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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~

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第84話 ダンジョンの中にある空、新たな試み

「なぁクラック、なんでダンジョン内に風が吹いてるんだ?」

シャベルは目の前の光景に呆気にとられながらも、そんな感想を漏らす。

そこはどこまでも広がる草原であった。空は高く、遥か上空には雲が流れ、陽の光が周囲を明るく照らす。

これまで薄暗い洞窟を進んで来たシャベルにとって、その光景は驚き以外の何物でもなかった。


「まぁ驚くよな。俺も初めて第六階層に来たときは“いつの間に外に出たんだ?”って思ったもんだよ。

風に靡く草原(くさはら)、これで洞窟の中にいるなんて言われても、誰も信じないって。

でもここってダンジョンの中なんだよな。

今メアリーのバトルホークが飛んでるあの空、あれをもう少し行くとそこから上に進む事が出来なくなる。

でもこれは実際体験した方が分かり易いかもな」


そう言うや第六階層入口の洞窟から向かって右手に歩き始めるクラック。進むこと暫し、クラックは地面から石を拾うとある一点を指差す。


「シャベル、よく見てろよ」

“ブンッ”


投げられた石は曲線を描くように飛んでいき、急にストンと地面に落ちていく。


「シャベル、今石が落っこちた地点から先に進んで見ようとして貰えるか?」

シャベルはクラックに言われるがまま先に進もうとするが、どうしてもそこから前に進むことが出来ない。


「不思議だろう?これの面白いところはその“壁”を意識しなければ先に進めちゃうってところなんだ。

実際には先に進んでいるつもりでこっちに戻って来てるんだけどな。

だからこの壁を知らない新人なんかは、第六階層を延々と彷徨い歩く羽目になったりする。

“第六階層ではやたらな事はしないで真っ直ぐ進め”

これがダンジョン都市の常識だな」


クラックの言葉に、何も知らなかったらどうなっていたのかと、今更ながらダンジョンという場所の恐ろしさを感じるシャベル。


「でもこれ迄慎重に探索してきたけど、結局第一階層みたいな発見はなかったな。

まぁあれだけでも十分な成果ではあるんだけどさ」

従魔のグラスウルフを走らせ周囲の警戒を行っていたジェンガが、肩を竦めながら言葉を繋ぐ。


シャベルたち金級冒険者パーティー“魔物の友”は、第一階層での探索を行った後も、第二階層、第三階層と重箱の隅をつつく勢いで詳細な探索を繰り返して行った。

資金は潤沢、あわよくば第一階層のような裏技的発見があれば。

残念ながら二匹目のドジョウを目指したシャベルたちの挑戦は失敗に終わってしまったが、チームの連携の確立という意味では、十分利益のある時間であった。


「なぁジェンガ、なんでこれだけの環境があって誰も第六階層に建物を立てたりしないんだ?

空があって草原まで揃ってる。開拓なりなんなりすれば十分住めそうなんだがな」


シャベルの言葉に苦笑いを浮かべるパーティーメンバー。確かに深い階層ともなれば野営を行ったり攻略拠点を築くといった事を行うパーティーもいる。

ダンジョンは広くそして深い。現在最深到達階層である第六十二階層迄など、全く戦闘を行わずとも辿り着くのに一月近く掛かると言われている。

実際には多くの強力な魔物の目を掻い潜らなければならず、運と実力を兼ね備えたうえで数ヶ月の月日を覚悟しなければならない。

その間の食料の確保、冒険者たちの体力の回復を考えれば安心して休むことの出来る拠点の確保は必須命題と言える。その為そうしたパーティーはダンジョン内の十階層ごとに存在するセーフティーゾーンと呼ばれる区画に狩り拠点を築き、地上や食肉などの食料品が頻繁にドロップする階層からの供給を受けていたりする。

ダンジョン最深部地点の探索はパーティー単独では難しく、複数のパーティーの協力の下行うのが定石と言われているのであった。


「まぁシャベルの言う様にダンジョン内に拠点を築いている連中はいるぞ。ダンジョンの十階層ごとに存在するセーフティーゾーンと呼ばれる区画には、それこそ宿屋があったりするからな。

