10話:解析
オレ、堂本ネオウがラノベ異世界実現部を結成して数日が経過した。
といっても研究の方は進めておらず、今ようやく家の工房に置いてあった機材などの運搬が終わった所だ。
これから本格的に活動するつもり……だったのだが。
「ネオウさん、お疲れ様です、早速聖剣を調べますか?」
「ネオウ君、私の世界について興味があるのよね? 何でも聞いてね?」
張り合うようにしてグイグイと言い寄ってくるマナさんと聖歌さん。
2人の心の中はどうであれ、男として悪い気はしない。
リン生徒会長がいたら、口うるさく言われていたかもしれないが、生徒会の仕事で遅れて来るらしい。
オレの部活にこそ入らないと言った彼女だが、毎日屋敷には来ており、勉強や生徒会の書類仕事などをしている。
なんとも彼女らしい対応だ、おっと話が脱線してしまった。
「えっと……今日は引っ越しで疲れちゃって……そういうのは明日からかなぁ?」
やる気満々の2人を前にすると少し申し訳ないが、どちらの意見を取るにしても、コンディションの悪い時にやっても仕方ないのだ。
決して、どちらか選べないから、この選択にした訳ではない。
「でも聖歌さんの世界って聖剣の力を借りたいくらいピンチなんだよね?
もうこの世界に来て何日も経っていると思うけど平気なの?」
「たぶん……私を送ってくれた長老様が、時間の流れが違うって言ってたから」
これはマキシム社の発行しているライトノベルでも広く使われている設定。
実際も時間の流れには差があるらしい、って頭では分かっていても故郷の事は心配だよね。
向こうの様子を知る手段も無いだろうし、こうしてる間に大切な人が……とか頭を過ってしまうだろう。
「よしっ!! 聖剣の解析だけでも少しやってみようかな」
「えっ? 疲れてるんじゃないの!?」
「このまま寝ても気になって休めなそうだからね。
まぁちょっと仕組みを見るだけ」
ノートパソコンに、運び立ての機材を接続し、聖剣に10本ほどケーブルを使う。
「聖剣の仕組みってパソコンで分かるんですか?」
「まぁ、どれくらい魔力があるか程度だけど。
30分くらいはかかるから、のんびり待ってようよ。」
~45分経過~
この間にリン生徒会長が屋敷に到着した。
学校でもないのに持ち物検査やらが厳しく行われ、解析状況を確認する暇もなかった。
まぁ気になってソワソワしてたし、時間稼ぎにはちょうど良かったかな。
これだけ待てば流石に……
「解析結果はどうなってるかなぁ!?」
説教も一区切りが突いたので様子を確認する。
「あれ!?」
しかし画面に表示されたのは『進行度4%』の文字。
ノートパソコンといっても相当なスペックのを使ってるんだけど、作業が重かったか?
フリーズを疑うほどのノロノロとした動作、これまで色々なモノを解析したが、ここまで時間がかかるのは初めてだ。
こうなれば一晩放置するのも選択肢だったが、今度は動作が急激に速くなり、あっという間に解析が終了した。
「すごいな、これほどの作業を短時間で終わらせるノートパソコンとは」
「いや、今まで動いてないに等しかったんだけど、リン生徒会長ってパソコン詳しいの?」
「ゴゴンゲフン……それより結果はどうなんだ?」
?何か誤魔化そうとしているような……まぁ良いか。
「ええっと……これは!?」
オレは目を疑った、多少面白い結果が出ると期待はしていたが、これは……異常だ。
「どうした? もったいぶって」
「やっぱり我が家に代々伝わる聖剣は素晴らしい代物なのです!!」
「私の世界を救ってもらうんだから、それくらいじゃなきゃ困るわ!!」
「おい2人とも落ち着け!! そんなフラグを立てたら『大したモノじゃありませんでした』パターンに傾いてしまうぞ!?」
なんやかんやリン生徒会長も楽しんでるよな?
