたミランダが静かに捕らえられようとしていた――と思った瞬間、彼女の目が鋭く光った。


「この私に――触るなあぁぁぁぁ!!」


 ミランダの叫びと共に、再び黒い霧が噴き出す。

 それは兵士たちを飲み込み、彼らが慌てて飛び退く。


「ミランダが魔法を使ったぞ!」

「だめだ、あれは闇魔法だ! 我々の魔法では止められない!」


 混乱が再び場内に広がった。


 このままでは死傷者が出てしまう。

 闇魔法は通常の魔法では防ぐことができない。


 闇魔法を防げるのは光魔法と、そして――。


「――させないわ」


 凛とした声が響き渡った。


 前に踏み出したのはアルティア様だった。

 彼女の掌から闇魔法が放たれ、ミランダの黒い霧を包み込むように吸収していく。


 闇魔法を防げるのは、同じく闇魔法だ。


「アルティア……!」


 ミランダが本性を剥き出しにして睨むが、アルティア様は微動だにせず毅然としている。


 ミランダが激昂して叫ぶ。


「私は……私は天に愛されし者よ! あなたの闇魔法ごときで、私を止められると思っているのかしら!」


 闇魔法を全力で放つミランダ。

 ミランダの身体から黒い霧が放出される。このままこの会場を飲み込むような勢いだ。


 しかし、アルティア様は揺るがない。


「天に愛されていなくても、構わないわ」


 アルティア様の言葉と共に、彼女の闇魔法がミランダの闇魔法を完璧に覆い尽くしていく。


「私は――ただ一人の親友に愛されているだけで、十分だから」


 ミランダが放った黒い霧を、アルティア様が全て受け止めて無効化した。

 ミランダは驚愕で表情を歪ませる。


「な、なんで……!」

「私はずっと闇魔法を『守るための魔法』として練習してきたのよ。あなたのような、他人を傷つけるためにしか魔法を使わない人間に――負けるわけがないわ」


 アルティア様が鋭く言い切り、次の瞬間、水魔法を放ってミランダを直撃させる。


「がっ……!」


 ミランダはそのまま意識を失い、地面に崩れ落ちた。

 その隙に兵士たちが彼女を拘束し、会場はようやく落ち着きを取り戻した。


 私はその姿を見ながら、感激で胸がいっぱいになっていた。


 さっきの言葉、ただ一人の親友ってもしかして私のこと?


 推しにそんな言葉を言われるなんて、過剰な愛過ぎて……!


 それに今、アルティア様が、こんなにも強く、美しく輝いている。


「アルティア様……っ!」


 気づくと涙が頬を伝っていた。

 アルティア様はそれを見て優しく微笑み、そっと涙を拭ってくれる。


「もう、またあなたは泣いて……本当に泣き虫なんだから」


 呆れたように笑いながらも、その笑みは限りなく優しかった。


「はぁ……アルティア嬢に勝つには、まだまだ頑張らないとな」


 その後ろでラファエル様が軽く笑いながら肩をすくめながら言った言葉は、私には届かなかった。



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― 新着の感想 ―
騎士設定の奴なんかついでに爵位剥奪処理されててわろたこいつマジなんもしてないww てかこいつ居なくても2部のストーリーなんも影響しないのが最高にいい感じw 気になるのは作者の慈悲かそれともこいつなんも…
なんで裁判の場で当事者が帯刀してんのさ?
とても良かったです! 今まで闇魔法を使うとアルティアを非難してた生徒や教師達はどんな反応をするのかな。手の平返しもムカつくし、まだ闇魔法と蔑んでくるのもムカつくし、全員ザマァがいいな。
2025/05/20 00:05 退会済み
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