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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
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第86話 旨そうな餌、引き寄せられる悪意

ダンジョン都市カッセルの酒場、そこには多くの冒険者が集い、日々の憂さを晴らすかのように飲み騒ぐ。

ダンジョンは魔の森の様にいつ魔物に襲われるかといった事に怯えるような場所ではない。自ら魔物を探し討伐する場所、自らの危険と引き換えに大金を生む欲望の穴倉。

そんな日常的に命の危険に晒され続ける冒険者にとって、酒場とは緊張から自身を開放してくれる場であり、日常へと引き戻してくれる切り替えの場。


多くの冒険者の集う酒場は、多くの情報が飛び交う場でもある。

そんなカッセルの酒場では、今一つの話題が注目を集めていた。


「なぁ聞いたか?“お気楽冒険者”の噂」

「あぁ、聞いた聞いた。アイツらのんびり低階層の探索ばっかりしていやがって、どこぞの貴族のお坊ちゃんが道楽で探索でもやってるのかと思ったら、とんでもねえことになってたのな」


“お気楽冒険者”、ダンジョン都市でそう揶揄される冒険者たち、金級冒険者パーティー“魔物の友”の動向は、その色物とも言われるメンバー全員がテイマーと言うパーティー編成もあり、彼らがダンジョン都市にやって来てからずっと何かと注目されて来ていた。

そこに新たな噂が加わった。

「“お気楽冒険者”が楽して金を稼いでいる」

この情報は耳聡い冒険者たちにとって聞き捨てならないものであった。彼らは皆自身が命を賭けてダンジョンに挑んでいると思っている人種である。そのやり方はそれぞれであれど、誰も娯楽を楽しむかのような探索など行ってはおらず、欲望に忠実に、目をぎらつかせながらダンジョンに潜っている。

そんな自分たちを差し置いて“お気楽冒険者”が楽に金を稼いでいる、そんな事が許されるのか?

彼らには彼らなりのプライドがある。それがエゴであり押しつけであるなどといった事は彼らには関係ない。

俺たちの戦場で楽して金を稼ぐなど、そんなことが許されるはずもない。それが許されるのだとしたら、それを享受すべきは自分たちであると。


「でもよ、それをどうやって調べるんだよ。奴らだってバカじゃねぇ、おいそれと飯の種を教える訳がねぇじゃねえか」

「おいおい、お前俺を馬鹿にするなよ?俺だって奴らが素直に教えるだなんて思っちゃいねえよ。

連中の後を付けてだな、何をやってるのか調べるんだよ。そんでそれを真似すりゃ一攫千金、どうだ、上手い手だろう?」

「なるほど、悪くねえな、その話乗った!」


“お気楽冒険者”を遠目で観察しその手口を探る。そんな事はどこの冒険者でも行っている事であり、ダンジョン都市では当たり前の行為。

中には待ち伏せと勘違いされ命の取り合いにまで発展する事もあるが、それは互いの自己責任。ダンジョンの中はある意味無法地帯であり、“力こそが正義”がまかり通る場所なのである。

