8話:エルフ
目の前に探し求めていたエルフがいる。
いや……探し求めていたのはマナさんだし、オレは昨日始めたばかりだが……
せっかく魔力のある、この世界をファンタジーにするのがオレの夢。
実在するとは思っていなかった、その世界の住人が目の前にいるのだ。
エルフも驚き気が動転した様子。
目が合ったまま、どうしたら良いか分からずオレも固まってしまっている。
そんな沈黙を破ったのは、隣で彼女を睨みつけていたマナさんだった。
「聖剣ドロボー!! ここであったが100年目!! ドゥクシッ!!」
オレの身長を軽々超えるジャンプと同時にチョップが炸裂する。
エルフの頭上には、アニメの世界でしか見ないような巨大なタンコブが出来てしまった。
「だっ大丈夫ですか?」
「ネオウさん!! 私と聖剣ドロボーどっちの味方なんですか!?」
「いきなりジャンピングチョップはどうかと思いまして……」
今更だが、オレはヤバい子と行動を共にしているのかもしれない。
学校では小動物みたいに大人しい印象だったけど、凶暴なタイプの小動物だったみたいだ。
こちらの事情や状況が理解出来ていないのだろう。
エルフはタンコブを押さえながら涙目で困惑している。
「私の聖剣を返してください!!」
だがこの一言でエルフは状況を理解したようだ。
タンコブを押さえている間は、オレと歳の変わらないが少し大人びた少女という印象だったが、今は敵を目の前にしているかのような鋭い目をしている。
異世界人が、どんな反撃の手を持っているか分からない。
オレは自然と、バックの中に右手を突っ込み魔法の杖を握り締めていた。
とは言っても実践で使えそうな攻撃魔法は、まだ完成していない。
焦りと緊張から手の震えが止まらない。
「渡す訳にはいかないわ!!」
エルフは腰に下げていた剣に手を伸ばす。
「私の聖剣!! 勝手に使わないで下さい!!」
あの剣がマナさんの聖剣、古ラノベでは、最強の武器という扱いが多い。
アレがその通りの代物なら、魔法の杖が完成していたとしても対抗するすべは無い……
「渡す渡さないって、そもそも私のですから!!」
「平和なこの世界に聖剣なんてあっても仕方ないでしょう!?」
「おじいちゃんの形見なんです!!」
「こっちは、今生きてる人間の命がかかってるのよ!!」
緊張して身構えてたオレがおかしいのか?
目の前で始まった、子供のおもちゃの取り合いのような争いに、自分の感性の方を疑わざるおえなかった。
だが正しかったのはオレようで、リン生徒会長は横を通り、2人の前に出た。
「2人とも落ち着け!! 力で奪い合っても、また聖剣とやらの奪い合いが始まるだけだろ!?」
「「だってこの子が!!」」
今まで争っていたのに、息ピッタリにお互いを指さす。
これでは、姉妹の喧嘩と止めに入ったお母さんだ。
「「誰が姉妹ですか!?」」
「お母さんなんて歳じゃないし、老け顔でもない!!」
今度はオレが3人から指を指される。
また心の声が漏れてしまっていたか?
何はともあれ、エルフは話が通じる相手のようだ。
言語的な意味も含めて。
「ゴホン、まぁみんな少しは落ち着いたみたいだし話を進めるね。
オレは堂本ネオウ、マキシム高校の2年生……って言っても分からないか」
「私は渡リンだ、同じくマキシム高校2年で生徒会長を務めている」
リン生徒会長は、マナさんの脇腹を肘でつついた。
しかめっ面だった彼女は、渋々と口を開く。
「……宮下マナです、マキシム高校2年」
「私は聖歌、ミドルネームや名字は無いの」
普段の彼女からは想像もつかない塩対応。
エルフの名前も聞けたし、これで話を進められる。
「えっと聖歌さんって呼んで良いかな? オレの知識だとエルフって種族だと思うんだけど、異世界……ここじゃない世界から来たって事で合ってるかな?」
聖歌さんは、ゆっくり頷き口を開いた。
「この世界の人は、エルフなんて知らないと思っていたから……驚いたわ」
我慢出来ずオレは質問を続けた。
コレがオレにとって一番重要な問いだ。
「分からない事だらけで、聞きたい事は沢山あるんだけど、とりあえずコレは聞かなきゃならないんだけど」
少し真剣なトーンになっていたと思う。
それに釣られたのか、マナさんとリン生徒会長がゴクリと息を飲んだ。
「聖歌さんって……魔法は使えるの!?」
今までの空気は何処へやらとばかりに2人が盛大にズッコケた音がする。
しかしオレは、それどころで無かった。
「えぇっとエルフは人間より魔法が得意な種族なの、私も例外じゃないわ」
思わずガッツポーズしてしまった。
“人間より”という事は、異世界に住む者は、種族を問わず魔法を使えると言うことだろう。
オレも異世界に行けば魔法が使えるのか、はたまた使い方を知らないだけで、この世界でも魔法は使えるのか、期待がどんどん大きくなりる。
「じゃあ見せて!! ファイヤーボール……は建物だと危ないかな?
水の魔法!! 水をこれ一杯にお願い」
「え? 君そのバケツどこから出したの?
アイテムボックス!?」
後で思い返せば悪かったと思うけど、オレは目を輝かせてばかりで、聖歌さんの言葉は聞こえていたのに、お構いなしにグイグイと質問していた。
「そこまで期待されると照れるんだけど……1回だけよ?
星の恵みよ、我が声に応え、命の根源を生み出せ……ライフ・ウォーター」
これは……本物のライトノベルで何度も読み返した詠唱!!
やっぱり魔法には必要なんだ、オレの魔法が上手く発動しないのは詠唱が無かったせいだろうか?
チート転生者なんかは無詠唱だったりするけどオレは絶対に必要派。
原理的な事に気を取られ、大事なことを失念していたようだ。
「あのぉ……ネオウさん?」
「あっマナさんゴメン、見るのに夢中になっちゃって」
「その割には、何も起こっていないにも関わらず、目を輝かせておりましたが?」
「え?」
バケツの中身を確認すると、中は水はおろか水滴すらない。
聖歌さんの様子に目をやると手のひらを何度も確認し、焦りを見せていた。
「聖歌さん? 調子悪い?」
「こっこんな初級魔法が発動しないなんて……
あり得ない……この私が!!」
「ほらな、やはり魔法など空想の産物。
秩序を持ってエネルギーとして利用するマキシム社こそが正義!!
分かったか!? 堂本ネオウ!!」
とリン生徒会長は言っているが、彼女もそこそこ期待の眼差しだったのが、オレには見えていた。
「違うわ!! 魔法はある!!……ってこの世界の魔力って、ただのエネルギーなの?」
「魔力で乗り物が動いたり、火を起こしたりはするけど、聖歌さんがやろうとしてくれたみたいに、人間が直接水を出したりって魔法は絵空事って認識なんだよねぇ」
聖歌さんは驚きのあまりなのか、再びフリーズしてしまった。
「まぁ魔法は使えなくても聖剣は別かもよ?
この世界だって、魔力で動く道具はあるし、作れるんだから」
「そっそれが……」
今度は聖剣を鞘から抜いて見せたが、そこから現れたのは、錆びて朽ち果てた、聖剣とは言えないような鈍らだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練って執筆しております。
少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると励みになります。
下の星から評価も、面白いと感じたら、入れてくださると嬉しいです。