これはダンジョンの不思議と呼ばれてるんだが、セーフティーゾーンには魔物が出ないんだ。それどころか建物を立ててもダンジョンに吸収される事もない。

でも他の区画では建てた外壁や建物内であっても魔物が湧くし、その建物を放置して探索等に出向いた場合建物自体がダンジョンに吸収されちまうんだ。

冒険者ギルドの実験によると、ダンジョン内にいる人物の半径十メートを超えると所有範囲外と認定されるらしい。この第六階層も過去に居住実験が行われたらしいんだが、魔物の出現や建築物の消失等の理由から計画自体が無くなったって聞いた事があるぞ。

まぁ誰だって安心して寝泊まりの出来るセーフティーゾーンがあるって言うのに、危険な階層内に住みたいとは思わないって話だよな」


そう言い肩を竦めるジェンガ、だがそこであっさり諦めないのがシャベルという青年である。


「冬、ちょっと実験に協力して貰っていいかな?冒険者ギルドの小冊子によれば、この第六階層に出現する魔物はグラスウルフとキャタピラー、それとビッグスライム。全部これ迄の階層で倒してきた魔物だし、然程脅威と言った魔物じゃないから問題はないと思う。

それで冬にはこれから半径五メートで円形に地面を耕して貰ってそこで一晩過ごして欲しいんだよ。そうだな、周辺にはブロックを作って置いておこう。焚火と風も協力してくれるかな?」


シャベルからのお願いに、“わ~い、久々の土いじりだ~♪”とばかりに一斉に地面を耕し始めるフォレストビッグワーム達。その凄まじいまでの耕作風景に、唯々呆然とする“魔物の友”のパーティーメンバーたち。


“ねぇ、リーダーって冒険者やってるより魔の森の開拓でも始めた方が向いてるんじゃない?フォレストビッグワーム達は強力だし、リーダーは調薬師だし、畑の開墾もあの感じじゃ直ぐに出来そうだし”

“それ、俺も思った。魔の森の中って訳じゃなくとも、外縁部に村を作ればそれなりの集落を造れるんじゃないのか?リーダーのフォレストビッグワームたちって、確か皆<クリエートブロック>が使えるんだったよな”


メアリーの呟き、それに応える様にジェンガが言葉を繋ぐ。

目の前ではあっという間に耕されてしまった草原と、それを囲む様に<クリエートブロック>によって円形の壁を作っていくフォレストビッグワームたち。それはただブロックを並べるといったものではなく、口から吐き出した粘土を塗り付けて行くという本格的なもの。

“““石工じゃん”””

クラック、ジェンガ、メアリーが茫然と見詰める中、フォレストビッグワームたちの作業は淡々と進んで行く。


「お前たち、その辺でいいぞ。それじゃ冬、後は頼んだ。他の冒険者たちが来ても面倒だから、基本的には土の中に隠れていてくれ」

出来上がったのは高さ半メート程の塀。宿屋などの建物脇に見られる花壇のレンガほどの高さと言えば分かり易いか。


“クネクネクネクネ”

シャベルの言葉に元気に身体を揺するフォレストビッグワームの冬。

シャベルはそんな冬に手を振ると、パーティーメンバーたちに「待たせてすまなかった、探索を再開しよう」と声を掛け、その場を後にするのであった。


第六階層の探索は順調であった。出現する魔物自体これ迄の階層で既に倒して来たものであり、城塞都市での浅層にいる魔物に比べても然程強いと思えるほどのこともなく、それは戦闘と言うよりもパーティーの連携を確かめる為の作業として淡々と続けられる事となった。


「よし、今日はこの辺でいいだろう。しかしこの第六階層までは碌に魔石も拾う事が出来ないし、他の冒険者たちはこれで飯が食べれているのか?

