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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第三節 人の欲望、人の闇 ~ダンジョン都市カッセル編~
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第80話 探索前に必要な事、それは街の把握と情報収集

ダンジョン都市カッセルの中心から大通りをやや東に下がったそこに、目的の建物は佇んでいた。

薬師ギルドカッセル支部、ダンジョン都市という性質上この街の多くの者はダンジョン攻略の為に集まった冒険者であり、回復薬や解毒薬、各種ポーションの需要は高い。

ダンジョン崩壊という危険が常に付き纏うとは言えそうした事は何十年に一度起きるか起きないかと言った現象であり、頻繁に冒険者が出入りするような大型ダンジョンではあまり見られないと言われている。

稼ぎがあり比較的安全である場所であれば人が集まると言うのは自明の理、ここ薬師ギルドカッセル支部はそうした理由から領都に次いで薬師の数多い都市と言われている。


「次の方、本日はどのようなご用件でしょうか?」

そうした事情もありギルド受付ホールは他の都市の薬師ギルドに比べ比較的大きな造りとなっており、多くのギルド職員が受付業務を行っていた。


「はい、私はシャベルと申します。本日ここダンジョン都市カッセルに到着したばかりでして、この街について色々とお教え願えればと思いお伺いさせていただきました。

しかしこの街の薬師ギルドは盛況ですね、これまで様々な街の薬師ギルドに立ち寄らせていただきましたが、これほど多くのギルド会員の方がおられる支部を見たのは初めてですよ」


そう言い周囲を見回すシャベル、そんなシャベルの様子に受付業務を行う女性職員は面倒な相手が来たなといった内心を隠しもせず、顔をしかめる。


「シャベル様と仰るのですね、ギルドカードのご提示をよろしいでしょうか?

はい、結構です、ありがとうございます。

ダンジョン都市が初めてであり生活のご相談に来られたという事でよろしいでしょうか?はい、でしたらこちらの用紙をご持参のうえ四番窓口にお並びください」

女性職員はシャベルに用紙を渡すと、すぐに移動するように促すのであった。


「ねぇターニャ、なんか新顔をあしらってたみたいだけどどうしたの?普段のあなたなら一応様子見で粉をかけてるじゃない」

隣受付に座る別の女性職員が、先程シャベルの受付を担当していた女性に声を掛ける。


「あぁ、あれね。ここに来る新顔の調薬師って大概他領か領都出身じゃない?なんかいかにもよそ者丸出しだったんで訝しんでいたんだけど、あれ“見習い薬師上がり”だったのよ。

例の“職外調薬師”って奴。

まぁ調薬師の少ない土地なら重宝がられるかもしれないけど、ここじゃね。ちまちま手作りのポーションを数本納品されてもしょうがないじゃない?それでも生活薬の作製では役に立つかもしれないけど、所詮それだけでしょう?

それで正規会員でございますって顔をされてもね。

まぁその辺は本人も弁えてるのか態度が丁寧だったのは認めるけど、私は無しかな。この街が初めてで相談に来たって言ってたから、四番の“何でも相談係”に送ったってだけよ。

私ってば親切~」


そう言い肩を竦める女性職員。言葉を掛けた隣席の受付職員も「あぁ、それはないわ」と同意を示す。

職外調薬師制度、それは隣国オーランド王国の調薬師ミランダ・アルバートの発表した“スキル無しでも作る事の出来るポーションレシピ”を機に作られた制度である。

薬師ギルドにおける正規会員登録条件は一つ、ポーションを作製する事が出来るか否か。いかに多くの生活薬を作製出来ようともこの条件を満たしていないものは正規会員とは認められず、調薬師等の職業スキル持ちとそうでないものを明確に区分けする事となっていた。

だがこのレシピの登場はその垣根を壊し、調薬系職業でない者や調薬系スキルを持たない者にも薬師ギルドの正規会員になるチャンスを与える事となった。

だがこのレシピによるポーション作製には幾つかの欠点があった。

それは調薬に非常に長い時間と集中力を必要とする事、一度に作製可能なポーション量が少量である事。

調薬師がおらず、ポーションの入手が困難な地方においてその存在は非常に歓迎される物であろう。だがその消費量が多く、調薬師が何人もいる様な大都市においてその者たちの存在価値は低い。

そうした意味においてここダンジョン都市カッセルでのシャベルの価値は一般調薬師以下であり、重要視すべき人物ではないと判断されても致し方が無いのであった。



シャベルが向かった四番窓口とは通称“何でも相談係”と呼ばれる受付であり、面倒な依頼人や偏屈な調薬師などが来た場合の対応を主に行う部署であった。


「こんにちは、薬師ギルドカッセル支部へようこそ。本日はどういったご相談でしょうか」

受付窓口で待っていたのは壮年の男性職員であった。


「はい。私の名はシャベルと申します。本日こちらダンジョン都市カッセルに到着したばかりでして、街の事が何も分からずご相談に伺った次第なんですよ。こちらがギルドカードと受付け書類になります」