だがそんな理論を拡大解釈し、他人を虐げ全てを奪おうとする者も少なくない。


「なぁ、例の噂は聞いたか?」

「あぁ、色物連中が金蔓を見付けたって奴だろう?あいつら俺らに挨拶も無しって嘗めてんのか?」


「このダンジョン都市のルールが分かってない新人は度し難いからな。まぁいい、ここは一つ金蔓を見付けた功績に免じて、その譲渡で手を打ってやろうじゃねえか。

なに、ここは先輩冒険者としての度量を見せねえとな、俺様は優しいだろう?」

「あぁ、ちげえねえ。もっともこれまでの稼ぎや装備は全て置いて行ってもらうけどな」

「「「「ギャハハハハハ」」」」


欲望の集まる場所には力に物を言わせた悪意も集まる。

スキルや職業といったものが人の価値とされるこの時代、その力を振るい支配欲を満たそうとする者も多く現れる。

ここダンジョン都市はそうした者を引き付ける魔力に溢れているのであった。



「なぁシャベル、まずい事になったな」

街に溢れる自分たちの噂、それは当然金級冒険者パーティー“魔物の友”のメンバーたちの耳にも聞こえて来る事となる。


「あぁ、この事態は予想出来た事だが、その反応がな。ダンジョン都市の連中は欲望に忠実と言うか馬鹿と言うか。直接問い質して来た連中はまだいい、“自分たちが守ってやるから利益の半分を寄こせ”だの、“お前たちには過ぎたるものだ”だの。

こいつらは本当に冒険者か?城塞都市の連中に比べて質が悪すぎないか?」


そう言い眉をひそめるシャベルに苦笑いを浮かべるメンバーたち。

ダンジョン都市が欲望都市と呼ばれるのは何も一獲千金を狙った冒険者が集まるからというばかりではない。ただ金が欲しいのなら城塞都市でも十分に稼げる。魔物との戦いに命を懸けるという点ではダンジョンも然して変わらないのだから。

だがダンジョン都市の冒険者には宝箱を見つけ楽して大金を得たい、他人の成功が羨ましい、そのお宝は俺のものだといった考えを持つ冒険者が多く存在する。

ダンジョンの暗闇は人の欲望を刺激し、その内面を露にする。故に欲望都市、犯罪者の蔓延る危険地帯なのである。


「メアリー、ジェンガ、クラック、これからは買い出しや情報収集は三人で組んで行ってくれ。情報収集も冒険者ギルド資料室といったギルドの目が届く範囲にしておこう。

この噂が収まるまでは個々の外出は控えた方がいいだろう、俺も宿でポーション作りを行う事にする、薬師ギルドの買取もしばらくは控えよう。なに、パーティー資金はある、ダンジョンに潜らなくとも数年は宿屋暮らしが出来る程にな。焦ってもいい事はないからな」


“安全第一、命大事に”

シャベル達は仕方がないとばかりに肩を竦め、状況を見守る事とするのだった。


「あらおはよう、今日もダンジョンかい?街中で噂されてるってのにあんたらも勤勉と言うかなんと言うか。

でも気を付けるんだよ、ダンジョン都市には馬鹿な連中も多い、他人の利益は自分のものとか本気で思ってる様な頭のおかしいのとかね。

そんな奴らは言葉をしゃべるゴブリンと一緒さ、全く話なんか通じない。

情けが必ずしもいい事とは限らないんだからね?」


従魔屋に従魔たちを取りに来たシャベル達に声を掛けた女性職員は、心配そうな目を向け忠告する。ダンジョンの中は無法地帯、情けを掛けた相手に後ろから切り付けられたといった話など、掃いて捨てるほど聞いて来た。


「忠告感謝する。俺たちは従魔あっての冒険者だ、自身の弱さはよく心得てるさ。無理や無謀はしない、常に注意を払って一階層ずつ丁寧な探索を行っていただけなんだがな。他の冒険者はそれがお気に召さなかったらしい」

そう言い肩を竦めるシャベル、そんなシャベルの態度に「まぁ、ここの連中はバカばっかりだからね~」と呆れ顔になる女性職員。


「とにかく無事に戻って来るんだよ、関係ない連中なんか見捨てたって誰もとやかく言わないんだからね」

「あぁ、分かってるさ。行って来る」

そう言い従魔屋を後にするシャベル。


「本当に分かってるのかね~、あのお人好しは」

去っていくシャベル達の後ろ姿に一抹の不安を覚える女性職員。彼女は知っているのだ、草原の先のゴミ捨て場の生ごみをシャベル達が綺麗にしてくれていたという事を。何故かスライムやビッグワームが現れず臭いの酷くなっていたゴミ捨て場が、シャベル達が来て以来綺麗に片付けられているという事を。

