第95話 ダンジョン中層部、予期せぬ再会
“ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ”
「チッ、こいつら硬いぞ。グリーン、痺れ薬はどうした!!」
“ドカッ、ドカッ”
「もう投げた!フォレストスネーク用の麻痺毒を喰らわせたのに全く効きやしねえ、どうなってんだよ」
ダンジョン第十二階層の薄暗い石造りの廊下に響く戦闘音。シャベルが急ぎ駆け付けた先では、五人組の冒険者パーティーと闇・風・土の三体による激しい戦闘が行われているところであった。
「クッ、新手か。闇・風・土、怪我はないか?こちらはけりが付いた、少しずつ後退し広間で相手をする。俺も牽制に参加する、風から下がってくれ」
シャベルの掛け声にジリジリと後退を始める三体の魔物。だがその声に反応したのは魔物達ばかりではなかった。
「はぁ?何で魔物が人の指示を聞いて動いてやがる。えっと、こいつらってもしかして従魔か何かなのか?」
「だとしたら敵はテイマー?冒険者ギルドにつき出したら賞金が貰えるのかな?」
何やらおかしな雰囲気を見せ始めた襲撃者たち。だがシャベルは長杖を構え油断なく冒険者たちを見据える。
「お前たちの仲間は既に俺たちが倒した、残るは貴様ら五人だけだ。
これまでどれだけの者たちを襲って来たのかは知らんが、数の有利は覆った。
貴様らが見下しているテイマーの意地、通させてもらおうか」
“ブンッ”
シャベルが腰だめに構えた長杖を先頭の剣士に突き出す。剣士は剣先で受け流そうとするも体重の乗った重い一突きは、その剣を突き飛ばす。
「クッ、こいつテイマーの癖になかなかやるぞ。ただの襲撃者じゃねえかも知れねえ」
「何を言うか、襲撃者は貴様らだろうが!金級冒険者パーティー“魔物の友”はお前たちのような数に任せた連中に負けはしない」
言葉の応酬で相手の注意を引きながらも少しずつ廊下を下がるシャベル達。対して敵も大型魔物の動きに注意しつつテイマーを倒そうと隙を伺う。
「バレリアン、ちょっと待て。金級冒険者パーティー“魔物の友”、聞いた事がある。確か“お気楽冒険者”って呼ばれてる連中じゃなかったか?
妙に金回りがいいって言うんで何度か襲撃を受けるも、その悉くを返り討ちにしてるっていう。
確かリーダーは“スライム使いのシャベル”とか呼ばれてなかったか?」
「はっ、今更何を。お前らは俺たちの事を待ち伏せしていただろうが。
まぁ全員が情報を共有してなかったのかもしれんが、そんな事はどうでもいい。一人残らず確実に「待て待て待て、俺たちは関係ない。俺たちは通りすがりの冒険者だ、この階層じゃ見ない魔物に人が襲われてたみたいだったから加勢しようとしただけなんだ」・・・はぁ!?」
シャベルは自身の胸に沸く苛立ちを隠す事なく、自称冒険者に言葉を向ける。
「おい、グリーン、何言ってるんだ?こいつは魔物を使って冒険者を襲う盗賊じゃ「馬鹿、逆だ。この人達は襲われたところを返り討ちにしてただけだ。金級冒険者パーティー“魔物の友”はテイマーだけで結成された珍しいパーティーだ。その編成から周りに嘗められて絡まれやすいんだよ。
しかもどういう訳か金回りがいいって情報が薬師ギルド経由で出回って、素行の悪い連中に襲われまくってたんだよ!!