「ネオウさん!!」
「そっそうなの?」
フラグという言葉に、マナさんと聖歌さんが涙ぐみ不安の表情を浮かべている。
「えっと皆、落ち着いて? 結論から言っちゃうと聖剣に入っている魔力は」
「「「魔力は!?」」」
「ドゥルルルルル」
何故か口でドラムロールしだす聖歌さん。
それが止まったタイミングで発表するのが様式美だろう。
「10億マキシ……以上だね」
「10億!?!?」
「マキシだと!?!?」
「って、どれくらいなの?」
目を点にして驚くマナさんとリン生徒会長。
聖歌さんは、その大きさが分からないのか首を傾げポカンとしている。
当たり前ではあるが『マキシ』という単位は聖歌さんのいた世界では使われていないらしい。
まぁ名前の通りマキシム社が作った単位だからね。
「えぇっとオレ達の住んでいるマキシム市は日本で一番の大都市なんだけど、1年間の魔力の使用量が10億マキシだったかな?」
「それは莫大な量の魔法石と設備で生み出している量だ、それがこんな小さなボロ……聖剣に貯蔵されているとは」
「えっへん!!」
胸を張り得意げなマナさん可愛い……じゃなくて、ここまで来たらいよいよ本物の聖剣だな。
異世界の魔力や魔法がどんなモノかは知らないが、これで世界が救えると言われれば納得する。
「そっその魔力、何とか取り出せないのか?」
「リン生徒会長が食いつくなんて意外だね、オレたちの世界の魔力とはピンクかマゼンタか位の違いしか無さそうだし取り出せると思うよ?」
「そんな事して聖剣の魔力無くならない?」
「魔力なら放置すれば少しずつ再生する……けどこれだけの量だからね使い切ったら、どれだけの年月で元に戻るか検討も突かないね」
「「じゃあダメ!!」」
いつもは気まずいというか、仲の悪いマナさんと聖歌さんだが、声と動きを揃えて聖剣をオレの手から取り上げる。
「でも聖歌さんが元の世界に帰るには、その魔力を使うしかないと思うよ?」
世界と世界の移動、どれだけの魔力が必要か分からないが、そこらの魔法石……
いやマキシム社の魔力設備を使っても難しいだろう。
「じゃあ私が元の世界に帰っても聖剣は、しばらく使えないの?」
「対策は考えるけど、甘々に見積もっても1年以上は待つことになるかな?」
「……そっか」
「でも聖剣の魔力を使うとして、問題はそこじゃないんだ」
今度は3人一緒に首を傾げている。
オレは部屋に戻りバケツとペットボトルを用意し状況を説明する事にした。
「さっき話に出たけど、マキシム社は10億マキシのエネルギー、日本全国だからそれ以上の魔力を生産している。
けどこれは1年間での数値、1週間や1日って単位だと……1ヶ月で1億マキシ位しか生産してない計算だね」
「堂本ネオウ、計算しやすい1ヶ月で口にしたな? それもマキシム市の使用量に言い直して」
「ゴホン……まぁとにかく、マキシム社ですら1日に扱ってる魔力はその程度。
それが、こんな小さいのに入っているとどうなるかと言うと……」
オレはバケツ一杯に汲んだ水と、ペットボトルのキャップを床に置いた。
「誰かバケツだけを持って、キャップに水を入れてみてよ」
「はい!!」
右手をビシッと挙げて名乗り出たのはマナさん。
重そうにバケツを持ち上げ慎重に動いているが、キャップの周りには大量の水が溢れてしまった。
「あぁ……」
「まぁこうなるよね」
言い出したのはオレなので、雑巾で拭きながら説明を続ける。
「バケツが聖剣の魔力で、キャップが取り出した魔力を入れる器だとして……」
「なるほど、多くの魔力が外に溢れ出してしまう訳か」
「その危険性は近代史で習う“あの事件”で知っての通り」
「その魔力を安全に入れれる大きな器が必用という訳ですね」
リン生徒会長もマナさんも理解が早くて助かる。
と言っても解析した初日に課題がハッキリするとは思わなかった。
まぁ簡単に解決できる問題じゃ無いけど……頑張ってみるかな。
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