9話:結成
錆び朽ち果てた聖剣……らしいモノ。
その姿に、何とも言えない空気が流れた。
それを見せてみろとばかりに取り上げたのは、意外にもリン生徒会長だった。
「これは状態こそ最悪だが、元は相当な業物だったに違いない、私が手入れをしてやろう」
そう言い彼女が取り出したのは、錆び落としのスプレーと研ぎ石。
人には学校に関係無いモノは持って来るなと言う癖に自分は、こんなモノを持ち歩いているとは……
などと指摘したら、どんな目に遭うかは分かりきっているので、これには目を瞑ろう。
しかし、彼女が聖剣(仮)を手入れをするのは、止めた方が良いだろう。
「リン生徒会長……業物なら素人が手を加えない方が良いんじゃ無い?」
「心配するな、私の家は武術の家計で刀の扱いにも心得はある。
武器として使う訳でもあるまいし切れ味はきにせんだろう?
このまま放置よりはマシになるはずだ」
自信満々の彼女を止める術はオレには無い。
今にも手入れを始めようとしたその手を止めたのは聖歌さんだった。
「ちょっと!! 武器として使うんだから困るわ!!」
聖剣を取り上げる聖歌さん。
「私のです!! 使わせませんよ!!」
今度はマナさんが取り上げた、このままでは振り出しに戻ってしまう。
「聖歌さん、どの道これだけ錆びてたら聖剣として使うのは厳しいんじゃない?」
「それは……私が聖剣に選ばれなかっただけよ!!
元の世界に持ち帰れば、きっと使いこなせる人がいるわ」
「なんの話だか分からんが、キチンと手入れをせねば、観賞用としても武器としても使い物にならんぞ?」
「リン生徒会長、聖剣っていうのは、選ばれし者が手にすれば力が覚醒したり……
まぁ使える状態になるんだよ、少なくともラノベに出て来る代物はね」
「はっ? 道具が勝手に使える状態に!?
そんな事ある訳が……」
そこまで口にしてオレ達の世界での魔法石も、魔力が勝手に回復することを思い出したのだろう。
言葉が支えてしまっている。
「ゴホン、道具が人を選ぶ訳がないだろう?
弘法人を選ばすとも言う」
「リンちゃん、それは人が道具を選ぶ側の、ことわざでは?」
「弘法だがコンボだか知らないけど、聖剣は私の世界を救う為に必要なの!!
あと、このまま持って帰っても問題ありません!!」
「では、何故持って帰らないのだ? それを手に入れたのは数日前なのだろう?」
リン生徒会長の指摘に、聖歌さんは部が悪そうにし、目を反らしている。
これは、つまりそういう事だろう。
「元の世界に帰れなくなったんだね?」
コクリと頷く聖歌さん、まぁ世界と世界の移動なんてお手軽に出来る訳ないよね。
チート揃いのライトノベルの転生転移主人公でも帰って来れるのは少数派な気がする。
「つまり聖剣も使えない、元の世界にも帰れないと」
「ネオウさん、それはちょっと……」
「言い過ぎだな」
「え?」
色々と考えを巡らせてて気がつかなかったが、聖歌さんが絶望したような表情を見せ今にも泣き出しそうだ。
……まだギリギリ泣いてない、女の子を泣かせたことにはなっていない。
オレは空気を変えようと、必死に話題を考えた。
「そういえば、ここって聖歌さんの家なの?」
「今は、ここに住んでいるわ」
良かったぁ涙が引っ込んでる。
「広い屋敷だけど、開いてる部屋とかはない?」
「私が使っているのは、この部屋だけよ」
左手にいくつか並んでいる扉の1つを指さした。
この広い屋敷で、部屋が有り余っている……
これはオレの夢への計画の一歩になるかもしれない。
「じゃあ……どこか広めの部屋をオレに貸して欲しいんだけど」
「「「???」」」
この頼みは予想していなかったのだろう、3人とも首を同じ方向同じ角度で傾げている。
「さっきは聖歌さんの気持ちも考えずに発言しちゃってゴメンね。
でもそれで困ってるのは事実だよね?」
痛い所を突かれたという顔をしているが別に聖歌さんをイジメるつもりはない。
ただし……利用させてもらうつもりはある。
「今の状況で聖剣を持っていても仕方ないと思うんだ、だから一旦マナさんに返してあげてくれない?」
「君は私に部屋を貸せ、聖剣も返せって言ってるの?」
「もちろんタダでって訳じゃ無いよ?
