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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
98/123

第98話 ダンジョンからの知らせ、それはそれぞれの分岐点

“コンコンコン”

鳴らされる扉の音に、ゆっくりと身を起こす。この頃は椅子に座っている事も辛く、ベッドに横になって過ごす日が増えて来た。


「はい、どうぞ、コホッ」

ややかすれた声、タンの引っ掛かりを感じ、手をやり喉を摩る。

目に映る赤黒く染まった肌の色が、自身の命がもう長くはない事を分からせる。


「ただいまシャナ、身体の調子はどうだい?」

扉を開けて入って来たのは銀級冒険者パーティー“銀の鈴”のリーダージェイド。シャナはジェイドの姿を見るやニコリと微笑み、まるで何事もない様に言葉を返す。


「お帰りなさいジェイド、今回の探索は早かったのね。もしかして誰かがケガをしちゃったとか?だったら私が・・・」

シャナはそう言いベッドから降りようとするも、身体がふらつき倒れそうになる。


「おっと危ない、シャナ、無理はしないでくれ。パーティーの皆がシャナの事を心配しているんだから。

それと今回の探索を早めに切り上げて来たのは宝箱から中々良い品が見つかってね、みんなで話し合ってシャナへの贈り物にしようって事になったんだ。

これはいつも俺たちの事を助けてくれているシャナへの感謝の気持ちだ、是非受け取って欲しい」

そう言い布に来るんだ何かを手渡すジェイド。


「あら、みんなからの贈り物だなんて嬉しい。宝箱から一体何を見つけて来たのかしら?」

シャナはにこにことした笑顔を浮かべ、ゆっくり布を取り除き・・・


「!?」

淡く光るポーション瓶、虹色の輝きが頬を照らす。


「ジェイド、これって・・・!?」

慌てるシャナの唇に指を当て、“シ~~~”と声を掛けるジェイド。


「これはダンジョンの宝箱から出たポーション瓶だが鑑定はしていない。こんなものを鑑定屋に持って行った日にはどこに情報が洩れるのか分からないからね。

だからこれは完全な賭け、でも俺たちはこのポーションがきっとシャナの命を救ってくれると信じている。

でもシャナが嫌だって言うのなら口にしなくても・・・」

ジェイドはシャナの目を見詰め言葉を紡ぐ。

不安、焦り、恐れ、様々な感情が瞳の奥で揺れ動く。


「ありがとう、ジェイド。それにみんなも」

シャナはポーション瓶の上蓋を取ると、唇に当てゆっくり傾ける。


“コクッ、コクッ、コクッ”

その変化は突然だった。喉の辺りから輝き出した光は見る見るうちに広がり、シャナの全身を包み込んだ。


「シャナ、大丈夫か、シャナ!?」

胸の前に上げた両手を見詰め、ジッと固まるシャナ。そこにはこれまでどんな治療を施しても治ることのなかった赤黒く染まった手先は既になく、白く美しい指が煌めいている。

シャナはベッドを降りると、恐る恐る前に踏み出す。一歩、また一歩、床を踏みしめるたびにポロポロと涙が溢れ出る。


「ジェイド、私・・・ジェイド~~!!」

声を上げ、泣きながらジェイドに抱き着くシャナ。怖かった、寂しかった、不安で不安で仕方が無かった。これまで抑え続けてきた感情が一気に噴き出し、溢れる涙を止める事が出来なかった。

“銀の鈴”のメンバーたちはそんな二人の様子に温かい眼差しを向け、そっと部屋の扉を閉じる。


「ライド、バレリアン、冒険者ギルドへの報告を頼めるか?俺は“魔物の友”の連中のところに行って来る。

ミリアはリーダーとシャナの事を頼む。リーダーは女性に対する心遣いがからっきしだからな、長いこと患ってたシャナは色々あるだろうしな」


グリーンの言葉に肩を竦めてから「分かったわ、あの二人の事は任せて」と了承の意を伝えるミリア。


「グリーン悪いな、お前ひとりに嫌な役目を押し付けちまって」

「いいさ、これは俺のけじめだからな。それよりもギルドに宝箱の事はきちんと説明しておけよ、シャナが呪いに侵されていたことは周りに知られている。そんなシャナが元気に街を出歩く様になれば勘ぐる奴も出るだろう。