そしてその事を誰に言うでもなくさり気なく行う者が、お人好しでなくてなんと言うのか。


「女神様、どうかあの気持ちのいい連中をお見守り下さい」

女性職員は自然と女神様にシャベル達の無事を祈るのであった。



「おい、来たぞ」


シャベル達が東街門を抜けダンジョンに向かうと、それを待っていたかのように動き出す者たちがいた。彼らは皆さり気なく、気取られぬ様にと後を付け始める。

シャベル達はそんなハイエナ冒険者たちを気にする様子も無く、いつものようにダンジョン第一階層の巡回を始める。


“ボタッ、ボタッ”

第一階層の魔物はスライム。通路に蠢くものや天井から落ちて来るものなど、鬱陶しくはあるが然して気にする必要のない魔物である。


「なぁ、アイツら何やってるんだ?」

「さぁ?リーダーのシャベルってのが通路に落ちてるスライムに向かって“テイム”って言ってるのは聞こえるんだけどな。

ダンジョン都市に来るようなテイマーが今更テイムの練習をするとも思えねえし、さっぱりだ。って言うかダンジョンの魔物ってテイム出来るのか?」

「「さぁ~?」」


遠目から見ても何をやってるのか分からない謎の儀式。冒険者たちは“これが楽して金を稼ぐ事に繋がるのか?”と疑問符を浮かべながらも、観察を続けて行く。

そんな彼ら観察組とは違い、直接的な行動に出る者も現れる。


「どけ、邪魔だ!」

その者達は悠長に遠目から観察し秘密を探ろうとする者たちを見下すと、馬鹿にしたような声を上げ蹴散らして行く。


「おい、お前らか!このダンジョン都市で楽に金儲けをしてるって連中は」

その者達は徒党を組み、数に物を言わせシャベル達を威嚇する。


「お前ら分かってるのか?このダンジョン都市にはルールってものがあるんだよ。お前らはそのルールを破った、その落とし前はきっちり付けて貰わねえとな!」

そう言い剣を引き抜く男に、シャベルは訝しみの視線を送る。


「ふむ、ダンジョン都市のルールか。冒険者ギルドではそんな事は言ってなかったんだがな」

「はぁ?ふざけんなよ?このダンジョン都市では俺たちがルールなんだよ!

手前ら楽して金儲けをしてるらしいじゃねえか、そのやり方を吐いて貰おうか。それと俺たちに断りも無く勝手に金儲けをした詫びとして、身ぐるみ全部置いて行って貰おうか!」

“““シュイッ”””


一斉に引き抜かれた剣、男達はそのぎらつく様な凶器を見せ付ける様にして、ジリジリとシャベルに近付いて行く。


「ふむ、勝手に金儲けと言われてもな、俺たちはただダンジョンの魔物を狩っているってだけなんだが。身ぐるみ置いて行けって事は、お前たちは盗賊って事でいいのか?当然俺たちも反撃する、命のやり取りになるがそれでも構わないって認識でいいんだよな?」

そう言い手に持つ箱を地面に降ろし、棍棒を構えるシャベル。それに倣うかのようにパーティーメンバーも棍棒を構え、従魔たちが臨戦態勢を取る。


「クククッ、おもしれえ。高がテイマーの分際で剣士の俺たち相手に挑もうってのか?こっちはな、対人戦じゃ負けなしなんだよ!