シャベルは先程受付職員から渡され記入台で記入を済ませた受付用紙を、男性職員に手渡すのだった。


「拝見させていただきます。ほう、職外調薬師の方ですか、それはさぞ優秀であらせられたのでしょう。

スコッピー男爵領マルセリオ支部ですか、あそこのギルド長は変わり者で有名ですからね、聞いたことがありますよ。

そうですか、スコッピー男爵領ですか。でしたら職外の方の仕事も多かった事でしょう、小領という場所はどうしても調薬師が不足しがちですからね。

それで城塞都市で働かれていたんですか、あそこは慢性的な調薬師不足が問題になっていますからね。色々と手は尽くしているようですがこればかりは・・・あの、このその他のギルド所属の記載ですが、これって本当なんでしょうか?」


そう言い声を潜める男性職員。やたらに声を上げず慎重な対応に切り替える辺り、男性職員の優秀さが窺える。

シャベルはそんな男性職員の様子にニコリと微笑みで返すと、「あまり喧伝するようなことではありませんので」と言って唇に人差し指を立てるのだった。


「それでご相談の内容ですが」

「はい、先程も申しました通りカッセルの街について知っておかなければいけない事、知っておいたほうが良い事などを教えていただければと思いまして。

それとダンジョンについてですかね。ドロップアイテム以外の採取物、薬草や鉱物資源などの情報があればと思ったのですが」


シャベルの問い掛けに男性職員は腕を組み思考を巡らせる。確かに薬師ギルドにもそうした情報は自然集まって来るし、冒険者ギルドに対し多くの依頼を行っている。

だがなぜ目の前の人物はそれを冒険者ギルドではなくここ薬師ギルドに求めて来たのかと。


「あの、大変失礼とは思いますがシャベルさんのお立場であればそうした情報は冒険者ギルドでも得られたのではないでしょうか?何故それを薬師ギルドに?」

「そうですね、疑問に思われるのは最もかと。理由はいくつかありますが、やはり安全の為というのが一番大きいかと。

ここはダンジョン都市です、どこにどの様な目があるのか分かりません。眼鼻の利く者にとって冒険者ギルドは最も有効な情報源でしょう。冒険者ギルドは多くの情報が得られる反面、こちらも多くの者の目に晒される。

そちらに記入したパーティー“魔物の友”はその名の通りテイマー同士で組んだパーティーなんですよ。そんな変わったパーティーがいればちょっかいを出すのが冒険者ですから。

危険はなるべく避けたいのですよ」


そう言い肩を竦めるシャベルに変わった人だなと半ば呆れる男性職員。冒険者と言えば名を売り自身の強さを誇示する者が一般的である。だが目の前のシャベルという人物は危険を避け身を隠すように行動しようとする傾向がある事が短い会話の中からも窺い知る事が出来る。それはこれまで自身が思い描いていた冒険者の姿とは真逆の物、力のない弱者の生き方。


「俺は今ではそうした評価を受けていますがテイマーですからね、自身の力に酔いしれる事が出来るほど強くはないんです。

堅実に生き残ってこその冒険、要は調薬師兼冒険者なんですよ」


そう言いニヤリと笑うシャベルに釣られて笑みを浮かべる男性職員。“この人は面白い人だな”、そんな考えが彼の心によぎる。


「そうですね、では注意点をいくつか。ダンジョンに挑まれるという事ですのでダンジョンのことは調べられていると思います。

第六層、草原エリアと呼ばれるところですが、そこには何故か空もあり日の光もある。そしてその名のごとく多くの草花が自生しています。

そんな不思議な場所ですので、その地に生える植物も当然地上の物とは差異を見せています。例えば癒し草ですが、あの場所に偽癒し草は確認されていません。全てが最高品質の癒し草となります。それと植物の採取を行っても直ぐに生え変わるかの様に尽きる事がありません。この辺は未だ解明されていないダンジョンの不思議と呼ばれています。

他にもカモネールや毒出し草といった有用な薬草が確認されております。


それとダンジョン内の人命救助ですが、推奨はされていますが絶対ではありません。それが魔物との戦闘中などであった場合、いくら命の危険のあった状況であろうとも横槍の汚名を着せられかねません。救助される側の意思確認が必要となります。