黙っててもバレるならさっさとギルドに話しちまった方がましだ。


第十八階層は冒険者どもが集まって大変な事になるとは思うが、そんな事はどうでもいい。肝心なのはシャベルの事だ。

このままダンジョン都市で活動を続けるのかそれとも場所を移すのかはリーダーの判断を待つことになると思うが、いずれにしろ碌でもない噂は広がるだろう。

シャナを守りたいんだったら下手な隠し立てはしない方がいい、その結果ギルドが俺たちにどんな判断を下すのかは分からんが、下手な隠し事は碌な事に繋がらないからな」


グリーンの言葉に大きなため息を吐きつつも、「まぁそうだろうよ、仕方がねえ」と了承の意を示すバレリアン。ライドは無言で頷くと、バレリアンと共にその場を後にする。

グリーンはそんな二人の背中を見送った後、「後は頼んだ」と言い残し、“魔物の友”のパーティーメンバーが待つ宿屋“大地の怒り亭”へ足を向けるのであった。


―――――――


「シャベルの行方が分からなくなった?それは一体どういう事だ」


“大地の怒り亭”の部屋には、シャベルを除く金級冒険者パーティー“魔物の友”のパーティーメンバーたちが揃っていた。

彼らは第十二階層での襲撃事件の後、心身の回復を図るため宿の部屋でそれぞれがゆっくりとした時間を過ごしていた。襲撃事件の際襲撃者たちによって掘り起こされた過去のトラウマは、それほどに彼らの心に深い傷を植え付けていたのであった。


「最初シャベルを伴った俺たち“銀の鈴”のダンジョン探索は至極順調だった。臨時で加わったシャベルだったが流石は金級冒険者だ、索敵能力やその場の状況判断、どこのパーティーに加わっても問題なく活躍できるほどの物だったよ。

それに加えシャベルの従魔フォレストビッグワームの攻撃力は凄まじいものがあった。元々城塞都市ではソロ冒険者として活動し金級に上ったと言っていたが、ソロでダンジョン探索をさせても二十階層以下ならなんの支障もなく生還するだろうな。


事態が起きたのは十八階層、通称“宝箱階層”と呼ばれる洞窟型階層での探索中の事だった。シャベルの従魔が岩壁の違和感を発見してな、体当たりを行ってその裏に隠れていた隠し部屋を発見したんだ」


宿を訪れシャベルが行方不明になった事を伝えたグリーン。彼の語る当時の状況の説明に、口を閉じ耳を傾ける“魔物の友”のメンバーたち。


「隠し部屋の中には幾つかの宝箱が等間隔に置かれていた。だがシャベルは直ぐに部屋に入ろうとした者を手で制し、部屋の中に罠が仕掛けられている事、宝箱のほとんどがミミックであることを告げた。

訝しむ俺たちに「見ていろ」と言って足元の崩れた岩壁の欠片を拾うと、そのまま部屋に放り込んだ。すると欠片の落ちた先の床面がボコリと抜け、大きな落とし穴が口を開いたんだ。

ミミックに関しては勘でしかないと言っていたが、その前にシャベルがミミックをテイムしていると言っていたし、なんとなく分かると言った言葉も嘘ではなかったんだと思う。


シャベルはフォレストビッグワームを先導に立て、隠し部屋の中を進んで行った。シャベルたちはまるで安全な道が分かっているかのように目的の宝箱まで進んで行ったよ。

シャベルが宝箱をロープで結び、後はシャベルが戻って来てからロープを引き上げる、それだけだった」


グリーンはそこで言葉を止めると暫し瞑目し話を続けた。


「本人も何故そんな事をしてしまったのか分からないと言っていたよ。突然うちのリーダーであるジェイドが宝箱を結んだロープを奪い取って引き上げ始めちまったんだ。

俺が叫び声をあげた時はもう遅かったよ。まるでそれが合図であったかのように上蓋を開け一斉に襲い掛かり始めたミミックたち、そんな中シャベルは上手く身を躱し棍棒で伸びる舌を叩き落として急ぎ隠し部屋を脱出しようとした。

だが次の瞬間突如隠し部屋の床が全て抜け落ちちまってな、シャベルはミミックたちと一緒に穴の中に。

あの竪穴がどれほど深いのかは見当も付かない、それほどに深く暗い落とし穴だった」


“ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ”

テーブルに置かれたのは四つの皮袋、それは明らかに硬貨の詰まった代物。


「これはさっき言った宝箱から出たものだ。これらは全て発見者であるシャベルの物だ、俺たちは一切手を付けちゃいない。

この他に霊薬らしきものが入ったポーション瓶が入っていたが、それに関しては申し訳ないが使わせてもらってしまった。

今回の件でお前たちが冒険者ギルドに俺たち“銀の鈴”の事を告発するのなら止めはしないし、ギルドの裁定も甘んじて受けよう。

大体今回の探索は俺たちが勘違いでシャベルの従魔に切りかかった事が発端だ、その償いの為の探索でさらに罪を重ねたんだ、言い訳のしようもない」


そう言い深々と頭を下げるグリーン。

その場で話を聞いていた金級冒険者パーティー“魔物の友”のメンバーたちは互いに目を合わせ、三人を代表してクラックが口を開く。


「話は分かった、この皮袋は遠慮なく貰っておこう。

幾つか確認したい。シャベルは床が抜け落とし穴に落ちて行った、魔法攻撃を受けた訳でも切り掛かられた訳でもない、ただ穴に落ちて行っただけ、それで間違いないか?」

「あぁ、それは間違いない。それまでの戦闘でケガらしいケガもしていない。だがあの穴では・・・」


クラックの言葉に口を開いたグリーンの話を、クラックは手で制する。


「次にこの話の詳細は既に冒険者ギルドに報告したのか?