そいつらを全員返り討ちにして冒険者ギルドに報告してるもんだから、今じゃ下層で燻ってる連中から畏れられてるって話だ。
そんで丁度襲われて返り討ちにしているところに俺たちが出くわして、盗賊側に加勢してたって訳だ」馬鹿野郎、俺らが盗賊側な訳ねえだろうが。
魔物がいたら倒す、それが冒険者ってもんだろうが」
「・・・頼む、バレリアン、ちょっと黙っててくれ。リーダー、状況が変わった。どうやら俺たちはとんでもない間違いを犯していた様だ。
剣を引いて少し下がってもらっていいか?」
「・・・あぁ、どうやらグリーンの言う通りみたいだな。バレリアン、ミリア、警戒を続けたままで構わないから少し下がれ。
あの魔物がテイム魔物と分かった以上攻撃を仕掛けたのはこちらと言う事になる、このまま戦闘を続ければこちらが盗賊として処断されかねん」
「はぁ!?どういう事だよリーダー。魔物を倒して処断されるって意味解んねえんだが?」
「あぁ、そういう事か。どうもこっちの分が悪いみたいだね、ここは引いといたほうがいいよ、バレリアン」
「ミリア、お前一人なに分かってますって顔してるんだよ、お前だって本当はよく分かってねえだろうが!!」
後ろに下がりながらも内輪揉めを始める連中に呆れた視線を送るシャベルとグリーン。
「・・・何かうちのパーティーメンバーがスマン」
「いや、何と言っていいのか、心中お察しする」
互いの間に流れる苦労人の空気、シャベルは警戒は緩めないまでも、目の前の相手の話を聞く体勢を取るのだった。
「申し遅れたが俺の名はグリーン。中層深部を主な活動場所にしている冒険者だ。そして後ろの連中が、俺の所属する銀級冒険者パーティー“銀の鈴”のパーティーメンバーになる」
「俺の名はシャベル、金級冒険者パーティー“魔物の友”のリーダーをしている。この三体は俺の従魔でフォレストビッグワームという種族になる。ビッグワームの進化個体だな」
「「・・・・・」」
互いの間に流れる奇妙な空気、何かモヤモヤとした気持ちと妙な引っ掛かりが、互いの心を支配する。
“トントントン”
シャベルの背後で闇が床を叩く。闇から伝わってくる感情は“僕この人知ってる~”といったもの。瞬間シャベルの脳裏にある記憶が蘇る。
「ヘイゼル男爵領からライド伯爵領に入って直ぐ、ミューリの街の先にある野営地、魔物の皮なめしの方法を教えてもらった冒険者・・・」
「あ~、あぁあぁ、はいはいはい、思い出したわ。そうだよ、シャベルだよ。あの魔物、どこかで見た事あるようなって思ってたんだよ、あの時の野営地で見た魔物だよ、城塞都市に向かったシャベル、はっきりと思い出したわ。
久し振りって言うか二年ぶりか?元気だったか?」
互いに感じていた既視感の正体ははっきりし、スッキリするシャベルとグリーン。
「いや~、意外なところで会うもんだ。いや、グリーンたちはダンジョン都市に向かうって言ってたもんな、どこかで出会ったとしても不思議じゃないか。
まぁ出来たらこんな出会いは果たしたくなかったがな。いくら知り合いでも盗賊相手に情けは無用、全力で「待て待て待て、だから俺たちは魔物に襲われてる冒険者に助力しようとだな。アイツらがシャベルを襲ってただなんて知らなかったんだよ!!」・・・でも後ろの連中はやる気みたいだぞ?」
シャベルは顎をクイッと動かし、グリーンに背後のパーティーメンバーを見るように促す。
「馬鹿、バレリアン、ミリア、いい加減引っ込め!!
リーダー、ロック、こいつらをどうにかしてくれ!!」
第十二階層の廊下に響くグリーンの叫び声。その姿に“あぁ、グリーンは苦労してるんだな~”と同情の目を向けるシャベルなのであった。
―――――――
「クラック、ジェンガ、メアリー、作業ご苦労様。その後異常はなかったか?」
「あぁ、特に魔物の湧きも発生しなかったから問題ない。
で、後ろの冒険者たちは?」
ボクシーの罠により待ち伏せをしていた襲撃者たちを討伐するも、未だ続く戦闘音に通路を走り出したシャベル。
暫くすると戦闘音は納まり、クラックたちは全ての襲撃者の処分が終わったのかと胸を撫で下ろしていたのだが、当のシャベルは五人の冒険者を連れて帰って来たのである。
「あぁ、こいつらは銀級冒険者パーティー“銀の鈴”、襲撃者と風たちの戦闘音を聞きつけて襲撃者に加勢していた正義漢だな。
俺たちは魔物を使って冒険者を襲う悪者らしい」
「あ~、なるほどな。たまにいるよな、そういう奴ら。
で、どうするんだ?俺たちを冒険者ギルドに突き出すか?別にいいぞ、俺たちも冒険者ギルドには用があるからな。