それと盗賊です、奴らは冒険者の振りをします。その上で親切な顔で近づいて来たり、ケガをして動けないといった振りをします。

誰が盗賊か判断しきれないのがダンジョンという場所です。安全を考えるのならそうした者には近づかない事がもっともよい選択となります。


最後にダンジョンの宝物についてですね。カッセルのダンジョンは定期的に宝箱といったものを生み出します。そこから発見されるアイテムは千差万別、大変有用なものから頭を捻るようなものまで、その為ダンジョン都市にはそれらを鑑定出来る鑑定士が数多く店舗を構えています。

ただそうした情報は瞬く間に様々な冒険者に伝わってしまいます。

その宝物が有用で貴重な物であればあるほど、発見した者はいつの間にか姿を消してしまう。この街を出たのかそれとも。

宝が必ずしも宝たりえないのがダンジョン都市です、鑑定士選びには慎重を期してください」


シャベルは男性職員の忠告を自分の中で咀嚼し心に刻みつける。

今は冒険者パーティー“魔物の友”の一員でありパーティーリーダー、自身の決断が仲間の命を左右しかねない。


「色々とありがとうございます。それと信頼出来る鑑定士の方がおられましたらご紹介願いたいのですが」

シャベルは直観ではあるものの、その男性職員は信用出来ると判断した。であるのならその者の紹介が何も知らず闇雲に鑑定士を探す事の何倍信用性が高いのかなど、考えるまでもない。


「ハハ、そう来ますか。シャベルさんは本当に面白い。

そうですね、場所は少し分り難い所にありますが、ベリルン通りに店を開くクリストファー魔装具店を訪ねられるといいでしょう。そこのご主人エイジン・クリストファー氏が鑑定を行ってくれるはずです。

ただ少々人当たりが、口が堅い事は確かなんですが。

薬師ギルドのパリッシュの紹介といえば話を聞いてくれるはずです」


「ベリルン通りクリストファー魔装具店のエイジン・クリストファーさんですね。

早速訪ねさせていただきます。顔繫ぎをしておいた方が話も早いでしょうから。

パリッシュさん、どうもありがとうございました」


シャベルは席を立ち頭を下げると、四番受付を後にした。

その後姿を見送る男性職員パリッシュは、シャベルが何かをやってくれるのではないかという予感に、久しく感じる事の無かったわくわくとした気持ちに包まれるのであった。



クリストファー魔装具店は確かに分かりの良い大通り沿いではなく道を入ったやや入り組んだ場所に店舗を構えていた。


「すみません、薬師ギルドのパリッシュさんのご紹介で参りましたシャベルと申します。エイジン・クリストファーさんはおられますでしょうか?」

店の扉を開くとそこには様々な革鎧やローブ、装飾品などが陳列されていた。


「ん?俺がエイジン・クリストファーだが、パリッシュの紹介って事だと店の客じゃないって事か?」


「はい、俺はシャベルと申します。薬師ギルドの正規会員ですが冒険者もしていまして、エイジンさんに鑑定をお願い出来ないものかとお伺いした次第です。

こちらの品なんですが」


シャベルはそう言うや腰のマジックポーチから一本のポーション瓶を取り出し、エイジンへと手渡した。

エイジンはそれをしげしげと眺めた後「鑑定料は大銀貨一枚だ」と言って奥の部屋へと入って行くのだった。


<鑑定書>

名前:ポーションEX

詳細:ポーションの上位版、重篤の怪我、切断直後の四肢の接着、古傷の治療等に効果あり。効能はハイポーションに匹敵する。

製作者:シャベル


「これはダンジョン産の物ではないな。ダンジョン産の物の場合製作者欄が空欄となるかダンジョン産と記載される。

その法則は分かっていないがはっきりと制作者が出る事は無い。

ハイポーションと同等のポーション、これがどういった品なのか分からんがお前さんが作った物なんだろう?

直ぐに使用する場合はいいが、人の手に渡ればどういった騒ぎになるのか分からん。取り扱いには十分気を付ける事だ」


そう言い鑑定書とポーションEXを手渡して来るエイジン。


「ありがとうございました。こちらは依頼料と、些少ではありますがお受け取り下さい」

シャベルはポーションEXをマジックポーチに仕舞うと、革袋を取り出し大銀貨二枚分に当たる銀貨二十枚をテーブルに並べる。


「フン、気の使い過ぎだ。冒険者をしてると言ってたな、それじゃダンジョンにも行くんだろう。

だったらこれを持ってけ、光の魔法杖だ。込める魔力で明かりの強さが変わる、魔力使用量はプチライトと変わらない優れものだ。

用が終わったらさっさと帰るんだな、この辺はそうでもないが夜の一人歩きは物騒だ」


そう言い話は終わりとばかりに手を払うエイジン。

シャベルはそんなエイジンに深々と頭を下げると、クリストファー魔道具店を後にするのであった。


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