お前ら、構わねえ、ぶっ殺せ!」

「「「「オウ!」」」」

シャベル達の態度に殺気を高ぶらせる男達。


「ほう、それは奇遇だな。俺も未だ対人戦では負けた事はないぞ?最も魔物相手では何度も負けてるがな。<範囲指定:周辺通路:テイム>」

“ボタボタボタボタボタボタボタボタ”


「うわっ、何だこりゃ。スライムが、離れろ!!」

突如天井から落ちる大量のスライム。スライム達は本能のまま落下先にいた生物に張り付き、ぷるぷると身を震わせる。


「だから言っただろう、魔物を狩っていたと。俺たちはテイマーだ、テイマーが魔物を狩ると言ったらテイムする事、何も不思議はないだろう?」


「馬鹿野郎!いくらテイマーだからってこんなに沢山の魔物を使役出来る訳がねぇだろうが!一体何しやがった!」

激昂する男に、シャベルは呆れ交じりのため息を吐きながら言葉を返す。


「はぁ~、あのな、お前俺たちのパーティー名を知ってるだろう?“魔物の友”だ。大量の魔物を使役出来る代わりに最下層魔物しか契約出来ないって言うあれだ。

で、今お前に張り付いてる魔物はなんだ?」


男は思う、こいつは一体何が言いたいんだと。


「ハッ、脅かしやがって。高がスライムじゃねえか。そんなものいくら数を揃えたからって、何の意味があるってんだ。ただのコケ脅しじゃねえか。

お前ら確りしねえか、それでも“ダークウルフ”のメンバーかよ。ダンジョン都市では舐められたらお仕舞なんだ、こいつらを血祭りにあげてその事を分からせてやれ!!」


天井から落ちて来た大量のスライムに動揺していた男達は、それに何の意味も無いと分かるや息を吹き返す。そして小馬鹿にして来たシャベルに対し、強い殺気を向け剣を構える。


「はぁ~、そうか、従魔屋の職員が言ってたのはこういう事か。確かに言葉は通じるが話は通じない。言葉をしゃべるだけのゴブリンとはいい表現だな。

そんなお前たちは気が付かなかったみたいだな、足元のスライムが増えている事に」


男達の足元には、いつの間にか無数のスライムが蠢いていた。だが薄暗いダンジョン内で、その事に気が付く者は一人としていなかったのである。


「それがどうした。スライム如きが何体増えようとお前らが終わりって事には変わりないんだよ!今更命乞いが出来ると思うなよ!」

「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ。天多、包み込め」


“ブワッ”

それは突然であった。男達の足元で蠢いているだけだったスライムたちが、一斉に男達に襲い掛かったのである。


「うぉ、何を、ブゴッ」

瞬く間にスライムに飲み込まれた男達、泣く事も喚く事も出来ず、身動きすら出来ないまま時間だけが過ぎて行く。


“ドシャッ”

どれくらいの時間が経ったのだろう、まるでスライムたちから吐き出される様に男達が地面に叩き付けられる。その顔は一様に苦悶の表情を浮かべ、苦しんだ末に亡くなった事が分かる様なものであった。


「クラック、こうした場合一応冒険者ギルドに届け出た方がいいんだよな?」

「あぁ、放置でも構わないがその方が問題ないだろう。それに装備品の買取もギルドに一任した方が話が早い。一々武器屋だの防具屋だのを回るのも面倒だからな。それで残りの連中はどうする、始末するのか?」

そう言いクラックが視線を向けた先には、遠目からシャベル達の様子を窺っていた冒険者たちの姿が。


「「「ヒィッ!!」」」

シャベル達に気が付かれたと分かるや、一斉に逃げ出す冒険者たち。

そして彼らが見た光景は、直ぐに冒険者たちの間に噂として広まる事となる。

“スライム使いシャベル”、その二つ名が怖れと共に語られるのに、そう時間は掛からないのであった。

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― 新着の感想 ―
スライム溺死かぁ…怖いなぁ。 てかドラクエのせいでスライムは雑魚扱いだけど、作品によってはスライムは凶悪だからな。物理無効でへばりついて窒息させて来るやつとか強い毒で触れただけでアウトとか。舐めちゃア…
おお、成長してるな。 でも街の空気が不穏だから心配。 読んでて楽しいです。
こんばんは。 あら、一部逃がしちゃうのか甘いなぁ…と思いましたが。なるほど逃げた腰抜けも『噂を広める』という道具に使えるんですね、やるなシャベル!
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