オレはこの世界の魔力を使って君たちの世界の魔法を再現する発明や研究をしているんだ。
聖剣を調べたり異世界に戻る方法を調べれるのは、オレかマキシム社くらいだと思うけど、マキシム社は異世界の存在を良く思ってないってのがオレの推理だし、オススメはしないかなぁ」
「つまり……私に協力してくれるの!?」
「オレの夢を実現させる大きな一歩になりそうだからね。
未知の事だらけだし、あんまり期待はしないで欲しいけど、他に宛てもな……」
オレが言葉を言い終わる前に、聖歌さんは腕をガッシリと掴んできた。
柔らかく少し冷たい手、なのにオレの手は暑くなりフリーズしてしまった。
「ありがとう!! 好きな部屋を好きに使って!!
今までエルフも見たことないのよね? 私の体を調べれば帰る方法とかも……」
急に服を脱ごうとする聖歌さん、しかしマナさんとリン生徒会長が彼女を押さえ込んだ。
残念じゃない、と言えば嘘になるしが、下心なしにしても体の造りも違うのか気になる。
「こんなのと2人で住むなど如何わしい!! それに異世界人は監視せねば!!
堂本ネオウ!! 私も一部屋借りるぞ!?」
許可はオレじゃ無くて聖歌さんに取って欲しい。
あと工房代わりに使いたいだけで、一緒に住むつもりはない。
「ネオウさんは聖剣を私に返すとおっしゃいました。
それで聖剣ドロボーに協力出来るんですか!?」
「あっ……マナさん少し……たまに貸してくれない?」
「それで研究がうまくいって、聖剣ドロボーが元の世界に帰るときには、聖剣は持って行かれちゃうんですよね?」
ヤバい……夢へ前進しすぎたテンションで、そこまで考えていなかった。
「えっと聖歌さんも要件が済めば返してくれるよ」
「それは約束するわ」
「分かりました、では私にもお屋敷の部屋を一つ貸してください。
聖剣は私が持ち歩いて、研究も私が目の届く場所で、という条件でならネオウさんに協力します」
「マナちゃん……ありがとう!!」
聖歌さんは、今度はマナさんの手をギュッと握った。
これは……エルフの挨拶か何かかな?
何はともあれ、話はまとまった、っと良いことを思いついたぞ!!
「ひとまず、ここがオレ達の秘密基地になる訳だね……って事で!!」
何故かそこにあった白紙の看板、それが目に入ったら、体が勝手に動き出した。
ペンを取り、看板いっぱいに文字を書き始めた。
「堂本ネオウ、人様の家で勝手に何を!?」
「いいのよ、捨てるのも大変そうで放置してたし、使いたい人が使ってくれれば」
「何を書いてるんですか?」
「これはオレの一番の発明になるかも!!」
【ラノベ異世界実現部】
下書きもしていないのに我ながら上手く書けた看板だと思う。
「おい!! 珍妙な部活を勝手に作るな!!
見張るとは言ったし部屋も借りるが私は入らんからな!!」
「私は、何だか楽しそうだと思います!!」
「良く分からないけど、エルフの村は、ずっと静かだったから……賑やかになりそうでうれしい!!」
オレたち4人の部活が始まった。
この時は、本当に世界を変えちゃうなんて思わなかったけどね。
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