襲撃者共の冒険者ギルドカードを提出しないといけないしな」
肩を竦め呆れたような顔で言葉を向けるクラック。
そんなクラックの態度に未だ疑いの視線を向けていたバレリアンとミリアは、気まずそうにそっぽを向く。
「俺は冒険者パーティー“銀の鈴”のリーダーでジェイド。この度は俺達の思い違いで君たちの従魔に剣を向けてしまい、本当に申し訳なかった。
この件に関しては冒険者ギルドにて正式に謝罪したいと思う」
集団の中から一歩前に出て頭を下げるジェイド、残りのメンバーもリーダーの態度に慌てて頭を下げる。
「そうだな、この件は下手になあなあにするよりも正式な場で話を付けた方が互いにスッキリするだろう。
それに俺たちも上には戻るつもりだったしな。
シャベル、それで構わないか?」
「あぁ、それでいい。それと暫く中層部でのダンジョン探索は控えるものとする。
ジェンガとメアリーは平気と言うかも知れないが、心の負担は思いのほか戦闘に影響する。十日ほど休養を入れてから上層部で調整を行うものとする。クラック、そういうことでいいな」
シャベルは“魔物の友”のパーティーメンバーそれぞれに目を向けると、ダンジョンからの撤収を指示するのだった。
―――――――――
「ではこちらが今回の襲撃者の冒険者ギルドカードと言う訳ですか」
「はい。それと装備品並びに遺体がありますがどちらに出したらよろしいでしょうか?」
ダンジョン都市カッセルにおいて、ダンジョン内の犯罪を取り締まることは非常に難しい。街の監督官側としても犯罪者の横行によりダンジョンの魔石採掘やドロップアイテムの回収が滞る事は損失であり、都度大規模な取り締まりを行うもののその根絶に至らないのが現状であった。
冒険者ギルドとしても手をこまねいている訳ではないのだが、魔物蔓延る地下洞窟内での出来事であり、取り締まる事も被害者を救出する事も実質不可能であり、冒険者たちに注意喚起情報を出す事がせめてもの抵抗となっていた。
「・・・こう言ってはなんですが、“魔物の友”様の場合パーティーメンバーとして剣士か魔法使いの方を募集された方が良いのではないでしょうか?
普通金級冒険者パーティーがここまで何度も襲撃を受けるというのは考えられませんし、やはりテイマーだけのパーティーという事で何段も下に見られてしか思えません。
一度パーティーの皆様で検討なさることを強く推奨いたします」
「ハハハ、そうですね。あとで話してみたいと思います。
それと今回はこちらの“銀の鈴”との件もありまして」
そう言い背後に並ぶ銀級冒険者パーティー“銀の鈴”のメンバーに目を向けるシャベル。
「そうですね、こうした問題は往々にして起こるんですよ。実際第三者からすればどちらが盗賊で被害者かなどは見分けが付きずらい。劣勢の方に加勢したら実は襲撃者だったなんてこともありますから。
しかも今回は従魔と襲撃者との戦闘に口を出した形ですし、意思確認のしようもありません。従魔の側に使役者がいないことを問題視しようにもこの人数に対処していたとなりますと、だったら死ねと言うのか?って話になりますし。
冒険者ギルドとしては、賠償金を支払う事で示談となさることを提案いたします。
またダンジョン内の救命活動を推奨している事や今回の状況を鑑み、冒険者ギルドとして“銀の鈴”に対しペナルティーを与える事は無いと宣言させていただきます」
ギルド職員からの言葉に、明らかにホッとした表情になる“銀の鈴”のメンバー。
ギルド職員からの提案を受けしばらく考え込んでいたシャベルは、何かを思いついたように口を開く。
「だったら宝箱をくれ。確かグリーンたちは中層深部を中心に活動してるんだろう?確か十八階層、十九階層辺りは宝箱を落とす魔物がよく出ると聞いたんだが」
シャベルの提案にやや顔をしかめるジェイド。その表情は一瞬であったものの、シャベルは“これは何かあるのか?”と警戒の色を強くする。
「分かった、だがどうする?俺たちは街での補給が終わったら再びダンジョンに向かうつもりなんだが」
「そうだな、だったら俺も同行しよう。出来れば未開封の宝箱が欲しい。その場で譲ってくれれば示談成立って事でいい。
それに中層深部はまだ行った事が無い、そこを主戦場にしている者の協力を得て探索できることは、俺にとっても益のある事だしな」
互いに視線を交わし交渉成立とばかりに握手をするシャベルとジェイド。
“中層深部の宝箱、これでボクシーの強化が捗るかも”
偶然の再会からの思わぬチャンス、シャベルはまだ見ぬ宝箱階層に期待を膨らませ、思わず口元を緩めるのであった。




