5話:検閲
マナさんとのデート……ゲフンゲフン、聖剣探しの依頼を受けた日の夜。
オレは地下の工房で、魔法の杖の開発を進めていた。
「よし、これで理論上は上手くハズ!! 初級攻撃魔法と言えばコレだよね!?」
【ファイヤー・ボール】
意気揚々と叫んだが、魔法の杖から出現したのはロウソクレベルの火。
これなら100円ショップの花火でも買ってきた方が安くて強力だ。
「おかしいなぁ、魔法石の魔力は消費してるし、もっと派手なのが出るハズなんだけどなぁ」
杖を分解し、色々と確認してみるが、今のオレの知識では何が間違っているのか分からなかった。
「こんなの、どのラノベを読んでも解決しないよなぁ」
杖の部品1つずつ手に取り確認する。
「マナさんの聖剣があればヒントになるかなぁ?」
思わず口にしてしまったが、あんなファンタジーな話は未だに本気にできない。
しかし本気にした方がマナさんの話の辻褄は合ってしまうので困る。
オレみたいな変わり者が、そこまで親しくも無かった女子と水族館に行って遊園地に行って……今日の出来事が思い出される。
「デートじゃん!! ……あっ」
つい興奮してしまい勢い余って、魔法の杖の絶対に切ってはいけない配線をニッパーで切ってしまった。
ヤバいと思い冷や汗が流れたが、今更どうする事も出来ない。
ドカーーーーンという音と共に、工房に置いている書類や工具が勢いよく吹き飛び宙を舞う。
「けほっけほっ」
髪は焼けてアフロのようになり、服も黒焦げ。
気をつけてはいるが、まぁいつもの事だ。
本棚には爆発特化バリヤーを張っていて貴重なラノベは無事だし、明日使う装備も無傷……散らかった工房は明日片づけるとして、今日はもう寝よう。
明日も何があるか分からないんだ。
あの女の人が本当に異世界人なのかは分からないが、別に戦う訳じゃないんだ、たぶん。
魔法の杖の完成を急ぐ理由は無い。
~翌朝~
昨日は作業を途中で切り上げたので、早く寝たつもりでいたが、妙に眠い。
作業中も寝る前も時計を見ないのはオレの悪い癖だ。
実際に寝たのが何時かは分からない。
教室に入り席に着こうとすると、横にリン生徒会長が腕を組み立っていた。
「ふぁ~おはよう、リン生徒会長」
「おはよう……ではない!!」
「え? 気がつかない内に午前終わってた?」
「そういう意味ではない!! あいさつは大事だが、そんな場合ではないという意味だ」
「そんな場合じゃない?」
オレはポカンとしながら首を横に傾げる。
「え? 存在すらか?」
「ゴメン、昨日は色々あってさ、何か用?」
リン生徒会長は、大きなため息の後に続けた。
「そういえば、昨日はマナと一緒だったな。
まぁ誰が誰と遊ぼうが校則違反ではないが、人の話も聞かずに出ていくのは~」
これは先生が来るまで続く奴だ、そして口を動かすのに夢中で、オレの事など視界に入ってすらいない。
この間に、魔法のホウキの整備をしてしまおう、まずか棒と掃く部分を離してと。
「聞いているのかぁ!?」
「しまった!!」
分解中に『ガチャッ』という大きな音が鳴り気がつかれてしまった。
リン生徒会長は、抜刀術を思わせるような神速で竹刀を振るい、オレの魔法のホウキをはたき落とした。
魔法の箒は大破し虚しく煙を上げている。
「あぁ!! せっかく修理できたのにぃ!!」
「話の最中だ!! それに毎朝毎朝、こんな珍妙なモノで登校しよって!!」
「結構楽だし、高く飛ばなきゃ安全だよ?」
「だいたい何故、ホウキを飛ばす? もっと乗りやすいモノとかあるだろ?」
「魔法で空を飛ぶと言ったらホウキだよ?」
「聞いたことないぞ?」
「それを言うなら、ホウキで登校が校則違反ってのも聞いたこと無いんだけどなぁ」
「マ・キ・シ・ム法!! この話は昨日もしたからな!!」
マキシム法は魔力の取り扱いに関する法律。
今や日本のエネルギーの9割以上は魔力だ。
500年前に発見された魔法石、そこに蓄積されている魔力と名付けられたエネルギーは使っても時間経過で再生する性質を持っている。
魔法石は何故か日本でしか採掘されず、それまで資源に乏しかったらしい日本は、一気に資源大国へ成り上がった。
元々の技術力も合わさり、今やGDPは何年連続1位かも分からない。
だが、その権利はマキシム社が独占しており、魔法石の加工法はおろか採掘場所も不明だ。
「えへへ、無限のエネルギーで別に危険も無いんだから、もっと自由に使っても良いと思うんだけどなー」
「マキシム法は、約400年間守られて来た法だ。
無限のエネルギーとは一歩間違えば~」
リン生徒会長の長い話が再開してしまった。
こうなると中身が有ろうが無かろうが、とにかく長い。
かといって昨日は逃げてしまったので、今日も逃げてしまうと、さらに厄介な事になる。 オレはタイミングを見計らい、話を遮ることにした。
「そう反対ばっか言うけど、リン生徒会長はライトノベルって読んだことある?
主に2000年代前半の作品」
「そんなもの、古ラノベの授業で嫌というほど読んでいる」
「あれはマキシム社が2000年代風に書いただけの偽物」
「なに? そうなのか?」
古ラノベの授業に限ればオレの方が成績は上だが、リン生徒会長も全国レベルで上の成績だ。
しかし、この事実は知らなかったらしい。
嘘では無いがオレの話を、すんなり信じてくれるのは意外だった。
「オレも高校入る少し前に知ったんだけどね。
コピーだけど、コレが本物のライトノベル」
オレは紙の束をカバンから取り出し、手渡した。
【異世界転生大戦】オレがある人に貰った、最初のライトノベルだ。
リン生徒会長は、興味を示したのか、ペラペラと捲っていく。
「おいっ……コレ、マキシム社の指定する粗悪ラノベじゃないのか?」
「そういう事にされて、電子データまで含めて厳しく処分されてるね」
「これが本当に2000年代前半のライトノベルだという証拠は?」
「マキシム社が、取り締まっている作品、それが何よりの証拠だよ」
「意味が分からんぞ!?」
「仮に粗悪だからって、それが取り締まりの理由にはならないでしょ?」
今まで見たことの無いような、ハッとした表情を浮かべた。
彼女くらい頭が良ければ、すぐ気がついても良さそうなのだが、それが許されないほど、ライトノベルや異世界について、マキシム社の教育は徹底されている。
これは、もはや洗脳と言っていい。
何か感じることがあったのか、リン生徒会長は、そのままショックを受けたように固まってしまった。
お陰様で、授業が始まるまで時間が稼げて、説教は免れた訳だ。
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