ウチの場合は天多やフォレストウルフたち、マッドモンキーのマンキーやボクシーが見付けてくれるから何とか拾い集める事が出来るが、他のパーティーじゃ難しいんじゃないのか?」

そう言い掌の上に乗る指の爪ほどの大きさの球を転がすシャベル。それは先程倒したビッグスライムからドロップした魔石であった。


「あぁ、まぁ実際戦闘後に魔石を探すのは骨の折れる作業ではあるな。第一階層のスライムや第二階層のゴブリンが誰にも見向きされないのも、これが原因だしな。アイツらの魔石なんかそれこそ割れた石の欠片だしな。大きさも小さい上に魔石としての価値もない、その上その辺の石ころと色が同じなうえに第六階層と違って暗くて見つけるのも困難。

スライムはこれ迄ドロップアイテムが出たなんて話も無いし、ゴブリンは出ても腰巻だしな。ただ臭いだけで使い道がないんだよ。


それでもドロップアイテムだ、何かに使えないかと研究はされたらしいんだが、魔物除けになるどころか若干の誘引作用すらあるらしい。どうもゴブリンは人ばかりじゃなく他の魔物にも嫌われているみたいでな、ウルフ種なんかには率先して狩られるらしい。

でも匂いが強烈だろう?燃やせば鼻のいい魔物は逃げて行くらしいんだけどな。俺に斥候のあれこれを仕込んでくれたベテラン冒険者は、ゴブリンの腰巻を加工して強烈な臭い玉を作ってたんだよ。ダンジョン内で使うと周囲に臭いが広がって顰蹙を買うからなるべく使うなって注意された代物でな、俺の最終手段なんだ。

城塞都市では随分と助けられたもんさ」


そう言い肩を竦めるクラック。そんなクラックの何気ない言葉に途端真剣な表情になるシャベル。


「クラック、すまないが宿に帰ったらその臭い玉の作り方を教えては貰えないだろうか?無論謝礼は払う、そうだな、大銀貨で・・・」

「イヤイヤイヤ、そんなにしないから、臭い玉のレシピは商業ギルドで閲覧可能だから、確か銀貨三枚から四枚だったはずだぞ?

それを少し工夫しただけの代物だからな?」


クラックは慌てて手を振るも、尚もシャベルは食らい付く。シャベルにとって自身の生存率を上げる為の技術は、何物にも代えがたい価値を持っているからであった。


「それじゃ大銀貨二枚でどうだろう、クラックの知る臭い玉のレシピは商業ギルドの物とは少し違うのだろう?その付加価値と言う事にしよう」

そう言い強引に話を進めるシャベルに、「シャベルがそれでいいって言うんならいいんだけどよ」と頭を搔きつつ引き下がるクラック。


「なぁリーダー、それじゃ臭い消しの方法なんてものも知りたかったりするのか?毒消し草と乾燥したトイレスライムの粉末を混ぜ合わせた物を煮出して作った液体を、身体に振りかけるって方法なんだけどな。

村の大人が森に狩りに出掛ける時にやってた方法なんだよ。

確り臭いを消したい場合はスライム粉末の量を増やすとドロドロとしたものになるから、それを身体に塗ってたかな。

子供の頃はトイレスライムを身体に塗るってのに抵抗感が強かったけど、魔物と戦う様になったらそんな事を気にしてる場合じゃないって事が良く分かったんだけどな。

後で作り方を教えようか?」


「是非頼む、代金はクラックと同じ大銀貨二枚でいいか?

他にもあったら教えて欲しい、報酬は支払おう」

シャベルの飽くなき知識欲に、若干引き気味になるパーティーメンバー。

その後話し合いの末、生活に役に立つ技術や危険回避の為の工夫、あまり知られていない生活魔法などの情報はシャベルが買い取ることが決まり、日頃の情報収集にこれらの事項が加わった事は言うまでもない。

それによって金級冒険者パーティー“魔物の友”が、周囲から完全に変わり者の集団として認識される様になるのだが、それは致し方のない事なのであった。


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