今回の探索はただ臨時パーティーを組んで行われたものじゃない、ある種の懲罰といった意味合いのあったもの、冒険者ギルドへの報告義務が生じる筈だが」

「それはいま他のメンバーが向かっている。俺たちがシャベルと一緒に宝箱階層を目指していた事は冒険者ギルドの知るところだからな。俺たちが地上にいてシャベルが戻らないという事は直ぐに知れる事となる。しかもシャベルは金級冒険者だ、いつまでも秘密に出来る筈もないからな」


グリーンの言葉に大きなため息を吐くクラック。ダンジョンにおいて宝箱を巡っての諍いはよく聞く話である。

見つけたお宝の話を吹聴し命を落とすなんて話は当たり前、見つけた宝を巡りパーティーメンバー同士の殺し合いに発展したなんて話も決して珍しいものではない。

ましてや今回は臨時パーティーを組んでの探索、その中で見つかった隠し部屋、魔が差してしまったとしても何ら不思議はなかったことだろう。


「今回の件で俺たち“魔物の友”のメンバーから何かを言う事はない。俺たちはお前たち“銀の鈴”を盗賊の類と認定し一切の関係を断つ。元々出会いからして最悪だったんだ、深い関係がある訳でもないし何ら問題はないだろう。

そしてこれはシャベルも同じ事、うちのリーダーは一度見限るとそれがどんなに深い関係の者であろうともバッサリと断ち切るからな。グリーンも許されようなどとは思わずその罪を背負ったまま生きて行け。

冒険者ギルドの裁定がどうであれシャベルがお前たちの前に姿を見せたのなら、盗賊として扱われると思った方がいい。互いに接触しない事が一番だがな。


俺たちはこの後すぐにダンジョン都市を離れる。これは予めシャベルと決めていた事だ。

俺たちはこれまで何度も冒険者どもから命を狙われている。その度返り討ちにしてきたが、それはシャベルの従魔の力によるところが大きい。

つまりシャベルが不在となった今、俺たち“魔物の友”は欲深な冒険者どもにとって美味しい餌って訳だ。


じゃあな、もう会う事もないだろうが、精々命を大事にすることだ。本気のシャベルは金級冒険者に相応しい実力を持っている。

シャベルが戻ってくる前にダンジョン都市から離れる事をお勧めするよ」


クラックはそれだけを告げると急ぎ荷造りに取り掛かる。そして彼らはその宣言通り“大地の怒り亭”を引き払うと、その足でダンジョン都市を去って行ってしまうのだった。


“スライム使いシャベル”がダンジョン第十八階層の隠し部屋の罠に掛かり行方不明になった事は、瞬く間にダンジョン都市中の冒険者の知るところとなった。


「なあ、聞いたか?スライム使いの話。隠し部屋の罠に引っ掛かって行方不明になったんだとよ」

「聞いた聞いた、なんでも床が抜けて落とし穴に落ちたってんだろう?間抜けな話だよな~、折角隠し部屋を見付けてもお宝は全部“銀の鈴”の連中に持って行かれちまったんだろう?」


「それがよ、あいつら馬鹿正直にその中身を“魔物の友”の連中に渡しちまったんだと」

「か~、羨ましいね~。自分たちは楽してお宝だけいただくって、どんだけ善行を積めばそんな事になるんだか」


「馬~鹿、お前ら知らないのか?“銀の鈴”のところの死に掛けヒーラーがすっかり元気になったって話。何でも深部階層の魔物の呪いで明日をもしれない状態だった奴が、すっかり良くなった。これが一体何を意味するのか。

スライム使いの見つけたお宝を全て渡した、連中がそんないい子ちゃんの訳ねえだろうが。一番高価な品を自分のところで使って、その残りを渡したってだけだよ。

なんともダンジョン都市の冒険者らしいじゃねえか」


酒場の噂話は続く、死に掛けを治す霊薬は第十八階層の隠し部屋にある。欲望は欲望を呼び、多くの獲物を穴倉へと誘い込む。

大金を手に入れたテイマーどもを追うもの、二匹目のドジョウを狙うもの。

ダンジョン都市は人々の欲を肥大化させ、大きく口を開き彼らの侵入を迎え入れるのだった。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 『銀の鈴』の連中が同じ穴の狢たちにアンブッシュされようがどうなろうが至極どうでもいいですが、都市を離れた『魔物の友』が欲の皮の突っ張ったゴミ共に酷い目に合わされないか…だけが心配ですね…
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